第87話優しすぎる男
「間宮かあ…」
タバコに火を点け煙を吐き出しながら京山が言う。
「ええ。自分がもっとあいつに目を光らせておくべきでした」
「宮部、お前は悪くねえよ。新藤もな。お前らは俺らの後をしっかりやってると思うぜ」
「いえ、他のOBの皆さんにも『藻府藻府』は九代目までしか知らねえと言われる始末です。これもすべて頭である自分の責任です」
「そんなことねえよ。宮部、お前は自分が思うよりすげえ漢だぜ。もっと自信持てよ。ただ俺と違って周りの人間に気を遣い過ぎてるっつうか、『優しすぎ』るんだろうなあ…」
「器じゃないんでしょう。今回の件でそれを痛感しました」
「新堂」
「はい!」
「お前もそう思うか?」
「いえ。自分はそうは思いません」
「だろ。宮部、お前はお前のやり方で十代目『藻府藻府』をやればいい。単純な話なんだよ。あんま考えすぎんな」
「はい…」
「それで今回二人に来てもらった理由なんだがよ」
「はい!」
「うちのおやじからは『藻府藻府』を巻き込むなって言われとる。ただそれらもひっくるめて『すべて任す』との言葉も貰っとる。『模索模索』がいろいろ『ワルさ』してるのは知っとるな」
「はい!」
「その一つで。あの小僧ども、『悪徳デリヘル』をシノギの一つとしてやっとる」
「はい!」
「そこはこっちで潰したんやが。他にもいろいろと同じようなことをやっとるみたいでな。今、うちの組でそれらを徹底的に調べ上げとる。すぐに小僧どものシノギは全部分かるやろう。そこでかしらからは『堅気さんを最優先に守れ』との指示がでとる。今回ぶっ潰した『悪徳デリヘル』。まあ、雨後の筍みたいにどうせすぐにハコ代えて再開するやろう。それより問題なのがな。その店の女の子たちが『無理やり働かされてた』みたいでな。ぶっ潰した店で働かされていた女の子たちにも『今後何か模索模索に言われたり、関わってきたらすぐにうちの方へ連絡して欲しい。身の安全は必ず保障する』と伝えたんやが。宮部、新藤。間宮ならどうすると思う?」
「今のあいつなら確実にその女の子たちの弱みを握って、『肉球会』さんに言いたくても言えないよう『恐怖心』で支配すると思います」
「だな。そこで今回ぶっ潰した店の女の子の数は十五名。うちの組は十名にも満たない少数精鋭や。女の子のガードにつくとしても頭数が足りんのや」
「つまりその女の子たちのガードに『藻府藻府』がつけばいいわけですね?」
「そういうこっちゃ」
「お安い御用です。すぐに残ったメンバー全員で女の子一人一人にガードをつけます。その女の子たちの住んでるところや職場、学校など細かい情報はありますか?」
「ああ。今ここに持ってきとる。お前らなら悪用することもないと信用できるしな」
「もちろんです」
「それで二つだけ『約束』してくれるか」
「はい!」
「一つ目。女の子たちのガードを頼むがお前らは『守り』に徹してくれ。お前らから相手に手は出すな」
「それは…?」
新藤が京山に質問する。それを宮部が制する。
「分かりました。自分らは言われた通り『守ること』に徹します」
「すまんな。二つ目。間宮には手を出すな。あいつのことは俺がケリをつける」
「分かりました」
「宮部、新藤。すまんな」
「やめてください。京山さんは謝らんでください。京山さんは自分らにとって『絶対』です。京山さんの世界でいうなら『おやじ』なんでしょう。逆に頼ってくださり光栄です」
神内組長からは後輩である『藻府藻府』を巻き込むなと言われている。また『京山、お前にすべて任せる』とも言われている。京山なりに考えた末の判断。
「助かるぜ。十代目。ただ『守り』に徹しろと言ったが。『模索模索』の小僧ども相手には遠慮はいらん。殺す気でガンガンいけ。宮部、新藤。お前らは自分らを過小評価してるみたいやが俺はお前ら十代目を買っとるぜ。他のOBがうだうだ言うてるようやが特にお前ら二人。お前らはすでに現役時代のわしを超えとる。ただ『優しすぎ』るんかな。それがリミッターとなってるのを他の連中が気付いとらんだけや」
タバコの煙を吐き出しながら京山が言う。
「京山さん…」
「わしも普通のガキにはこんなたのめん。お前ら二人を認めとるからこそ頼んだ。頼りにしとるぜ。『十代目』」
「はい!その『役』。ありがたく引き受けさせていただきます」
そして女の子たちの個人情報が書かれた紙を宮部に手渡す京山。
「頼むぜ。なんかあったらすぐに連絡くれや」
「はい!ではすぐに動きますんで。ここで」
「おう」
そして十代目『藻府藻府』頭宮部の指令ですぐに動き出す『藻府藻府』。『肉球会』と『血湯血湯会』。『藻府藻府』と『模索模索』。戦争はすでに始まっている。
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