第88話『いいドス』
十代目『藻府藻府』。副総長・新藤の一声で一斉に動き出す現『藻府藻府』メンバーたち。それぞれが与えられた担当の女の子を探し出し、女の子が気付かないように影からガードに徹する。そしてすぐに宮部の元に連絡が。
「あ、長谷部っす。〇〇ホテルから〇〇さんが今出てきました。ええ。一人でです。普通のカップルなら二人で出てくるのが普通じゃないすか。自分の予想ですがあれは今も働かされてるんじゃないでしょうかね」
「分かった。お前はそのまま〇〇さんをはってくれ。事務所が分かれば連絡くれるか。ただし、そこまでだ。お前一人先走って事務所に乗り込もうなんて考えんなよ」
「了解っす」
十代目『藻府藻府』頭である宮部が作り上げた新しい『藻府藻府』。『クールにキチガイをやれる』十代目は闇に潜り、静かに、そして誰にも気付かれることなく宮部の指示を遂行する。これが京山までの九代目『藻府藻府』との大きな違いである。すでに長谷川以外のメンバー四人からも同じような報告が宮部の元に伝えられていた。
「先走るんじゃねえぞ」
「はい」
十代目『藻府藻府』の現メンバーに対して宮部の言葉は絶対である。間宮率いる半グレ集団『模索模索』にチームを割られたが所詮チームを割るような連中がいなくなったことは宮部にとっても都合がよかった。少数精鋭だが信じられるメンバーたち。
「新堂」
「ん?どうした。宮部」
「京山さんはああ言ってたが、俺は俺のやり方で動くぜ。それでいいな」
「当然だろ。俺ら全員、宮部の言葉通り動くぜ。十代目『藻府藻府』はお前のチームであり、俺たち現メンバーのチームだ。お前の好きなようにチームを動かしてくれ。俺たちはお前の言葉通り動くだけだ」
「そっか。ありがとな」
「おいおい。勘弁してくれよ。同じチームの旗振ってる『ツレ』に気を遣うなよ」
「新堂…」
「大将は大将らしくデーンと構えてくれりゃあいいんだよ。それよりお前」
「ん?」
「肝の部分を隠してるだろ?お前との付き合いがどれだけになると思ってる。そして俺は十代目の副総長。俺で止めとくから。『模索模索』のバックは本職だろ?」
「…」
観念したように宮部が少しだけ沈黙する。タバコを吸いながら。新藤も同じくタバコを吸いながら宮部の返事を待つ。そして宮部が口を開く。
「お前には隠し事は出来ねえな。そうだ。お前の言う通り、『模索模索』のバックは本職だ。それも『血湯血湯会』。あの日本最大の組織だ」
宮部の言葉を驚きもせず冷静に受け止める新藤。
「そっか。上等じゃねえか。宮部。お前はどう思ってる」
「あ。俺らは『看板でケンカ』するわけじゃねえ。ただ、相手が相手だ。メンバーを危険な目に巻き込むことは出来ねえ。ぶつかる時は『俺一人』でいく。OBを頼るつもりもサラサラねえ」
「そっか。じゃあ、その『俺一人』ってのだけは訂正してくれるか。『俺とお前の二人』だろ?」
「へっ、俺よりよええ奴は引っ込んでろっつってんだろ」
「あ?『あの時』は負けたけど今やればよええのはどっちか分からんぜ」
「へへへ…。馬鹿野郎が…」
そして宮部、新藤の二人は吸っていたタバコを中指で弾き飛ばし、普通のバイクにまたがる。
「知らせ通りなら場所は〇〇のマンションだ。長谷部達もそのマンションの近くに待機してる。いくぞ」
「おう」
夜の街を二台のバイクが走り抜ける。
『クールにキチガイをやれる』宮部率いる十代目『藻府藻府』の少数精鋭部隊が日本最大広域指定暴力団『血湯血湯会』をバックにつけた同じく共に走っていた、そしてチームを割った元『藻府藻府』特攻隊長・間宮率いる『模索模索』とぶつかる。
一方その頃。
「え?京都弁すか?」
「そうですよ。『ええどす』ってのは京都の女将さんとかが使うじゃないですかー」
「そうなんすか!?今の今まで『ええどす』って『いいドス』のことだと思ってました…。日本語って難しいっすねえ…」
動画作成をしながら和気あいあいと仲良く盛り上がる田所と飯塚であった。
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