第84話肉球会、動きます。
同日夜。『肉球会』組員に召集がかかる。それぞれが事務所より連絡を受け、一秒でも早くと事務所へ駆けつける。
「お、全員集まったか」
「はい」
神内の言葉に『肉球会』若頭住友が答える。
「うちの『シマ』が荒らされとる。お前ら何やっとる」
「すいません!」
「すいません!」
「わしに謝ってどうする。そんなメンツはとうに捨てとる。問題は『シマウチ』の堅気の皆さんが被害にあってらっしゃることや。住友。どうなってんのや」
「はい。すべて自分らの怠慢です」
「お前らの怠慢はわしの怠慢。まあ、起こってしまったことは仕方ない。時は戻せんからな。なんやったか…。わしも年やなあ。ど忘れが最近多いわ」
「おやじ。『アナザー・ワン・バイツァ・ダスト』かと」
「ああ、それや。まあええ。それで今、うちの『シマ』を荒らしてるのは『模索模索』とかいう半グレや。わしらと違って代紋を掲げとらん。暴対法でも取り締まることは出来んと所轄からも聞いとる」
「すいません。『模索模索』は俺の後輩です。俺の不始末です」
「健司は確か…、『藻府藻府』か。この辺を仕切っとる暴走族の…」
「はい。『藻府藻府』の前の頭は俺がやってました。『模索模索』は俺の後輩で『藻府藻府』を割った小僧が頭です」
「そうか…。ただ半グレの小僧ぐらいではここまで大事にはならん。一日で懲らしめるられる。『模索模索』のバックには同業がついとる。『血湯血湯会』や」
「あの『血湯血湯会』ですか…」
日本最大広域指定暴力団『血湯血湯会』の名前を聞くが昔気質で屈強な組員が揃った『肉球会』の面々は慌てない。
「おやじ」
「なんや。住友」
「今回、うちにチャチャ入れてきてるのは『血湯血湯会』のどこの組ですか?」
「それがまだわしのところには入ってきてない。まあ、直参だろうが枝だろうがぶつかればいずれ上にいく。準構成員を入れれば全国一万人を超える巨大組織や。それに対しうちは十人にも満たない。お前ら。覚悟はあるな」
「へい!」
「うちはどこが相手でも引きません!」
「やったりましょう!」
「まあ待て」
血気盛んな若い衆に若頭住友がストップをかける。そして続ける。
「おやじ。このケンカですが、『血湯血湯会』が半グレを通し、『シャブ』でこの街を汚してます。他にも『強制売春』や『特殊詐欺』、オレオレですね。そういうきたねえもんで堅気さんを苦しめてます。戦争は避けられないでしょうが『筋』はうちにあります」
そこで『肉球会』相談役である井上が言う。
「住友よ。今どき『筋』なんぞ何の意味もありゃあせんぞ。潰されたらそれで終わりや」
「はい。おじきの言う通りです。自分が言いたいのはこれはある意味『チャンス』でもあると言うことです」
「チャンスやと?」
「はい。うちを破門にした敦が飯塚さんと『ユーチューバー』として動き始めております。聞くところによりますと半グレ連中を『退治』する、まあそのまま『退治』するのではなく半グレ連中が経営している『ぼったくりバー』や『強制売春クラブ』を退治する動画を撮ったようで。それがかなり『ウケそう』であると聞いております」
「ほう。それで」
「この戦争を上手く利用すれば『ウケそう』な動画がどんどん撮れるということです」
「なるほど!」
「ただ、最優先すべきは堅気さんの安全な暮らしです。そこを一番に置きながら堅気さんにご迷惑をおかけしないよう『静かな戦争』に持ち込むことがいいと思います」
住友の説明を聞き、大いに納得する昔気質で屈強な組員たちが集まった『肉球会』の組員たち。そして組長である神内が言う。
「住友の言う通りや。まずは街の堅気さんを守ることを最優先とする。同時に飯塚さんと敦も巻き込むことになるやろう。うちでしっかりと守れ。あの二人には健司。お前がつけ」
「はい!」
「あと、お前の後輩は巻き込むな。ええな」
「あのお…、半グレの頭のガキは…」
「お前の後輩やろうが。お前に任す」
「はい!ありがとうございます!」
「後の仕切りは住友、お前に任す。ええな」
「はい。ではまずうちにチャチャ入れてきてるのが『血湯血湯会』のどこの組かを健司以外のもので調べるよう。それから学」
「はい!」
「お前は半グレのシノギを片っ端から調べ上げろ。どんな細かいことでも俺と健司に連絡すること」
「はい!」
「健司はそれを敦に回せ」
「はい!」
「達志は学につけ。状況次第でガードに回ってもらう。半グレのシノギに関わってしまった堅気さんも多いやろうに。状況次第ではうちが総出でガードになるつもりでいるように」
「はい!」
「それからおじき」
「なんや」
「狭山のおじきにこれから会ってきます」
「何?狭山の兄弟に?場所は分かるんか!?」
「ええ。今はこの街でひっそりと過ごされてるようです。おやじ。それでいいですか」
「おう。本来ならわしが出向くところやろうが。なんか考えがあるようやな。お前に任せる」
「ありがとうございます。相手が分かるまで裕木がおやじについてくれ」
「分かりました」
「二ノ宮のおじきには好きに動いてもらいます」
「ああ、そうしてくれた方が動きやすいわ」
「やり方はいつも通りで。どこが相手だろうとうちは一切イモひくな。以上」
「はい!」
すぐに動き出す昔気質で屈強な組員たちが揃った『肉球会』。一方その頃。
「え?『ちっくとっく』?ですか?」
「いえ、『てぃっくとっく』ですよー」
「そうなんですか?自分は今までずーーーーっと『チープトリック』と思ってました。短い動画ですよね?あの背中が重たくなるやつと同じ名前だなあと憶えてましたんで」
「いやいや、確かに似てますがねえ」
田所がいれた食後のコーヒー牛乳を飲みながら和気あいあいと盛り上がっていた田所と飯塚であった。
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