第82話こすぷれ
「間宮さん」
「お。思ったより早かったね」
「いえ。間宮さんの為ならいつでも飛んできますよ。それよりその『左手』はどうしました?」
間宮の左手、『血拓』の後の包帯を見て中山忍が言う。
「ああこれ?『コスプレ』」
「なんすか?『コスプレ』って。それで急ぎの用事ってのは?」
「ああ。馬鹿が潰した店を今日中に再開させるから」
「え?店ってあのぼったくりバーですか?」
「いや、『グッドフェラーズ』も」
「え?『グッドフェラーズ』もって。あそこも潰されたんですか?またあの『肉球会』の連中ですか?」
「そ」
そしてタバコを取り出し咥えて火を点ける間宮。すぐにライターを差し出そうとする忍。
「だからさあ。そういう『古臭い』ことは止めろって言ってんだろ。ダセえよ」
「いえ!大事なことですから!それより『グッドフェラーズ』はいつ?」
「あ?昨日の夜。デリの方はうちで抑えてるハコは他にもあるだろ。電話も転送で、常連はラインで囲ってるよな。そっちで連絡回せば今日中に再開できるだろ」
「はい!で、女の方はそのまま『グッドフェラーズ』の女を移しますか?ミラー店でよければ別の店から回しますが」
「うーん…。それな。『グッドフェラーズ』の女をそのまま移す。ただ、『肉球会』の、元『肉球会』って言えばいいか…、どっちでもいっか。あそこから『今後一切、この子たちに関わるな。関わったら本気で潰す』って言われてさあ。俺も一応その条件を飲んだんだよね。バレるとまた揉めるみたいなんだわ」
「関係ないっしょ。『肉球会』だろうがバレなきゃいいんですよね?」
「まあ、バレてもいいよ。その前に女が喋るとは思えないしね」
間宮率いる半グレ集団『模索模索』は田所との約束を破り、『グッドフェラーズ』の女たちと連絡を取った。ラインには様々な機能がついてある。その中の『タイムライン』と『投稿』。この二つの機能。これを使えば個人の私生活、交友関係、そして個人情報まで容易に入手することが可能となる。
「ほう。この女。体を売りながら、昼間はアイドル活動をしてるのね。うーん。バレるとまずいだろうねえ。人生終わっちゃうね」
「へえ。この人って私生活ではこの人と繋がってるのね。あの『動画』を見たら。大変なことになるよね」
山本愛子ちゃんは幸いラインでその機能を使ってなかった為、再び毒牙にかかることはなかったが、元『グッドフェラーズ』で無理やり働かされていた女の子たちの多くは『弱み』を握られていることでそのままその仕事を続けさせられることとなる。当然、名簿から『肉球会』の人間がすぐに『グッドフェラーズ』で働かされていた女の子全員に「大丈夫ですか?もう無理やり働かされることはありません。『模索模索』やその関係者が関わってきたらすぐにうちの方へ連絡してください。身の安全はお約束しますので」と連絡したが、『弱み』を握られている女の子たちは「はい。大丈夫です」と声を絞り出すしかなかった。
「あとはぼったくりバーも今日中に再開しなきゃあなんだよなあ」
頭をボリボリかきながら困ったような素振りは一切見せずに独り言のように呟く間宮。
「そっちの店も『今日中』に再開すればいいんですね?場所は同じでなくてもいいんですよね?店を再開することが大事なんですよね?」
「そ」
その日、間宮率いる『模索模索』幹部、中山忍は単身で既存のスナックを襲い、居ぬきのまま店を強奪した。
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