第59話セーフ

「それで田所のあんさん」


「はいな。飯塚ちゃん」


「その退治すべき他の組織なんですが」


「ええ」


「どうやってそいつらを見つけていけばいいんでしょうか?」


「そっすねえ。退治するいい動画をピンポイントで撮るには敵の正体をしっかりと把握しないといけないっすねえ。しかも関東で一本独鈷でやってきたうちに気付かれず入ってきてますからね。いや、すべては自分らの怠慢が招いたことですが」


 どこまでも自分たちを責める昔気質で屈強な組員が揃った『肉球会』の元組員である田所。


「ヒントとなるのは…、あの中坊たちが『デリヘル』とか『闇金』とか『キャバクラ』って言ってましたよね。それにあの『ぼったくりバー』にお姉さんが言ってた『オレオレ』ですよね」


「まあ今の時代、手っ取り早く稼ぐにはそういうのをシノギにするのが楽でしょう。『オレオレ』は特殊詐欺で簡単なわりに額がデカいんすよ」


「田所のあんさん」


「はいな。飯塚ちゃん」


 それ好きだなあ、と思う飯塚。


「組チューバー『仁義』として『肉球会』の皆さんのお力を借りるのはしませんが、健司を頼る分には問題ありませんよね?」


「うーん。どうでしょう?あいつは『肉球会』ですし。自分の弟分ですし。でも飯塚ちゃんの『ツレ』ですよね」


「そうです。『ツレ』です。僕が健司、いや、『ツレ』に何かをお願いしたりするのは問題ないと思いますが」


「そっすねえ。自分が健司に…、おやじからは飯塚ちゃんも聞いたようにシマウチを自由に動いていいとの独り言を頂いて、いや聞きましたよね。自分が健司に…、うーん。そっすねえ。飯塚ちゃんが『ツレ』に何かを頼むのはいいと思いますよ」


「じゃあ健司に言って十代目『藻府藻府』に協力してもらうのもセーフですかね?」


「うーん。健司は…。『肉球会』の組員である前に、『藻府藻府』のOBですし…。あいつは後輩を使うこともありますからね。うーん、セーフ!」


「じゃあ中坊の方から攻めていきましょう。あいつら中坊のくせして『デリヘル』遊びに、『闇金』を回らそうぜとか言ってましたよね」


「ええ。彼らの身の安全は自分が保障しますからちょっと飯塚ちゃんの好きなようにやってみてください」


「田所のあんさん」


「はいな。飯塚ちゃん」


 本当にそれ好きだなあ…、それも神内さんの教えなのかなあ、と思う飯塚。


「この町の『デリヘル』は大体把握されてますか?」


「ええ。うちのシノギの一つで『無料情報館』がありますんで。ほら、あの昔のチケットセンターって知りませんかね?」


 チケットセンターは知らないけれど『無料情報館』にはたまにお世話になってますよと思う飯塚。


「あ、知ってます。この町に何軒かありますよね」


「ええ。繁華街に何軒かあります。そのうちの二軒はうちがやってるんですよ」


「へえー。そうなんですね」


「あそこは学が仕切ってるシマですから。それで知ってます?『無料情報館』って違法店は扱わないよう所轄に届け出確認書を提出している店しか広告が出せないんす。最近出来た店、新規店を調べれば何か分かるかもしれませんね。あ、もちろん自分は『肉球会』を破門になった身ですからね。これも独り言ですよ。うちの学に聞けば何か分かるかもなあ。学は健司の兄貴分だよなあ。健司は飯塚ちゃんの『ツレ』だよなあ」


「ですね!『肉球会』の皆さんに頼ることは出来ませんが『ツレ』に頼るのは…」


「セーフ!」


 ジェスチャーもさまになってきた田所。しかも二回、手を広げて『セーフ』のジェスチャーをする田所。


「ですよねえー!」


「あ、ちなみにうちのおやじから『草野球ではインプレ―でプレーが続く場合、セーフかアウトか分からないと次のプレーに影響が出るから分かりやすいようにジェスチャーは大きく、最低二回はやるように』と厳しく教わってますんで。セーフ!」


 さ、さすがだ…、神内さんは…、と思う飯塚。その時、田所の携帯が鳴る。携帯に出る田所。そしてスピーカーモードでもないのに飯塚にまで聞こえる声。


「田所さん!助けて!うちの店が!うちの店長さんが!」


「分かりました。すぐ行きます。五分で行きます」


 そう言って電話を切る田所。


「どうしましたか!?田所のあんさん!?」


「更生した例の店のお姉さんからです。ちょっと緊急事態のようです。自分は出てきますね」


 そう言って飯塚の部屋を飛び出す田所のあとを飯塚も追う。


「田所のあんさん一人にいい格好はさせませんよ」


「頼もしいっすね。兄弟」


 全力で走る田所と飯塚。雪駄でものすごい脚力を見せる田所。根性で追いかける飯塚。走れ!組チューバー『仁義』。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る