第57話手打ち
タバコと飲み物と食料を買いに行き、戻ってきた田所。
「あ、すいません。お疲れ様です。結構時間かかりましたね。コンビニが近所にあったと思うんですが場所分かりましたか?」
「いえ、スーパーまで行ってましたよ。その方が安いでしょ」
おお!田所さんは意外と倹約家なんだ、と思う飯塚。同時に「え?スーパーって結構遠いよな?」とも思う飯塚。
「え?スーパーまで行ってたんですか?かなり遠かったですよね?」
「いえ。ダッシュで往復しましたからね。すぐでしたよ」
いやいや。一キロ以上はありますよ。往復二キロですよ。それに両手にパンパンの袋を持ってるじゃないですか!と思う飯塚。
「え?その荷物でダッシュですか?」
「あ、これぐらいなら普通ですよ。自分が下積みの頃は時間とかすごく厳しく教わりましたからね。それより今日はご馳走ですよー。久しぶりに腕を振るいますかあー」
え?田所のあんさんの手料理?と思う飯塚。机の上にレシートをしっかりと置き、一品ずづ確認する田所。
「野菜が…、野菜が…、野菜が…、あのお…、飯塚ちゃん?」
「はい?」
「自分が一生懸命『ボケて』いるんで。ツッコんでくれてもよくないっすか?」
ああ、映画『竜二』ですか…、と思う飯塚。
「すいません!田所のあんさん!もう一回お願いします!ふってください!」
「もー、頼みますよー。飯塚ちゃーん。野菜が…」
「うるせえ!」
「そうそうそうそう。『肉球会』では絶対誰かしらがツッコんでますからね」
そうなんだ…、と思う飯塚。
「でも本当にすごい買い物ですね」
「ええ。白菜にニラやもやしは安くて栄養満点ですからね。あと豆腐。これは欠かせません。糸こんにゃくにうどんに味噌に納豆にきな粉に牛乳ですよね」
大豆好きなんだなあと思う飯塚。
「あとは『肉』もあります!じゃじゃん!ひき肉が三割引きだったんすよ!」
平和だ!あれだけ恐ろしい京山伝説を聞かされた後に京山の兄貴分である田所のあんさんが三割引きのひき肉で喜んでいる!これを平和と言わず何が平和だ!と思う飯塚。
「あ、ちなみに『鶏ひき肉』ですんで。今日は『豆腐ハンバーグ』ですよ!」
「田所のあんさんって料理するんですね」
「あ、これも全部組で教わりました。自分はマメで几帳面ですからね。それもこれもすべておやじのおかげです」
「へえー。やっぱり部屋住みだったころに料理とか覚えたんですか?」
「ええ。料理から洗濯から掃除まできっちり叩き込まれましたね。几帳面でないと務まりませんからね」
「へえー。几帳面なんですね」
「ええ。おやじからは『クリリンが十八号を止めてしまうリモコンボタンを踏み潰すシーンがあるだろう。あれは地面にほおり投げてそのまま踏み潰してたが、もし偶然ものすごい確率を引いてしまいうっかりボタンに垂直に踏みつけたらどうなる?リモコンを破壊するどころか十八号が停止してしまうだろう!それぐらいちゃんと事前に確認するように!』とよく言われたもんすねえ」
懐かしそうな表情を浮かべる田所のあんさんを見ながら『確かに…』と思う飯塚。それから思い出したかのように電話を取り出す田所。
「あ、すいません。ちょっと電話なんで奥に行きますね。いいっすか?」
「あ、はい」
そして隣の部屋に移動しぼそぼそと携帯で誰かと会話をしている田所。そしていきなり田所が大声を出す。
「え!ホンマっすか!?『手打ち』っすか!?」
え?『手打ち』?手打ちって仲直りってこと?と思う飯塚。
「え!?どっちすか!?『手打ち』じゃないんすか!?」
え?え?え?揉めてる!?とビビる飯塚。そして携帯を切り、暗い表情で戻ってくる田所。のっぴきならない状況に飯塚は思わず訊ねる。
「田所のあんさん…。『手打ち』って…?どういうことですか?何かあったんですか?」
「ええ…。残念ながら『手打ち』じゃありません…」
とにかく『仲直り』はなくなったんだ…、と思う飯塚。
「そうですか…。残念ですね…」
「ええ…。『手打ちうどん』だと思ったんですが…。このうどんはやっぱり冷凍でした…」
思わずポカーンとしてしまう飯塚であった。
「(あ、そっちですか…)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます