第56話思い出

 半グレ集団『模索模索』の頂点に立つ男。そして十代目『藻府藻府』でもある男。それを使い分けてきた男が間宮である。


「間宮さん。『藻府藻府』を割ったのはちょっと早かったかもしれませんね」


「あ。そうなのか?」


「いえ。ただ『藻府藻府』はもっと利用出来たかと…」


「今の十代目『藻府藻府』とうちがぶつかれば確実にうちが勝つ。そんな今の『藻府藻府』に興味ある?」


「言われてみればそうですね」


「それより俺が宮部の首をとって改めて十一代目『藻府藻府』の頭もとってやるよ」


「間宮さん。ついていきますよ」


「おう。お前らにはいい夢見させてやるよ。金も女も思いのままによお」


「あざっす!」


「おう。そこの二人にはとことん『ヤキ』いれて『模索模索』がどういうもんかを教えてやれ。終わったら適当に捨てて来い」


「はい」


 そして間宮がタバコを取り出す。差し出されるライターの火でタバコに火を点け、ふと思いによぎる。


「(京山さん…)」


 自分のために体を張ってくれた先輩。京山がいなかったら自分は確実にポン中としてのたれ死んでいた。自分のためにと『肉球会』にまで単身乗り込んでくれた先輩。



「京山さん!」


「おう。間宮。あれから薬には手ぇ出してねえよな」


「オス!」


「そうか。止めれたか。よかったな!」


「オス!」


「そっかそっか。そうなら十代目も安泰だな」


「え…?京山さん、引退されるんですか…?」


「ああ。近いうちに『肉球会』の盃をうける。うちのOBもほとんどがヤーさんになったけど『肉球会』の盃を貰った先輩はいねえしな」


「でも…。京山さんは普段から『自分より弱い奴をアニキって呼べんのか』って…」


「そうだな。そんなことも言ってたな。いやー、世の中広いな。『肉球会』はすげえわ。俺より強い奴がゴロゴロいるし、一番下の方も俺より全然強いわ」


「…」


「じゃあ俺は行くからよ。お前も薬には二度と手を出すなよ。じゃあな」


「…はい…」


 それから間宮の中で迷いが。『自分の憧れであり恩人である京山さんは変わってしまったのか?』、『肉球会とはそれほどのもんなのか?』。そして十代目『藻府藻府』頭の座は宮部が勝ち取った。確かに宮部も新藤も強い。道具なしのタイマンなら勝てない。ただ間宮は『どんな卑怯な手を使ってもいい』、いわば『何でもあり』なら負けない自信があった。


「(認めねえ。認めねえ。認めねえ。認めねえ。認めねえ!最強だった京山さんの跡目は俺が継ぐんだ!)」


 間宮は京山や幹部の抜けた新しい『藻府藻府』、十代目『藻府藻府』に不満を常に抱えていた。


「ぬるすぎる」


 俺なら京山さんのようにガンガンイケイケで全国制覇を目指す。なのになんだ?新しい十代目頭の宮部は京山さんのように『キチガイ』にはならない。なれないのか?このヘタレ野郎が。それでも最後に京山にいわれたこと。


「間宮。宮部を助けたってくれな。頼むぜ」


 その言葉がなければすぐにチームを割っていた。京山の言葉があったから今まで我慢してこれた。OBが口々に言った。


「わりいな。『藻府藻府』は九代目の京山までしか名前知らねえんだわ」


「宮部よお。俺ら舐められてんだぜ。それでいいのかよ!」


「間宮。俺には俺のやり方がある。不満があるならいつでも抜けていいぞ」


「ああ!大ありだよ!その辺の小僧まで言ってるぜ!十代目『藻府藻府』は腰抜けの集まりだってな!」


「言いたい奴には言わせとけ」


 間宮の中に芽生えた迷いは不満となりいつしか狂気と化していった。宮部のやり方では伝統ある『藻府藻府』はダメになる。だったら俺が今の『藻府藻府』をぶっ潰して新生『藻府藻府』を作ればいい、と。そして間宮は別動隊として『藻府藻府』とは別に半グレ集団『模索模索』を作った。



 タバコを吸いながら過去に思いをはせていた間宮。全殺しにされている「ぼったくりバー」の従業員二人を見ながら心の中でつぶやく。


「すいません。京山さん。いつかあんたとぶつかることになります。もう、『あの頃』には戻れんのです」


 間宮は京山との約束を一つだけ守っていた。今の間宮は薬の類は一切やっていない。

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