第43話やれやれだぜだぜ

「あ、『ボトル』お願いします」


 田所と飯塚はあのぼったくりバーに連日飲みに来ている。何しろ『ボトル』を入れているし、あの日から明朗会計になったので新店の力になってあげようとしている。もちろん飯塚の『ぼったくりバーを更生させて健全営業させて繁盛店になってもらった!』という企画の一環も兼ねている。


「君たち。あれからは真面目にやってるようだね。上の人間からは連絡とかはないかい?」


 真面目に頑張っている人には仏の田所。数日前には漫画のようにクルクル八回転ぐらい回りながらぶっ飛ぶぐらいぶん殴り、「むちうち」で思い切り痛い目を見せた相手にも更生したならそれを応援する。


「はい!あれから上の人からはまったく連絡はありません!それにこのお店の営業権は僕たちのものになりましたので。これからは健全営業を頑張ります!」


 へえ、この人たちが真面目にねえ。と思う飯塚。?まさか!?すぐにあれから『肉球会』の人たちが動いたのでは!?と思う飯塚。お店の営業権まで?それは大きな力が動かないと無理でしょう。と思う飯塚。田所を見ると今までシマを汚していたぼったくりバーを壊滅させ、しかも健全営業のお店に変えたことと、実際に働いている二人が真面目にやっていることに気分よく『ボトル』を飲んでいるように見える飯塚。


「いいですか。お二人さん。これはうちのお父さんの教えですが『マジゼニ』ですよ」


 え?と思う飯塚。あの野球漫画の…。と思う飯塚。『マジ』は『真面目』でしょ?『真面目に働くと銭が落ちてる』ってことですか?と思う飯塚。


「『真面目に働いて銭を稼ごう』の精神ですよ。頑張ってください。あ、おねえさんもどんどん飲んでください」


「あ、はい…。いただきます…」


 『マジゼニ』…。神内さんは本当に守備範囲が広いなあ…。いや、野球にかけてないよ。と思う飯塚。そして今後の展開について田所と話し合う。


「前回の動画もそろそろ完成しそうですし、今の『ぼったくりバーを更生させて健全営業させて繁盛店になってもらった!』も面白い企画になりそうだと思うんですが。新しいことを最初はどんどんやっていかないとダメなんす。田所のあんさん」


 それが一番言いやすいので今は『田所のあんさん』と田所を呼ぶ飯塚。


「え?そうなの?飯塚ちゃーん」


 とりあえずそれが一番しっくりくるのでそう呼んでもらうようにした飯塚。田所の言葉に返事する飯塚。


「そうなんす。やっぱり『人気ユーチューバー』は毎日のように新しい動画をどんどん更新するんす。最初にストックをたくさん作る必要があるんす」


 実際、あれから動画はまだ撮影していない。いくつか候補はある。


「じゃあ、飯塚ちゃん。次は『闇金のお金を踏み倒してみるどころか社会福祉に寄付して目を覚ましてもらった!』とか『悪徳デリヘルを改心させて、家庭教師になってもらった!』とか『悪徳キャバクラをおじいちゃんおばあちゃんが集まるカラオケ教室にしてみた!』もいっとくかい?」


 いろいろ楽しそうなことが待っているなあと思う飯塚。でもそれだけじゃあまだ全然足りないと思う飯塚。


「『社会の闇』系もいいっすが幅広くっすねえ。いろいろ考えてるんすが」


 そこでおねえさんが食いついてくる。


「あ、あのお…。お兄さんたちは『ユーチューバー』なんですか?」


「ええ!『人気ユーチューバー』の座をこれから狙っているんです!チャンネル登録お願いします。あ、いいと思ったらでいいですから。高評価も低評価もありがたくいただきますので。ダメだと思ったら評価やチャンネル登録はお控えください」


「そうなんです。今はその準備段階なんです」


「へえー。そうなんですね。チャンネル名は何て言うんですか?」


「組チューバー『仁義』です!」


「すごくかっこいいですね。正義の味方っぽいですし」


「『ボトルマン』が出てきますからね!よろしくお願いします!」


 『ボトルマン』にやたら拘るなあと思う飯塚。でもいろいろ考えないとなあと思う飯塚。


「そういえば。私のおばあちゃんのところに『オレオレ詐欺』っぽい電話が最近あったみたいでして…」


「なんですと!?ちょっと詳しく話を聞かせてもらえませんか。まったく…、『やれやれだぜ』だぜ…」


 お!またこの街を汚している『悪』が!と思う飯塚。同時に「ネタだ!」と思いつつ、神内さん…、「やれやれだぜだぜ」って…、あれですよね。と思う飯塚。


 田所が新しい『ボトル』を注文し、おねえさんの話を詳しく聞く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る