第44話どっとこむ

「そうなんですか?」


「ええ。なんとか『そういう詐欺』みたいな電話があるんだよと私が気付いたから助かったんですけど。おじいちゃんもその気になってすぐに『二百万』だったかなあ。用意してました。ちょうど『お小遣い』を貰おうと私がその場に行ってたから未遂で済みましたけど」


「おねえさん。まず、『お小遣い』はいいですが。おねえさんも同じように知りながら『悪いこと』をしていたことは忘れてはいけません」


「…。すいませんでした」


 さすがだなあ。と思う飯塚。そして『オレオレ詐欺』までこの街で…、この街が汚されている!と思う飯塚。『肉球会』の皆さんの目を狡猾にすり抜けてなんてことだ!と思う飯塚。と同時に『ネタ』だあ!と思う飯塚。


「まったく。『やれやれだぜ』だぜ…。どっとこむ」


 え?と思う飯塚。


「あのお、田所のあんさん。今のは?」


「ああ、自分らもいつまでも『アナログ』ではだめだとお父さんからの教えでして。『あいてぃ』ってやつですかね。あれ?自分、『おかしなこと言ってます?』」


「いえ。全然大丈夫です」


 反省していたおねえさんもポカーンとしている。


「すいません。ちょっと真面目に頑張っているあの二人を呼んでもらっていいですか?」


「はい。すいませーん」


 その間、口癖のように、呪文のように繰り返す田所。


「『やれやれだぜ』だぜ。どっとこむ。『やれやれだぜ』だぜ。どっとこむ」


 田所のあんさん…、神内さん…。と心でツッコミを入れる飯塚。そして急いで駆けつける更生した二人の元ぼったくりバーの店員。


「お仕事中にすいません。皆さんのもともといたグループですか?そちらでは『オレオレ詐欺』もやってましたか?」


 顔を見合わせながら首を傾げる元ぼったくりバーの店員で今は更生した店員二人。


「さあ…。僕らは『闇金』や『デリヘル』の方は聞いてましたが『オレオレ詐欺』は初耳です。あ、この子からは聞いてましたが…」


「どうやら本当に知らないみたいですね」


「もちろんです!知ってましたら何でも言いますので!」


「お仕事中にすいませんでした。あ、他のお客さんもいらっしゃったみたいですね。頑張ってください」


「はい!頑張ります!」


 それからちょっとやりきれなくなったのか。自分たちの不甲斐なさを責める田所。


「畜生ぉ。知らなかったでは済まされないですね。これはお父さんも含め、自分たちの怠慢です。もっとしっかりと目を光らせていなかったから…。まっとうに働いてお金を貯められたご高齢者の方からお金を騙し取るなんて…。ご高齢者は国の宝ですよ!飯塚ちゃん!そう思いませんか!?」


 神内さんの教えは本当に素晴らしいなあと思う飯塚。そしてこの街を汚されていることに自分たちを責める田所を見て、改めて昔気質で屈強な組員たちが揃った『肉球会』は一本筋が通っているなあ、そしてそんな人たちの目を狡猾にすり抜けて悪事を働く組織が…。と思う飯塚。許せない!と思う飯塚。


「おねえさん。『ボトル』お願いします。ちょっと今日はとことん飲みます」


 そう言ってどんどん酔っぱらう田所がいい感じで出来上がってしまう。


「許せねえ!どっとこむ。許せねえ!どっとこむ」


 人間臭い田所のあんさんが好きです。今日は好きなだけ飲んでください。と思う飯塚。


「おねえさん。すいません。カラオケありますか?」


「あ、ありますよ。歌われますか?」


「すいませんね。じゃあ、これをお願いします。デュエットですけど大丈夫ですか?」


「あ、大丈夫ですー」


 そう言ってお姉さんにカラオケの曲リストの本を開いてページを指さす田所。ああ、田所さんもカラオケ歌うんだ。と思う飯塚。そう言えば昔気質で屈強な組員たちが揃った『肉球会』の皆さんはカラオケ好きなんだよねえ。と思う飯塚。井上さんは『ラルク』、『宇多田』、『エックス』とかあの声で歌うんですよねえ。と思う飯塚。田所のあんさんはどんな曲を歌うんだろう?と思う飯塚。まあ、お酒も入ってますし、怒りもありますし、今日は歌って発散してください!と思う飯塚。そして懐かしい、よく聞くメロディーが流れだす。


「のびのびたーのーはー♪あなたのせいよー♪」


 いや、そのパートはおねえさんのパートでしょ?と思う飯塚。と同時に『のびのびたーのーはー』って!と思う飯塚。と同時に神内さんの教えは本当に幅広いなあ。と思う飯塚であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る