第30話ガキ

 とんでもないことをどんどん白状するガキども。調子ぶっこきまくっていた中坊軍団。


「たまにカツアゲとか、親の財布から金を盗んでました…」


「そういうことはよくないですよ。やめましょう。それで、『キャバクラ』とか『デリ』と言ってましたが」


 すっかり敬語モードになっている田所。何故だろうと思う飯塚。


「それは…。先輩がたまに連れて行ってくれたので…」


「あああ!?うちのメンバーか!?」


 十代目「藻府藻府」ナンバーツーの新藤がガキどもにものすごい怒声を浴びせながら聞く。


「え、あ、いや…」


 さっきの調子ぶっこきまくりはまったく息をひそめ、カツアゲされる側の優等生のように、震える小動物のように言葉を濁す中坊軍団たち。新藤がこーちゃんと呼ばれていた男の前にしゃがみ、目線を合わせる。


「おい。こーじ。俺の目ぇ見て言えよ。うちのメンバーか?誰や?」


「すいません!それは勘弁してください!新藤先輩!」


 このこーちゃんはこーじと言うのか。と思う飯塚。容赦なくこーじの頬にびんたを入れる新藤。


「誰や?」


「勘弁してください!」


 パシーン!その繰り返し。上半身裸の筋肉隆々の新藤のガチびんたの音が心地よく聞こえる飯塚。いいぞ!このガキが!ざまあみろ!と思う飯塚。


「新藤さん。暴力はいけません。やめてください」


「しかし…。分かりました。田所さん」


 この場を田所に預ける新藤。『大人』であり、昔気質で屈強な組員たちが揃った『肉球会』の組員という肩書を持つ田所の敬語が中坊軍団の心に重くのしかかる。


「すいません。痛かったですか。殴られれば痛いんです。当たり前のことです。歩きタバコも本来なら別にいいと思います。ただ、それを迷惑と思う人もいるんです。人は知らないうちに誰かに迷惑をかけて生きるものだと教わりました。自分の存在は迷惑でしかありません。くずです。最低のくずです。こんな大人になってはいけません。ただ、先ほど、新藤さんが皆さんのことを『ガキ』と呼ばれていました。『ガキ』の部分は大事だとも教わりました。世の中は小学生でも分かるような理不尽なことでもまかり通ることが多いです。そんな世の中に偉い人たちはしてしまったのです。皆さんもいつか大人になると思います。でも『ガキ』の部分は大事です。大人になっても自分が『これは許せない』と思ったことは譲らない大人になってください。自分はくずですが『ガキ』です。皆さんのような未成年を利用させるような『お店』は『許せない』と思っています。くずなりの怒りです。『闇金』との言葉も聞きました。もう一度お聞きします。皆さんの安全はこの自分が責任をもって守ります。詳しい話を正直にお願いします」


 田所の『ガキ』を自覚した、くずを自覚した言葉が、色眼鏡で見ない、対等に接している姿勢が中坊軍団たちの心に響く。身の安全もこの人が守ってくれる。この人は信じられると思う数分前まで調子ぶっこきまくりだった中坊軍団。そしてこーじが口を開く。


「間宮さんです…」


「やっぱりあいつか…」


 新藤は大体その名前が出ることを分かっていたようだ。間宮って誰?と思う飯塚。


「田所さん。間宮ってのは『藻府藻府』の特攻隊長の人間です。ただ、自分の教育が行き届いてないこともありまして。うちの総長の反目に回ろうと思っている人間です」


「そうなんですか。もっと詳しく教えていただけますでしょうか?」


 飯塚はいろいろなことを考えた。そして撮影をとめる。田所の言葉は飯塚の心にも響いた。先ほどまで撮影していた動画は世に出せば絶対受けると思っていた。でもそれをすると自分はくずになると飯塚は思った。計算している時点で『ガキ』ではないくずだ、それは最低だと飯塚は思った。


 昔気質で屈強な組員たちが守る街が汚されている現実を知る。それは自分たちの縄張りを守るメンツではない。純粋に自分たちが守りたい街を守れなかった不徳を責め、それを今からでも排除しなければいけないという純粋な思いであると飯塚にも分かる。『ガキ』どもから詳しい話を聞かされる。最後に田所が言う。


「新藤さん。この場は自分に仕切らせてください。皆さん、約束は守ってください。歩きタバコは止めましょう。喫煙も法律で決まっています。二十歳まで我慢してください。どうしても我慢できないときは隠れて吸ってください。自分も『ガキ』の頃から粋がって吸ってました。恥ずかしいです。今思えば。皆さんには明るい未来があります。可能性は無限にあります。『ガキ』であり続けることは大変なことです。これからも頑張ってください。何かありましたらいつでも街の大人に相談してください。信用できる大人にです。少なくともここにおひとり、立派な信用できる大人である『ガキ』の方がいらっしゃいます」


 田所の言葉を聞き、新藤が口を開く。


「お前ら、なんかあったら俺に言うてこい。田所さん。自分は京山さんにしっかりと教わりました。それを今、田所さんから改めて教わりました。ありがとうございます」


 昔はやんちゃだった。それが今は『底辺ユーチューバー』をやりながらも会社で働いている。自分は利口な生き方を覚えてしまった。見て見ぬふりすることも覚えた。空気を読むことも覚えた。それは正しいのか?答えは分からないけど大事なことを教わったと飯塚は思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る