青騎士と呪われた王子

 一作目「みひつのこい」で変化球ハッピーエンドを出したので、今度は王道ハッピーエンドを、ということだけ最初に決めました。

 王道ハッピーエンドといったら童話だろう、と思い、目の悪いお姫様とその従者、みたいな話を書きはじめたのですが、思ったよりも膨らみ過ぎて一万字にまとめられそうになく、没。


 じゃあ評議員に謎の念者さんもいるし、美少年を書きたい。先述の没作からちょっと引っ張って、盲目の美しい王子と騎士にしよう。とこうなりました。

 古い時代だと、病気って呪いに近いと考えられていそうだし、神に近い王族が「光を失う(失明をこう表現するのが好き)」のは色々としんどいことになりそう、というスタートだったと思います。


 少し前に書いた「灯台守の少女はひとり」が、設定を詰めすぎて情景描写があんまりできなかったのを反省し、今回はそこを頑張るのが目標の一つでした。

 巡礼について少し調べたんですが、古代ギリシャの巡礼とサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼を少しずつ参考にしたりしました。サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路は写真や経験者のブログも結構あって、ありがたかったです。一神教と多神教では色々違うとは思うのですが。あと記憶の片隅にFFXもありました。

 しかしやはり、一万字で巡礼の旅をするのは結構難しかったです。野宿しながらの会話とか、貴重な水浴びシーンとか、岩だらけの道を青騎士に抱えられながら越えたりとか、アーシュカはじめての狩りとか、中長編なら書いただろう話を泣く泣くカットしました。青騎士の故郷の話はもっと詳しくやりたかったところですが、あんまりそこに割くわけにもいかず。しかしこのエピソードが刺さる人には刺さってくれたようで、嬉しいです。

 謎の金閣寺さんにも「読者を旅に連れて行ってくれる物語」と言っていただけて、良かった成功した!と小躍りしました。ファンタジー異国情緒を感じていただけたなら幸い。


 アーシュカ、という名前は完全に語感で付けました。そこに「朝焼け」という意味を当てています。現実に無さそうなファンタジックな名前、というのをほとんど作ったことがないので難儀しました。

 金髪碧眼の美少年、一度は書いてみたかった。強い意志と賢さがあり、人心を掴む才もあったはずで、失明しなければ名君になったことでしょう。

 実のところ、青銅の国の王族だったがために「神の呪いを受けた」とされてしまいましたが、実際は失明する病気になってしまっただけなので、巡礼しても目が見えるようになるはずはないのです。呪われていないのだから、呪いを解くこともできない。けれどアーシュカは青騎士と出会い、塔を出て、国を出ることもできたし、青銅の国は第二王子を王位につけることもできたので、巡礼は結果的に全方位ハッピーエンドなのです。


 青騎士は、もともとの名前は特に決めていませんが、故郷の国はドイツっぽいイメージ。「○騎士」の○に何を入れようか迷いつつ、なんとなく絵が想像しやすい色に決めて、語感とFF4のカインとかを思い浮かべて、アーシュカの瞳にも呼応しやすそうな青に。この辺の連想で、アーシュカの国も「青銅の国」になりました。

 左右で横顔の違う男。冒頭でなんとなく察しが付く描写を入れつつ、後半に傷を明かします。なんていうか、青騎士には業を背負わせたかった。長く騎士として生きてきたので、人に仕える精神が出来上がっているタイプ。

 彼の今の顔を知るのはアーシュカだけなので、その描写は触覚だより。ここは気合いを入れました。ハピエン厨さん、念者さんにも褒めていただきほっとしています。ラテン系美少年のアーシュカに対して、ゲルマン系美青年の青騎士、という遠い国から流れてきた感を、ここでも出したかった。

 新たに得る名前は、王子でない朝焼けアーシュカと並び立つ存在として、そして新たな旅立ちの希望を示唆する名前として、夜明けメルヒス。この名付けを書くための一万字だったと言っても過言ではありません。名付けと特殊ルビが好きな人に刺されー!と念じながら仕込みました。いかがでしたでしょうか。

 メルヒス、という音はもう全然思いつかなかったので、カタカナ名前自動生成機能から四文字指定で何度か吐き出されたものからこれっぽい!と思ったものを選びました。


 先にアーシュカは神に呪われていなかった、と書きましたが、「呪いが解けなければ死ぬしかないと思わされる」という呪いは人々によってかけられていて、青騎士はそれを解くことには成功したわけです。そしてアーシュカは青騎士に、彼が欲しかった赦しを与えた。そういうお話です。


 巡礼の終わりをクライマックスかつオチにしたかったので本編はあそこまでなのですが、後日談を書くならば、海を越えて、誰も二人を知らない国でひっそりと居を構えて、メルヒスは甲冑も脱いじゃって、二人で幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、のはず。


 皆様が彼らと旅した気分になってくださったら、こんなに嬉しいことはありません。

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