第24話 ドS勇者と盗賊たち
「まさか、三年前の犯人がシアードだったなんてな……」
「俺たちは見事に全員騙されてたってわけだ」
予定通り、シアードの遺書が見つかったらしい。
僕がギルドに戻ると、カルザフとバリンガスが互いに顔を見合わせていた。
他の盗賊たちの反応も似たり寄ったりだ。
「ただいまー。ヴェルマを捕まえてきたよー」
「おお、小僧! 本当にやり遂げたのか!」
ヴェルマを連れていくと、カルザフを含めた全員がびっくりしていた。
本当に生きているとは思っていなかったのが、ありありと見て取れる。
「でも、聞いて驚け。支部長殺しの犯人はヴェルマじゃなくて、シアードだったんだ」
「うん、ヴェルマに全部聞いたよ。あと、シアードにはもう裏切りの代償は支払わせた」
と、僕が言うとカルザフ含む盗賊たちは唖然とし、バリンガスに至っては大笑いとともに拍手し始めた。
「こいつは参った! 支部始まって以来の大型新人の誕生だな!」
ギルド最年長のバリンガスが僕を褒めたたえると、他の盗賊たちも「まさにナイトフォックスの再来だな」とか「その幸運を俺たちにも分けてくれよ」と口々に騒ぎ立てた。
うーん、真相は全部知ってたけど認めてもらえるのは素直に嬉しいね。
ちなみにグランドルが魔人で、しかもギルドの金を横領していたって真実はシアードの遺書には書かず、闇に葬った。
もちろんヴェルマの正体も隠蔽する。
真実を表に出したところで、僕には何一つメリットがないしね。
「ヴェルマ……すまねぇ。俺はお前を信じ切れなかった」
「カルザフ、いいのよ。シアードにいいようにやられたのはみんな同じだわ」
カルザフとヴェルマが握手を交わした。
これでヴェルマは望み通り、盗賊ギルドに復帰できたわけだな。
「さて、そうなると新たな支部長はヴェルマにやってもらうのが筋だと思うが……」
「私はギルドを随分離れていたわ。カルザフ、あなたこそが相応しいんじゃないかしら」
「冗談じゃない。俺はそういうのは性に合わないんだ」
ふたりが支部長職を押し付け合っている。
ちなみにヴェルマは使い魔としては放し飼いに近い状態なので、やる気がないのは本当みたい。
彼女を支部長に立てて、僕が影から操るのがいいのかもしれないけど、どうしよっかなー。
なんて思ってたら。
「俺はユディに一票だ」
バリンガスが、とんでもないことを言いだした。
「えっ……僕が!? 無理無理! だって、15歳で成人したばかりの新人盗賊なんだよ!?」
「小僧が支部長か。そいつはいい! 俺も賛成だ」
まさか、カルザフまで……!?
「俺も」
「俺もだ」
「さんせー!」
み、みんな。ちょっと待ってほしい。
僕はそういう責任あるリーダーとかをやるのは嫌なんだ。
面倒事は上に全部押し付けて、おいしいところだけ横から掠め取る黒幕が性に合ってるんだよ!
「本気なの? 彼、まだ若すぎるんじゃないかしら」
おお、僕の意思を汲んだ
「なに、支部長と言ったって事務仕事をするわけじゃないんだ。いけるさ。それに面白そうだし」
「それだったら、まだ私がやるわよ」
「おい、ヴェルマ。お前こそ小僧に借りがあるんじゃないか?」
「それは……まあ、そうね。確かに。あなたの言うとおりだわ、カルザフ」
ちょっ……ヴェルマ、もうちょっと頑張ろうよ!
(申し訳ないけど、これ以上の助力は難しそうだわ)
頭の中でヴェルマの声がする。
これは《伝達のギフト》の効果だ。そうか、使い魔は従徒と見なしていいから……って、今はそんなことはどうでもいい。
僕がこのまま支部長に担ぎ上げるのを見過ごすな! お前使い魔だろ!
(ええ、あなたは私のマスター君よ。だからもう、私にできる範囲のことはしたわ)
クッ、従徒と違って使い魔はそこまで頑張ってくれないのか?
(支部長の着任をどんな手を使っても阻止しろと言うのなら、彼らを殺すしかないわ。私はそれをしたくない。どうしてもと言うなら、あなたが命令すれば私の意思を捻じ曲げることができるわ)
それは……いや、いい。
ヴェルマひとりが反対し続けてもしょうがないもんな。
こうなったら自分で頑張るしかない!
「だったらバリンガスでいいじゃないか!」
「残念だったな、ユディ。俺は情報屋で故買屋だから、支部長の兼任は無理だ」
「そんなの知らないよ、バリンガスやってよー!」
「観念しろ。ここの誰もがお前を認めているんだ」
そんな……僕の無責任で自由な生活が……。
(もう逃げられやしないわよ、マスター君。諦めましょ)
ヴェルマの頼りない思念に、僕はさらに頭を抱える。
ここで支部長にまつり上げられるのは本当に予定外だ。
今回の任務達成を持って、みんなに認められるはずだったのに……。
いや、認められすぎちゃったからこその支部長なのか?
「さて、ユディ」
バリンガスがバーカウンターの上にドサッと袋を置いた。
なんか、ものすごくずっしりしてる。
「ひとまず、これが着任祝いを兼ねた今月分の上納金だ」
「えっ、上納金?」
「ああ、盗品売買の取り分のうち、1割は支部長の懐に入るってルールなのさ。普段は月一で支部長室の金庫に随時入金されるから、好きなときに持って行ってくれ」
上納金……お金……。
「さて、と。こいつはお前が盗賊をやめるって言い出すまでとっておくつもりだったんだが……」
カルザフまで自分の保管庫の中から金貨の袋を取り出した。
かなり大きい。
「お前がタイバーデン伯の屋敷で盗んできた宝飾品を売った金だ。15000ゴールドぐらいはある」
「えっ? あれってカルザフの懐に入ったんじゃなかったの?」
「馬鹿言え。自分が盗んだわけでもない取り分を後輩からピンハネするかよ。元からお前のためにと思って取っておいたんだ」
カ、カルザフの兄貴……。
アンタ、盗賊なのにいい人過ぎんよ……!
「あれ? ひょっとしなくても、支部長って働かなくてもお金もらえたりするの?」
「ん? お前が支部の代表してる限りは、仕事をしなくても上納金だけで暮らすのも不可能じゃないぞ」
「カルザフ……それ、早く言ってよ! やるやる、支部長やるよ!」
僕が元気よく挙手すると言質を取ったとばかりにバリンガスがニヤリと笑った。
「決定だな。ユディが新支部長だ」
「よーし、野郎ども! 今日は全部俺の奢りだ。好きなだけ飲め!」
そして今度はカルザフが音頭を取ると、盗賊どもが一斉に口笛を吹いてバリンガスに酒を注文し始めた。
「新支部長に!」
「ヴェルマに!」
「ナイトフォックスの再来に!」
「盗賊ギルド支部の新たなる門出に、乾杯!」
そこから先はカオスだった。
盗賊どもが浴びるように酒を飲み、いつもより気合の入ったバリンガスの料理がふるまわれ。
ヴェルマも仲間たちに改めて受け入れられて、涙こそ流さなかったけど、彼女の嬉しくてたまらない気持ちが《伝達》を通して僕にも流れてきた。
「まあ、こういうのも、たまにはいいのかな……」
などと、のんびりしていられたのは最初のうちだけ。
支部長として次々に僕のところに挨拶に来る盗賊たちの応対を強いられ。
そんでもって、無理矢理に酒をしこたま飲まされた僕は、前後不覚に陥るのだった……。
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