第20話 ドS勇者とギルドの過去
宿を変え、顔を変え、名前を変え、種族を変え。
ひとまず身の安全を確保できたと判断した僕は、盗賊ギルドの任務に従事することにした。
ティーシャは新しい宿でお留守番である。
僕に与えられた任務は、とあるエルフを調査することだった。
名をクアドゥラ。シアード支部長が言ってた『元味方』だ。
ギルド会員ではないらしいが港の倉庫を取り仕切る管理人で……盗品の流通に何かと助力してくれていたのだとか。
今では盗賊ギルドに見切りをつけて取引をやめているとのことらしいが、タグリオットと攻撃者がやりとりした手紙の中に、クアドゥラが昔使っていた偽名が紛れていたらしい。
まあ、その辺のギルド裏事情はどーだっていい。
僕の任務はクアドゥラから、攻撃者の正体を探り出すこと。
知っていれば聞き出すし、本当に知らないようならそれを支部長に報告する。
そう簡単に腹を見せないだろうから探りを入れた後は尾行して追い詰めろとのことのことだったが……。
「なんでも聞いてくれ、友よ」
クアドゥラには戦闘能力があるわけではないとのことなのでレベル10以下確定。
《友誼のギフト》であっさり陥落した。
一応、人気のない裏路地に移動してから質問タイムである。
「ギルドへの攻撃者について、知ってることを教えてよ」
「ああ、教えよう。彼女の名前はヴェルマだ」
へぇ、盗賊ギルドの敵は女だったのか。
「それは誰?」
「……シアードから聞いていないのか? 前支部長の情婦で、盗賊ギルドの裏切り者だぞ」
あっ、すごくドロドロしてきた!
僕の大好物展開の予感!
「ねえねえ、そのヴェルマって人は何をしたの?」
「支部長殺しさ。もう三年は経つのかな」
「なるほどね~」
ちなみにナイトフォックスのくだりを持ち出すまでもなく、同賊殺しは掟破りだ。死をもって贖わねばならない。
しかも当時の支部長が情婦であるヴェルマに殺されて。
そんでもってシアードが支部長になったギルドを今になってヴェルマが攻撃してるとか。
そんなのもう、陰謀の臭いしかしないでしょ~。
例えばシアードがヴェルマに支部長殺しの罪を押し付けて、ヴェルマはその復讐をしようとしてるとかさ。
「もし船を使う必要があればいつでも言ってくれ。力になろう」
クアドゥラは別れ際に助力を申し出てくれた。
もっとも《友誼》の効果時間が終われば僕のことはきれいさっぱり忘れているんだけどね。
相変わらず情報収集に使えば言うことなしのギフトだ。
あとはシアード支部長に報告すれば終わりなんだけど。
まだ昼前だ。今日一日は任務に使うつもりだったのに時間が大いに余ってしまった。
「うーん、三年前の支部長殺しかー。気になる」
馬鹿正直に報告しても、ヴェルマを見つけ出して消せって命じられるだけな気がする。
先にギルド員に聞けば、三年前の事件について教えてもらえるかな?
でも、報告もせずに嗅ぎまわってるのが支部長にバレたら、僕の身が危うい気がするし……。
「《服従》が通れば、シアードがシロであれクロであれわかるけど……」
シアード支部長のレベルが僕より低いってことはないだろう。
心の隙を作れれば、従徒化できるのだが……。
「さすがに望み薄か」
これといった行動オプションが思いつかなった僕は、素直にギルドへ戻ることにした。
「……ヴェルマだと!? 何故今になって、あの女の名前が出てくる!」
クアドゥラの証言書に目を通したシアード支部長の豹変ぶりは凄まじかった。
いきなり荒れ狂い出して、部屋に飾ってあった壺――たぶんすごく高価な――をたたき割ったのだ。
「なんてこった、まさかあの女の仕業だったとは! いや、もっと早くに気づくべきだったか……!!」
昨晩会ったときとは打って変わって、シアード支部長は酷く狼狽していた。
これ、今なら普通に行けるんじゃないか?
「《
《服従のギフト》を発動させるべく小声で囁く。
ドルガルのときは念じるだけじゃなくて、言葉に出した方が効果てきめんだった。
別に通らなかったら通らなかったで仕方がないし、不発に終わっても相手側にはバレない。
「む、ぅ……俺は――」
シアード支部長がうめき声を上げた後、頭を抱える。
抵抗は無駄だ。《服従のギフト》は一度通ったら絶対に逃げられない。
シアードの魂をがっしりと掴み取り、くまなく侵蝕した手応えを感じた。
「なんなりと申し付けください、我が主よ」
「うわ、マジで通っちゃったよ……」
どうやらヴェルマの名前はシアード支部長にとって禁句だったらしいな。封印していた過去ということか。
確かにシアード支部長は俺を軽んじて冷たく当たっていたから従徒候補にしてもいいかなとは思っていたけど、出会ってから半日でこんなにあっさり攻略できるとは思わなかった。
「とりあえず、普段通りに戻って。ただし、僕の質問には全部正直に答えること」
「かしこまりました…………クソがッ、あの女め! 忌々しいことこの上ないっ!」
しばしの沈黙の後に、再び怒りだすシアード。
『普段どおりにする』の指示で、人形みたいな状態じゃなくて本来の人格に戻せる。
こうすることで僕は従徒を怪しまれずに『保管』しておくことができるのだ。
僕の命令に絶対服従であるのは変わらない。
このあたりはタイバーデン伯爵令嬢を従徒にしたときにいろいろ実験済みだ。
「いいから落ち着いたら?」
「ああ、そうだな」
僕の一言でシアードが即座に冷静さを取り戻す。
不自然極まりない変化だが、従徒が僕の命令を遂行するというのはこういうことなのだ。
他の誰かがいるときには扱いに気を付けなくっちゃ。
「それで、これからどうするの?」
「敵がはっきりわかった以上、ヴェルマを始末するしかない。その任務をお前に――」
「その前に。三年前、何があったか話してもらえる?」
「いいだろう」
シアードが僕の『命令』に居住まいを正してから、過去を語り始める。
「当時、支部長だったグランドルは不正を行っていた」
「不正?」
「ああ、そうだ。ギルド内の運転資金を誰にもバレないようにチョロまかしていた。俺はその事実を突き止めた」
「なるほど。それでグランドルを追及しようと?」
「いいや。俺は奴を殺し、奴がくすねていた金を手に入れるつもりだった」
「クソ野郎じゃん!」
僕は自分のことを棚に上げて喝采をあげた。
「返す言葉もない。だが、ギルドの運転資金の入ってる金庫は本来なら他のギルド幹部が持っている鍵も必要だった。俺も当時幹部だった。俺の鍵も必要だ。だから、どうやってグランドルが金をくすねているのか……その方法を探るために俺は奴を見張ったんだ。そうしたら……グランドルが金庫の前で液状に変形して、扉と扉の隙間から侵入していくのを見ちまったんだ」
「……は?」
シアードがガタガタと震えだした。
「グランドルは人間じゃなかった。奴は『裏切りし者』……魔人だったんだ……」
シアード支部長から三年前のすべての真相を聞き終えた僕は、素直な感想を漏らした。
「話が複雑すぎる……」
シアードはグランドルの正体を目撃した後、金庫から出てくるところを見計らって不意打ちを食らわせた。
意外にもグランドルは脆く、一撃で殺すことができたという。
しかし、その現場をヴェルマに目撃され、彼女に支部長殺しを押し付けて殺そうとしたが逃げられた……とのことだった。
まあ、グランドルの正体がどうあれ……殺すつもりで近づき、あまつさえヴェルマに同賊殺しの罪を押し付けたシアードに同情の余地はない。
これからは従徒としてたっぷり働いてもらおう……僕の利益ためにね。
ひとまず、シアードにはヴェルマを追うっていう指令を僕に出すように『命令』しておいた。
ひとまず殺すのは据え置き。
グランドルの正体を知ってるかどうかとか、そのあたりもヴェルマに話を聞いてみないと、何とも言えないからね。
そんなことより、マインドベンダーのクラスレベルが11に上がった!
自分より格上の相手を従徒にしたのでもしかしたらと思ったのだけど、やっぱり上がっていた!
タイバーデン伯爵令嬢を従徒にしたときは上がってなかったから、もしやと思ったけど……やっぱり最初はドルガルを従徒にできたのが大きかったんだな。
新しいギフトもたくさん手に入った。例によって使用回数制限が厳しいけど、なかなか酷い効果が満載だ。
特に《伝達のギフト》! これは本当にすごい!
《伝達のギフト》に使用回数制限はない。
ギフトの効果によって従徒となっている者と距離無制限で口を開くことなく考えるだけで会話でき、命令を伝えることができる。
つまり、従徒と僕は顔を合わせることなく、いつでもやりとりができるんだ!
従徒の枠も3人になったし、すぐにでも増やしたいなあ……!
例えばこれでどこかの偉い人とかを従徒にして僕に都合のいい操り人形にすれば――
「…………あれ?」
そこで、ふと。
僕はとんでもないことに気づいた。
「ひょっとして僕、盗賊ギルドを乗っ取れちゃいましたか?」
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