第14話 ドS勇者とラッキースケベ
その後、盗賊さんは僕が提供した証拠と情報を持ち帰り、ギルドに帰った。
僕の精査もかねて時間が欲しいとも言われたし、さすがに眠かったので宿に帰ることにした。
といっても、もう明け方だったのだけど。
早ければ今夜か明日の夜にはギルドから接触があるらしい。
そのときに盗賊ギルドに入れるかどうかが決まるわけだ。
ああ、楽しみ。
「そーっとそーっと」
抜き足差し足で部屋に戻る。
《偽装》を使ってるから誰にも見咎められないし、ティーシャを起こす心配もないのだけど。
ベッドはひとつしかないので、布団の中にごそごそと潜り込む。
「ユエル様……」
っと、起こしちゃったか?
ティーシャはむずがゆそうな顔をした後に、再びすーすーと寝息を立て始める。
「なんだ寝言か」
改めてじーっとティーシャの寝顔を眺めてみる
かわいい。あと、やっぱり美しい。
だけど、性欲がムラムラ湧いてくる……なんてことはなかった。
ティーシャの痩せこけた体は触っても骨ばっているし。
これからはたくさん食べさせてあげなくちゃ。
「おやすみ、ティーシャ」
かろうじてやわらかい肉がついているティーシャの胸に抱き着いて寝転がると、僕の意識はあっという間に闇へと沈んだ。
目を覚ますと同時にくすぐったい感触を覚えます。
なんだろうと思ってみると、ユエル様の頭でした。
「ひゃわわわ、ユエル様っ」
ユエル様を揺り動かしますが、起きてくれません。
「んもう……ユエル様は胸のことばっかりなんだから」
無理に引きはがすこともできず、ぎゅっとユエル様の頭を抱き寄せると……優しい気持ちが胸の奥から溢れてきます。
出会ってから、たった数日なのに。
山賊から助け出してもらってからは……ゴーストと追いかけっこをしたり、国境を走り抜けたり。
こんなに楽しい気持ちになれたのは生まれて初めて。
正直、ユエル様が何を考えているのかはよくわかりません。
奴隷商人に会って奴隷を手に入れると言い出したかと思えば、盗賊ギルドに行くと言い出したり。
反対したのですが「いや、盗賊ギルドには今行かないと」と聞き入れてくれませんでした。
ひょっとしたら、わたしのことも本当の意味では信じてくださっていないのかもしれません。
「それでもいい……」
ユエル様がわたしを地獄の底から拾い上げてくださったことは間違いないのです。
ユエル様の奴隷になれと言われればなりましょう。
命を賭けろというのなら、笑顔で捨て石に。
夜のお相手が必要であれば、よろこんで。
……経験はないので、教えてもらうところから始めないとですけど。
それ以前に、この貧相な体をもっとなんとかしないとそういう目で見てもらえないのですけど!
「ああ、わたしったら。おこがましい考えをお許しください」
そもそもからして、
生まれついての血であらゆる方々の下に生まれたのが、わたし。
純血の種族の中でたったひとり、完全創造主さまに選ばれたのがユエル様。
それなのに何故か、ユエル様はわたしを普通の女の子のように扱います。
それがものすごく痛くて、つらい。
「どうかいっそ、わたしを道具のように扱いくださいませ、ユエル様。それだけがわたしの――」
それが正しい形なのだと示していただければ。
いっそわたしの心も、救われるのです。
「ん、むぅ……」
心地いい感触が頬にあたる。
刷りつけていると気持ちいい。
もっとこうしていたい。
「んっ……」
艶めかしい声が聞こえる。
感触から顔を離して、半身を起こす。
隣でも誰かが体を起こす気配。
「おはようございます、ユエル様」
「お、おはよう」
となりに昨晩見たティーシャの顔が見えた。
……いや、違う。
何故だろう。
昨晩のやすらかで幸せそうな寝顔なんかより、はるかに……。
「ティーシャ、泣いてるの?」
「えっ……」
悪夢でも見たのだろうか。
あるいは辛い過去でも思い出したのか。
その泣き顔はこの世のすべてを憂いて涙する乙女ようで――
「す、すみません。お見苦しいところを」
「とんでもない」
僕は真顔で首を横に振った。
「泣き顔、すごくいいよ。最高。ありがとう。ティーシャのそれ、とっても好きだ……」
「…………はい?」
長い沈黙の後、不思議そうに小首をかしげるティーシャ。
「あ」
しまった。
寝起きで理性が働いてなかったから、つい……!!
「ごめん、今のは忘れて!」
「きゃっ」
慌てた拍子に振った手が、ティーシャに当たる。
正確には小指がチュニックの襟元、胸のあたりに引っかかった。
丈夫な麻とかなら、それだけで終わっただろう。
だけど、ティーシャの服は既にところどころほつれたりとボロボロだったので――
ビリビリーッと、布が引き破れる音が部屋に響いた。
「えっ」
「え?」
ふたりの間抜けな声が同時にあがる。
僕の目の前で、ベッドの上で半身を起こしたティーシャが上半身を完全にはだけた状態で呆けていた。
白くて綺麗な肌だ。
胸のふくらみもほとんどないし、横っ腹にはあばら骨がうっすらと見えてたりするけど。
肌はお湯で汚れを拭いて落としたのだろう。
フリーズしていたティーシャが突然はっとしたかと思うと、すごい速度で胸元を両手でガードした。
ぷるぷると震えながら、真っ赤な顔で、こちらを非難するように上目遣いで見てくる。
「ユエル様のっ…………――」
ティーシャ、なんでそこで黙るの!
「のっ」まで言ってるんだから、先も言って!
「えっちー!」でも「人でなしー!」でもいいから、なんか叫んで!
そんな風に言葉をのみこんで、ウルウルした目でじーっと見られたりしたら!
惚れちゃうでしょうが!
いざとなったら切り捨てるとか使い捨てるとか、そういう選択肢を全部封じられちゃうでしょうがー!
「ご、ごめん! 別の服、すぐに買ってくるから!!」
そういうことじゃないだろうと自分でもわかっているけど、この場から逃げるための口実としてもっともらしい言い訳が口から出た。
昨晩そのままベッドインしたおかげで、着替える必要もない。
もっとも寝間着になってても、そのまま飛び出していただろうけど。
おっかしいなぁ……。
こんなはずじゃなかったのになぁ……。
たったひとりの女の子を相手にてんやわんやだなんて。
「人として、いろんなレベルを上げなきゃなぁ……悪の勇者レベル7じゃあ、大して普通の人と変わらないってことかぁ」
そんな風にあることないこといろいろ考えて、誤魔化そうとしたのだけど。
胸のドキドキはなかなか納まってくれなかった。
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