第2話
数日後の放課後、部活がなかったこの日、帰ろうとする前に保健室の前を通ると、保健室の中にいた萌々先輩から、「ちょっと!」と呼ばれた。
「あれ、どうしました?」
「今日部活ない感じ?」
「部活ないですよー。」
「ちょっと話したいこと沢山あるから付き合って」
「え、いいですけど…」
ということで、一緒に帰る約束していたクラスの友達とはバイバイして、俺は萌々先輩と行動する。
そして俺たちは、江南市内の本屋に向かう。カフェとかいっぱいあって、オシャレな場所があるんだけど、そこのカフェに行こうって事になって。先輩の家の近くでもある場所なんだよね。
その、最寄り駅に着いて、歩いてる時。
「正直さ、輝って私の事どう思ってる?」
と突然、聞かれた。
「唐突ですね、」
「聞ける時に聞こうと思って。今、私と輝の関係ってなんとも言えない中途半端な関係だからさ。」
…まあ、それは俺も分かってる。このままどうするのが正解なのかは、俺自身が分からない。
「でも、俺は…」
と口を開こうとすると、先輩は突然顔色を変え、俺に寄り付いた。
「え、ちょ、大丈夫ですか?」
「逃げよ、あっち」
と言われ、引っ張られる。萌々先輩は必死に俺にしがみついていた。
でもそれは無駄な行動だったようで、先輩は男の人に、声を掛けられていた。
「おい、そうやって逃げんなよ。ちゃんと話せよ」
と、俺にしがみついていた萌々先輩のことを引き離すかのような男の人。多分、彼氏さん…なのであろう。
「言ったじゃん、もう別れるって」
「この前のことは本当に悪かったけど、でも別れたいなら理由知り合いたいし、俺の言い分もちゃんと聞いてからいなくなれよ。誤解されたまま俺の話を多方面で嫌な方向に持ってかれるのが1番嫌なんだって」
「でも…」
困りながら萌々先輩は、助けを求めるかのように俺の方を見る。何か二人の間で話が食い違っていたのか。
「ちゃんと、2人で話してきたらいいと思います。尚且つ、自分の本音や意見も言って。…俺は一旦去りますね」
と言って、俺はそのままその場を離れた。
…いやまあ、修羅場を見られたような感覚で正直居ずらかったんたわ。空気重いし、誰こいつって目で見られてたんだろうし。とりあえず萌々先輩には、終わったら連絡下さいとメッセージを残し、本来行くはずだった本屋のカフェに入った。
その間、俺は色々と考え事してた。
実は萌々先輩は江南北中出身で、テニス部の先輩だと駿芽先輩と同じ学校だったので、昔の話をちょこっと、駿芽先輩から聞く機会があった先日。その駿芽先輩と萌々先輩も同じクラスの時もあったらしく、話す時は話す仲だったと言うので。
萌々先輩も可愛いし優しい性格だから昔からモテるし、告白されることも多い。そして萌々先輩本人から聞いた話だと、ずっと受け身の恋愛ばかりしてきていると言う。好きだけど、自分から積極的には行動できていない。
実際俺もそうだったかもしれない。過去にお付き合いさせて貰ってた女の子相手にも、自分から好きだって言ったこと、実はあまりなかった。相手からは普段から好きとよく言われても、自分から言うことは本当にたまーに、って感じで。前に付き合っていた花にも、好きって言って欲しいって言われたことはよくあった。
好きだったけどね。でも甘えたりすることもないし、とりあえず付き合ってて、それなりのことをしている。自分が思っている以上に相手のことは大好きじゃなかったのかも、と思うと本当に申し訳ない気持ちというか。
なんか、恋愛って難しい。けど、
自分から動く恋愛もしてみたいな、とは思う今日この頃。朱哉とかも、本気で好きな人と付き合ってから恋愛観が変わるって言ってたし、ちょっと憧れる。
正直、萌々先輩のことは、気持ちは好きに近づいている。でも、まだ、気持ちが固まってるわけじゃない。これから、なのかな、とは思う。
しばらくすると、連絡が着いた。
「終わったから、そっち向かうね。」
って。
この間は30分くらいだろう。意外と短かったな。
「ごめんね、あんなとこ見せちゃって」
「あ、いや、どうなりました?」
「ちゃんとお互い納得して正式に別れた、ってところかな。色々とありがとうね。」
まあ、泣いてもないし、それなら良かった気がする。むしろ、スッキリしたようだ。
「てか俺の事なんか言われました?さっきバッチリ見られてたし」
「あ、まあ、私も正直浮気行為はしたんだよってぶっちゃけたから、その相手って説明した。でもなぜかそれで、別れるってことに納得してくれた…のかな。別に輝に対しては何も言われなかった」
むしろ、俺の存在がいたからこの2人は納得行く形で別れた、ってことになるのか。良いのか悪いのか。いや正直良い気分なわけはない。
というか、話を聞くと、彼が浮気したーっていう話は、嘘ではないんだけど、ちょっと萌々先輩も誤解してたところがあったらしい。
彼が別の女の子と浮気していると聞いたのはその浮気相手から写真が送られてきたことがきっかけで、それも、行為が済んでいるような光景の写真だったという。
きっかけは彼の浮気相手となる女の人。萌々先輩と再度付き合う前に体の関係を持っていた人らしく、それで萌々先輩と復縁したことに嫉妬していて、無理矢理誘って彼をその気にさせて。
でも、彼はそこで断っていた。それが、真実らしい。ただ、その出来事を伝えたのはその相手の女の人で、萌々先輩への嫉妬心からなのか、嘘が紛れてたということらしい。
でも結局はここ最近、それとは別の女の子と行為をしたようで、そこに関しては認めていたようだった。それで萌々先輩も俺と何度か行為をしてる訳だし、お互いがお互いだったということで、納得して別れた……なるほどね。
「吹っ切れました?」
「気持ち良いぐらいにスッキリしてる。でもちょっと申し訳ないことしたかな、と思うとモヤモヤはするけど」
「まあ結局それも、恋愛ですからね。」
と、お互いここでクスッと笑う。
「輝も結構濃い恋愛してるんだっけ?」
「いや、別に濃くはないですけど…。花と付き合ってた時に結構色々と経験したくらいで。」
「そっか、だから色々と、慣れてたんだな」
「それなりに、ですけどね」
俺と萌々先輩も何度か、行為は重ねていた。最初はノリだったとはいえ、気づいたら習慣化されていた。まあ、それが萌々先輩が彼氏さんと別れることができた理由の一つになったっていうのもあるけど、でも自分的には、付き合ってもない、なんでもない人とこういった関係が続いてるのも、中途半端なことしてるなぁと、あんまり気分は良くない。
でも、正直自分が今まで出会った女性の中で1番タイプだったし、年上なのに気を使わなくても自然と話せるし、だからぶっちゃけ、簡単に手放すことはできなかった。付き合ったら楽しんだろうなぁとは思うけど。
好きかどうかって言われたら、好きに近いけど、もう少し向き合ってみたいとは思う。
「俺が、先輩のことどう思ってるか、まだ言ってなかった、ですよね。」
「うん。」
そして俺は、はじめて、萌々先輩に思ってることを言った。
「俺は、正直今まで出会った人の中で1番可愛いと思った、というのもあるけど、何よりも話しやすいし、優しいところとか好きだな、って思いますよ。だからなんだかんだ手放せなかったんです。まだ100%好きとは言えないけど、気持ちは好きに近づいてます。」
思ってること言ったけど、なんか告白したみたいになってる気がする。まあいいや。
「じゃあ、先輩が俺の事どう思ってるかも聞きたいです。この際なので、正直に話してください。」
俺もドキドキしながら聞く。結構、怖いです。この瞬間。
「こうやって相談事とか気軽に話せる、私には数少ない存在だし、輝のほうが年下だけど、そう思えないくらい優しいし、頼れるし…。あとかっこいい」
かっこいいって言われて、つい照れてしまった自分。
「かっこいいってこんな真正面に言われたのはじめてだから恥ずかしいです」
「照れちゃったら、可愛いね」
「んー、可愛いはあんまり嬉しくない…」
そしてお互い、ハハハ、と笑う。
「俺としては、もうちょっと真剣に萌々先輩と向き合いたいですね」
「じゃあ、これからもっとよろしく、だね」
「ですね。」
そして何故かグータッチをする俺たち。
濃い1日だったな、と思うと同時に、俺も萌々先輩と、本気で向き合うことを決意した日でした。
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