第1話
(斗亜)
まあ、俺が最近まともな恋愛してないのは周りも承知しているだろう。自分だって思うわ。
恋愛ってすればするほど面倒くさくなるもんだよな。大人の恋愛が体だけの関係になるケースも多いって聞くけど、気持ちはようわかる。何なら俺だって、そんな関係を高校1年生から築き上げてるくらいだから。まあ続かんけどな。それくらいが良いよ、俺にも。
逆に俺の周りといえばどうだろう。特に中学までテニスでペアを組んでいた西星高校の岡崎真宙とかも、付き合った彼女に対してベタ惚れしていて。真宙を見てると、俺もこのままでいいのかなーなんて、思ってしまう。
なんて思いながら帰宅していたある日の放課後、ぼけーっと歩いていると、声をかけられた。
「斗亜?聞いてる?もしや死んでる?」
なんて声でハッとする。
「聞いてなかったけど生きてるよ俺は。って絢音ちゃんじゃん。」
「久しぶりだね。」
「まさか話しかけてくれるとは思わなかった。」
武吉絢音ちゃん、俺の1つ上で、西星高校の2年生。吹奏楽部に入っていて、3年生が仮引退した今は、部長も任されているらしい。
俺が中学時代に密かに想っていた相手だ。
まあ、俺が告白も何もしなかった唯一の自分の恋愛だ。絢音ちゃんの想い人は、俺の尊敬しているソフトテニスの大先輩、今は地元を出て星の里高校に通っている堀部紫音先輩。その堀部先輩も、他の人のことが好きだった。でも、中学の時、堀部先輩が好きだった人は彼氏がいた。
そんな堀部先輩を庇うように入ったのが絢音ちゃんで、絢音ちゃんと堀部先輩は付き合っていたこともある。でも、堀部先輩が、中途半端な気持ちで付き合うのは申し訳ないということで、絢音ちゃんとは半年で別れていただろう。その後、堀部先輩はその好きだった人と付き合ったし。
っていうこともあって、この恋は関わる人みんな年上だし、俺も何も言えずに終わった恋愛だった。この話をちゃんと聞いてくれたのは中学のチームメイトの岡崎真宙と保科良則だけで、俺が恋愛面で唯一涙を流したことのある時だろう。俺が中2の時だったな、あの時は。何も出来なかったよなぁ。
「そういえば堀部先輩が、お盆の時絢音ちゃんと話したって言ってたけど、」
「そう。たまたま会ったの。主に星羅の話だけど、それから結構、頻繁にやり取りはしてるかな。何なら先月も紫音帰ってきてた時ちょっと会って話したよ。」
「へえ。やっぱりまだ好きなの?堀部先輩のこと」
と聞くと、絢音ちゃんは、照れながら頷いた。…やっぱりな。
「でも、ちょくちょく話持ちかけてるけど、紫音は今は恋愛はいいやって思ってるのかなって感じるし、実際聞いたらそうだった。」
「まあ、星羅さんの件は、堀部先輩もかなり傷ついたことだと思うよね。表向きはいつも通りだけど。」
「星羅が向こうで彼氏できたって話してきた時だって、紫音泣いてたもん」
「そうなんだ。まあ、そうなるよね。」
堀部先輩がずっと好きだった星羅さんは、絢音ちゃんとはずっと一緒に吹奏楽を続けていた人で、西星高校でも吹部に入っていたけど、3月にとても悲惨な目に遭った。同級生の大した仲良くもない男子に突然襲われて。それがきっかけで星羅さん自身が病むように変わってしまい、堀部先輩とも別れを選んだようで。
…まあ結局は片想いの連鎖なんだ、ここまで来ると。自分はこの人が好き、でもこの人はその人が好き、でもその人はあの人が好き。みたいな様に。
「そういう絢音ちゃんは、どうなの。辛くないの?」
「辛いに決まってるじゃん。でも紫音の前ではそんなこと言えないし、結局誰にも言えないんだけどさ、それも。」
「やっぱり、堀部先輩のことめちゃくちゃ好きなんだね。」
「結局ね。なんだかんだまだ好きだよ。」
って、自分で聞いてからアレなんだけど、聞けば聞くほど俺も辛くなる。やっぱり1度好きになった女の人だ。
「俺も、辛い気持ちわかるな。好きな人に好きな人がいるのって。その好きな人は、自分のことは好きじゃないんだし。」
「斗亜もそういう経験あるの?…いやありそうだわ。」
「あるよ。というか、今めちゃくちゃ思う。」
「今?恋してるんだ。」
「してるかもしれない。」
でも中々本人の前で好きだって言うのが難しいんだよねえ。目の前にいる人なのにね。やっぱり好きだって思っちゃう。
「まあ、頑張んなよ、斗亜も。」
「頑張る。お互いだな。」
「なんか話してたら元気出た。ありがとう。」
「そういえば俺連絡先変わってから、絢音ちゃんの連絡先知らない気がする。」
「あ、教えとく?」
高校生に上がる頃に携帯を変えた際に一新したので、絢音ちゃんの連絡先は知らなかった。
そういった感じでこの日は家まで一緒に帰った。でも、やっぱり絢音ちゃんが1番一緒にいて落ち着く人だなって思う。こんなクソガキのこと相手にしてくる年上の女性なんて絢音ちゃんくらいだし。中学の時に何らかのはずみで、というかそれこそ堀部先輩とかテニス部の先輩繋がりだったのは覚えてる。絢音ちゃんと出会ったのは。
ただ、もう一度恋をしても、自分が幸せになれるとは想像できない。相手には想い人がいる。だから余計に。
その想い人が、堀部先輩っていうのもまた複雑なんだよなぁ。尊敬している大先輩。俺も、先輩のおかげで中学の部活頑張れたと言っても過言ではないことは沢山あったし、何よりも活躍が凄かった、かっこいい、憧れの先輩だから。
まあ、堀部先輩が絢音ちゃんのことどう思ってるかなんて、知らないけど。
「…ってことなんだけど、どう思う?」
と、どうしてもこの話をしたくて、数日後、最近あんまり遊んでなかったけど、この話を知ってる唯一の友達、真宙と良則を呼んだ。
この2人しか知らないのは中学の時2人が恋愛経験あったのもあるけど、話しやすさだろうな。だったら同中で同高の横尾伊吹とかもいるじゃんってなるけど、あいつはすぐ人に言うからあんまりこういうことは言いたくない。
「良いんじゃない?好きになっても。好きって言っても。そこで斗亜が身を引く必要はないと思うけど」
と真宙に言われる。
「そう思う?」
「だって、自分の恋愛じゃん。それで何もできなくて後悔してたのが中学の時の斗亜じゃん。また何もせず同じこと繰り返すくらいなら、好きになって全力で相手と向き合おうとしてもいいと思うよ。」
中学の時、何も出来なかったことに後悔して泣いたところをこの2人は見てるから。尚更そう言われるんだろう。
「別に、堀部先輩と両思いってわけではないんでしょ?」
と良則にも言われる。
「というか堀部先輩とこの前遊んだけど、恋愛は今のところはしないかなって言ってたよ。星羅さんの件で結構傷深いみたいだから、新しい恋愛とか、したいとは思うけど考える余地はないって。」
と真宙まで。真宙は、先月の県大会が終わった直後、少しだけ帰省していた堀部先輩と遊んだらしい。
「でも、斗亜が自分から動かない恋って珍しいよね。中学の時も思ったけど」
良則に言われる。まあ、それは思う。
「だよね。俺らしくないよね。」
この2人と話して、俺も頑張ろうと思えた。
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