第1話
(歩人)
2年生の6月。県総体も終わり、本当に時が経つのってあっという間じゃないか。俺も、あと1年ちょっとの間に出来ること、全てやり尽くしてから引退したいなぁ。後悔のない部活人生を送るためにも。
これは、県総体直後のお話だった。
土曜日、久しぶりに地元の人とテニスしたこの日の夕方、帰ろうとして、駅前のバスターミナルでバスを待つ。
一緒にテニスをしたのは同じ少年団のメンバーでみんな他校の中学だった人なので、みんなは先にそれぞれ帰宅したんだけど、俺が乗るバスは、俺がバスターミナルに着いたと同時に行ってしまったから、しばらく待たないといけない。
そんな時に、同じバスターミナルの待合室に入ってきた人がいる。
「おー、ここで会うとは」
と俺は声をかけるが、相手には微笑まれただけで終わった。
相手は、同じ星の里高校で女子ソフトテニス部、そして同じクラスの藤江琴未。だからほぼ毎日会ってる人な上に、いつもなら元気よく話しかけてくれるんだけど、なんか、元気なさそうだった。
あ、ちなみに琴未も同じ北春日出身で、少年団も同じでした。中学は違うけど、でもわりと近い。
「…どうした、元気なさそうだね」
と俺は聞く。
「そりゃ、付き合ってた彼に振られた次の日だもん、元気無いに決まってる」
「え、別れたの?」
「…うん。それでさっきまで話聞いてもらうために、茉鈴に会いに緑陽行ってた」
琴未は、同じ中学だったサッカー部の人と付き合っていた。たしか高校は北春日海洋の人だっけ。女テニがまだ恋愛禁止のときも、隠れて付き合ってたみたいだが。昨日帰省してすぐに彼氏と会ったみたいだが、その時に振られてしまったようだ。
ちなみに星の里高校の女テニは4月までは恋愛禁止でした。
「確かに、目腫れてる」
「…だって泣きすぎたもん。」
「何があったのさ。」
「私も突然振られたからよくわからないけど、あの言い方、他に好きな人できたんだろうね。」
と、話していてさらに泣きそうになる琴未。
「あーごめん、無理に話さなくて良いよ、」
「ありがと。でもだからといって他のこと何もできないし、結局今はこのことしか考えられないんだよね」
そして結局、普通に泣き出してしまった琴未。とりあえず、人気のないところに移動する。ここバスターミナルだし、結構周りに人がいますからな。
「…てか歩人は時間大丈夫なの?」
「俺は全然、もう帰ってから暇するだけだったし」
「じゃあ、ちょっと付き合って」
と言われ、そのまま駅近くのレストランに直行した。
そのレストランは個室のレストラン。だからまあ、周りの目を気にせず過ごせるところなんですよね。
「やっぱり、お互い遠距離っていうのが向いてなかっただけなのかな…とは思う。前に楓が言ってたこと分かる気がする」
「ああ、そんなこと言ってたねあいつ。怖いぐらいに自然と心が離れてしまうって」
「だから思ったの。結局はそれまでだったってことなのかなって。さっき茉凜とも同じ話したんだけど」
同じクラスでありチームメイトの岩本楓は、元カノとは高校上がってから遠距離だったし、楓本人は彼女のこと大好きそうに見えてたんだけど、結局は自然と心が離れていった、と。楓が元カノに振られた時、すぐ吹っ切れた理由もそうだったのではないか、と本人も言っている。そんな楓は今、同じクラスであり女テニの東山新菜と付き合ってるけどね。
「遠距離でも続く人って、結局は本当にお互いが大好きで、その人しか考えられないくらい好きじゃないと続かないのかなーって思う。」
「確かに、飛鳥先輩とか、ね」
「飛鳥先輩はすごいよ。遠距離恋愛の手本みたいなもんだって、女テニも言ってる」
3年生の小松飛鳥先輩は、中学から付き合っている彼女さんと今は遠距離らしいんだけど、でも本当に飛鳥先輩の恋バナ聞くと、人間じゃないように思えてくるぐらい凄い。何でも彼女優先に考えるあたり、当たり前のことなのかもしれないけど、でもできない人のほうが多いわけだし、飛鳥先輩は凄いよなぁって思う。その上部活も手抜かないし、何しろ彼女さんもソフテニの人で、好成績を残すようになったという。
「…もう、恋愛っていざ自分がしてると、大変だなー。しばらく恋愛から遠ざかろうかな」
「いいんじゃない?俺も恋愛から遠ざかってから2年くらい経つ」
「最後に彼女いたの中3?」
「そう。中3の夏から4ヶ月くらいかな?」
ちなみに俺の元カノの数は2人。最初に付き合った人は1年以上付き合ってたけど、当時はスマホ等持ってなかった俺たちは、彼女の転校で自然消滅し、その次に付き合った人とは4ヶ月しか付き合わなかった。
「でも新菜も茉凜も彼氏とラブラブしてるし、結局は羨ましくなりそー。…まあ、前からそうだったけど」
「じゃあ次は高校の人と恋をするんだな、そういうことじゃない?」
「…って言われてみれば難しいなー。関わりあるの男テニぐらいだし、2年も半分くらいリア充だし」
「先輩もほぼリア充だもんね男テニ」
「話してて良いなって思った人は大体リア充」
「まあそうかもしれないな」
まあ別れてしまったような人も最近増えつつあるけど、でも男テニは長い間ラブラブしてる人多いよね、と思う。
「でも私個人的には、1番話してて安心感あるのは歩人かなーって」
「え、俺?」
「実際、付き合い長いし、っていうだけだと思うけど」
「…確かに、幼稚園同じだし、小中違うけど少年団も同じだし、中学でもクラブ入ってたし、高校は同じクラスだし」
「あとお姉ちゃん同士元ペアだし」
「1年間くらいだけだけどね」
「一緒に応援したよね、懐かしい」
俺には姉が2人いるんだけど、そのうち1番上の姉は俺より4つ上。今は社会人やってるけど、北春日商業高校のソフトテニス部に入っていて、琴未の姉ちゃんとペアだったのだ。一緒に応援しに行ったの、懐かしいな。
なんて色々と話して、この日はお互い帰った。また月曜日に学校で、と言って。
その、次の月曜日。
琴未は教室に入ってきた途端、すぐに俺のとこにやってきた。
「ねえ、見て」
と、琴未は、スマホの画面を俺に見せてきた。
「…ガチ?」
「これは酷くない??」
「それいつ知ったの?」
「昨日の夜、桃子から連絡来た。」
昨日の夜、琴未は、現在北春日海洋高校に通っている元ペアから連絡が来て知らされた話らしいんだけど。どうやら、元彼に、先月から二股かけられてたみたいだ。
そしてその場で泣き出す琴未に、周りも騒然とする。
「あー、歩人泣かしたー」
なんて周りに言われるけど
「いや、俺じゃない。…でも琴未大丈夫?」
「…大丈夫じゃない。これ全部見て」
と、桃子とのメッセージのやり取りを全部見せられた俺。
「桃子が全部、琴未の元彼に聞いて、その聞いた結果がコレなんだ」
「そう。あと歩人に言いたいのはこれだけじゃない。」
「どうした?」
「その相手、見覚えない??歩人が中3の時に付き合ってたっていう元カノだよ。北都の女テニのだよね?」
と聞いて俺も、鳥肌が立ってしまった。
「とりあえず昼休み話聞くから、今は落ち着こう…?」
と、伊東茉鈴も近くにやってくる。
「うん、ごめん。」
ということで昼休み、女子3人に混ざって、俺と楓も一緒にご飯を食べることになった。
一通り話を聞くと、楓が
「多分、俺が元カノにされたことと同じことじゃない?」
と言う。
「そうだと思う。てか全く一緒」
と新菜も続いて言う。
「ちなみに俺が七海に昨年の12月に突然電話越しに振られたのは知ってると思うけど、それで内容を友達に聞いてみたら、その友達の元彼と俺の元カノがそこでできちゃって、結果振られる1ヶ月半前くらいから二股されてた状態だったってことなんだよね。それで結局向こうのほうが好きだって」
と楓は説明する。楓も元カノとは辛い振られ方していたみたいだからな。
「それ!!同じ!!」
と琴未は大声で言う。
ちなみに琴未の内容も似たようなもので、琴未も遠距離ではある状態だったのだが、少し前から二股かけられてて、結局彼は向こうの女のことが好きで、琴未のことを振ったと。で、その相手は俺が中3のときにちょこっとだけ付き合ってた元カノだって。
「てか、その女がそういうやつだから、多分。強引にでも奪ったんじゃないの?それでまんまと引っかかったか。俺がそうだったから」
実際俺がその元カノと付き合い始める時だって、その前の彼女と音信不通な時に、やたらと俺に寄ってきて。
「でもせっかく春から恋愛解禁して付き合うことできたのに、本当に可哀想…」
と言う茉鈴。そりゃそうだ。3月までは恋愛ダメだったもん、女テニは。
「…まあ、実質遠距離だし、長続きするのかなぁとは感じてたけど。でもやっぱり辛いものは辛い」
と、琴未はまた泣き始めた。
そこで俺は、思い出したことがあった。この光景、見たことあるなと思って。
俺が、琴未の告白を断った時のことを、思い出した。あれは、中学2年生の話だけど。
この日の部活終わり、夜の19時頃。1回寮に帰ったあと、コンビニへ向かおうとすると、寮の近くで琴未に会った。
「なんか最近よく会うね」
と琴未に言われる。
「ったって同じクラス同じ高校で競技も同じだし」
「そうだけど、その割には最近よく話すよねってこと。」
まあ確かに言われてみれば最近話す機会増えたかもしれない。
「そういえば昼休み、途中から静かだったけど、」
と琴未に突っ込まれた。まあ、バレたか。考え事をしていた時のこと。
「うん。考え事してた。」
「なんの事?」
「言っていいのかだけど。琴未の泣いてる姿見て、中2の時思い出した。」
「ってことはつまり」
「俺が琴未のこと振った時。」
俺の目の前でギャン泣きしてた琴未のことを思い出す。でもあの時は、俺も好きな子がいて。そして付き合いかけていたからだった。
「まあ、昔っからしょうもない姿ばっか見られてるもんね、歩人には」
「腐れ縁、みたいなもんだからそりゃそうだろ。」
「大会で負けて大泣きしてた時とかね。」
「なんか俺いつも慰めてた気がする。」
「懐かしい。ジュニアの時ね」
って考えたらこいつ昔っから泣き虫だよなぁ。なんて。
そこから一緒にコンビニ行って、一緒に寮に戻る。とはいえ星の里高校は、男子寮と女子寮で分けられているので、敷地内に入ってすぐでお別れだけど。
「何か、ありがとうね。歩人といっぱい話したら元気出た」
「それなら良かった。」
「ありがとう。また明日ね」
「うん、また明日。」
まあ、俺と琴未の関係は、腐れ縁の幼なじみ。っていうだけだ。
「おっと、歩人、今女の子と一緒にいなかったー?」
と、茶化してくるテニス部の先輩に見つかったようだ。ちなみに誰かというと、3年の溝口亘先輩なんだけど。
「何も無いですよ。琴未とは、腐れ縁みたいな関係ですから、話聞いてあげてただけです。」
「ちぇ、つまんね」
「てか、亘先輩って遠距離でも彼女と続いてるからすごいですよね。」
「ん、突然どうした?」
「いや、なんでもないです。」
なんて言ったら
「おっと、歩人も恋の予感?!」
なんて結局そっちの方向に茶化される。んっとにこの部活の人達こういう話大好きだもんなぁ。
「だから違いますって!!琴未が彼氏に振られて、それで話聞いてたんです。ここ最近。」
「あ、なるほどね…。最近元気なかったもんねあの子。」
「まあ俺の元カノも関わってるみたいで、色々と話してたんですけどね」
「え、歩人の元カノとか気になる」
「いやいいです、とりあえず部屋戻ってくださーい」
「ちぇーーっ」
まあ、今はこうやって楽しんでるだけでいいよ。部活も学校も上手くいってるし、高校生のうちに恋愛する気は正直なかった。この時は。
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