第1話



(良則)




10月。


1年生後期の委員会決めで、ジャンケン負けで図書委員となった自分。西星高校の委員会の中で1番面倒だと先輩から聞いていたから1番なりなくなかったし、よりによってクラスから1人ずつ選出するようで。最初の委員会に出た時は、知り合いもいず、更に昼休みに当番、放課後に掃除当番もあるため、今後が憂鬱だと思った。


…最初はね。





それを一変したのが、最初の当番の日。俺は月曜日。同じ当番の人は3人いて、3年生が2人、2年生が1人。2年生の先輩のみ、女の人だった。




「保科くん、だっけ。1年生だよね?」

「はい。1年です。」

「部活とかやってるの?てかやってそう。見た目的に」

「一応、ソフトテニス部に入ってます」

「あ、そうなんだ!」


と話しかけてくれた、2年生の先輩。とても気さくで、明るい女の人だった。

見た目的にって、多分肌の色だろうな。真っ黒だから。



「えっと…」

「あ、2年の牛島美紅です。よろしくね」

「よろしくお願いします…!」



正直、めちゃくちゃ可愛い女の人だった。最初に話したこの日からすぐに、気になりだしたのは事実だ。




「ソフテニかー。たしか西星強いんでしょ?」

「先輩達が活躍してて、近年は強いですね」

「じゃあ、保科くんもいつかは大活躍だったりして」

「そうなれるように、頑張るつもりです」

「お、いいね。部活生羨ましいなー。」


と、先輩は少し、顔色が変わった。



「えっと…、牛島先輩は、部活はやってないんですか?」

「あ、美紅でいいよ。」

「いやそんな恐れ多い…」

「いいよいいよ。私は部活やってたけど、できなくなったからね。1年の時男バレのマネージャーやってたけど、色々あって辞めた。中学まで現役だったし、バレーは今でも大好きだけど。」



なんて話していると、この日の昼休みは終わった。また来週、と言い、それぞれの教室に戻った。それにしても俺、人見知り発症しすぎてたけどな。











それからも当番の日は話しかけてくれてて、色々な話をできた。美紅先輩は中1の途中でこっちに引っ越してきて、星華中を卒業していると。それまでは北別市に住んでいたようだ。


でも、最初に話した日に聞いた、部活を辞めた時の話は、まだ聞いていなかった。まあ、俺がただ心の中で引っかかってるだけで、本人は多分話したくないだろうしな。










話が進んだのは、11月の中頃だった。



この日の部活は体育館練習で、学校隣の星華公園内にある市民体育館での部活だった。もうすぐ冬、外のシーズンもあっという間に終え、大会も日々近づいている。


部活終わり、いつも一緒に下校している岡崎真宙が今日はこれから彼女とデートだと言うから、途中までは友達と一緒だったが、途中から1人だった。

そういえば漫画の新刊買ってないや、と思い、通りかかった本屋に入った。



「あれ?」

「あ、こんにちは!」


そこでたまたま、美紅先輩に会った。どうやら近所だったようだ。




そして、本屋の中にあるカフェで休憩がてら、先輩と話すことになった。




「そういえば美紅先輩って、本当に本好きなんですね。」

「そう見える?嬉しい」


前々からずっと思っていた。俺もしないことは無いけどね。でも、結局漫画とかばっかり読んじゃう。


「漫画とかも良いけど、私は文庫本の方が好き。でも部活辞めてからかな、読書するようになったのは。時間持て余してた時に本読むようになって」

「あー。でも俺も小学生の時とか読書結構してたほうですけど、中学から全然してないんですよね。やっぱ時間も左右されますよね」

「部活やってるとね。中々厳しいよね。」



など、いろいろと世間話をしたあと、美紅先輩がある話題を持ってきた。




「良則くんって、過去の恋愛経験とかってどんな感じなの?」

「あー、中学の時に2回付き合ったことあるくらいですかね。でも俺自身そこまで良い恋愛出来てなかったんですけど」

「結構モテるんだ?」

「いや、そんなんでもないですよ。でも南聖中ってテニス部がめちゃくちゃモテてましたから多分その流れですよきっと。」


出身中学の南聖中のソフトテニス部は強く、そして自分たちの代には、モテモテのスリートップがいますからね。



「でも付き合ったら絶対良い人だよね、」

「そう見えます?全然良くない人ですけど」

「気遣いとか、優しいところとか。そういう男性って意外とあんまりいないんだよね。って、良則くんと関わってて思ったのよ、ずっと。」

「細かいですね。ありがとうございます」

「特に私みたいな、過去に男に酷い目にあったような女は、男子のそういうところつい見ちゃうんだよね。別に、恋愛対象どうのこうの以前に」


中々こんなこと言われないからびっくりした。と同時に、ちょっと嬉しかった。意外と人と関わってると、自分の知らないうちに自分についてを相手に見破られるんだなぁ。



「てか、過去に何かあったんですか?男の人と」

「うん。それで部活も続けられなくなっちゃったんだ。」



もっと話を聞くと、1年生の時に、男バレの当時のキャプテンと関係があったようだった。



「で、付き合っていたのもその先輩が私の事を好きだったとかじゃなくて、その先輩の他校の友達が私のことを狙ってたみたいなの。で、結果未遂だったけどね。でもみんなバレー関係者だったしその話広まるのも早くて、部活にもいれなかったし、1番はマネージャー同士でいざこざ起きたことかな。その他校の人が、マネの先輩の彼氏さんだったし」


おかげで人間不信になりかけたわ、なんて言う。



結構、こういったような話って周りで起きていたりして、話を聞くことが多い。でも思うのは、非がない人ほど、未来を失ってしまう。

俺の知ってる人だったら、1つ上の同じ中学の人だと思う。中学の部活の先輩の彼女さんだったのもあってソフトテニス部でも話題になった話だが、話を聞いた時は俺もゾクゾクした。


今の美紅先輩の話もそうだ。美紅先輩に非はない…と言ったらどうなのかは分からないけど、でも関わってる中で1番非がないのには間違いないと思う。




「ごめんね、こんな話聞かせて」

「いや、むしろ話してくれてありがとうございます。俺なんかに」

「なんか、不思議と話せた。普段ならこんなこと人に言わないのにね」



そうして俺は、飲んでいたお冷がなくなったので、継ぎ足しに行く。ついでに、美紅先輩のも入れて持ってきた。




「あ、ありがとう、わざわざ」

「いえいえ。他も知らないような話聞いちゃって、本当は何か奢りたいくらいですけどね、…てか、何かいります?」

「いやいいよ、気持ちだけ受け取る」

「…じゃあ、今度で。」




他にも色々と話して、とても楽しい時間だった。


それと同時に、気になるという気持ちが、好きという気持ちに変わった時間でもあった。




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