第14話 りはびり~でかいてみているだけ1


いつものこと。私が誰であってもまあ、他人なんて気にしないものです

恐れもしない。怒りはするかな。悲しまない。同情もない。哀れむことくらいはあるかも。心配するふりくらいもあるかも。恨むこともある。いいななんて思われたい。ただの平凡なきもちを私が誰かにもらうように。あなたも平凡なきもちを私から伝わる。


水子の墓をのぞきに、祖母のノンビリとした足取りに合わせ背中を丸めたまま墓地へ赴いた。丸くてただの石。そういう印象しかもてないような墓だった。名前もない子供の死がそこにある。それだけのことだった。祖母は手をあわせて何かを想いに馳せていた。

奈良県は静かな夜をくれない、真夏のこと。

照りつけて焼き殺す太陽が盆地のアスファルトを狙う。

水もぬるくなったまま持ち歩いていたが、それすら有難い。そのまま続いて太陽が身を隠すと続けざまに月が田んぼを照らし始める。

夜は蛙の図々しく響く鳴き声でうるさく眠れない。

夏休みだ。

楽しくもないが。

すでに誰もが寝静まったようにみえる夜中三時頃に玄関の引き戸をあけ、私は煙草と携帯灰皿を握りしめて庭へ出た。

柿の木がうねりあげた枝ぶりを、月光に浮かばせている。

いつだったか祖父が植えたというそれは物心ついたころからずっとそこに居る。

自らのことか、それとも現実か。

声がきこえた。

「僕を愛して」

風のなぶる音だったかもしれないし、遠くの方で吠えた犬の声の聞き違いかもしれない。水子の墓。写真にもうつらないくらい遠い過去、居たはずの子供。

名前もなく沈んでしまった生。

たとえば、と考える。

たとえばここに君が居たら、柿の実を食べることを許される世界だったら。

奇しくも。私がいなかったかもしれない世界に思いを馳せる。

それは祖母の合わせた手、二つ分の想いかもしれなかった。

暗い、暗い、廊下は軋む。軋んで、みつからないように部屋へ戻る。

ぼんやり、眠りにつくにはずいぶん匂いと音がうるさい田舎の夜だ。






















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