彼は私に嘘をつかない

荼八

濡場

僕の傷口を全部君に見せてあげたいんだ、今日はそう云う気分なんだ。


彼はそう呟いて、シャツのボタンを外しベッドに転がった。手首、肩、それから太腿。蚯蚓脹れの様に染み付いた行為の痕、生きている証拠と云わんばかりの真っ赤な線に私は魅了されてしまった。言葉は出なかったものの、真っ赤に潤んだ線に私は手を伸ばし触れた。甘い吐息と、僅かながらに百合の花の香りがした。


覆い被さる形で、私は彼に跨った。左手で髪を撫で、肩を指先でなぞる。私はゆっくり彼の中に入る様に優しく抱き寄せ、少しの間そのままでいた。


彼をまたベッドに押し倒し、息を落ち着ける。興奮と興味は尽きないが、其れは今から絶頂を迎える。道具箱から私は昨日の内に準備をしていた…そう云うとさながら、行為がしたかっただけなんて捉えられてしまうかもしれないが、ナイフを取り出した。とても良く切れるナイフだ。彼にキスをして、指で首筋から胸、下腹部までをなぞり、これまた同じ様にナイフで撫でた。暖かい液が漏れ出して、彼は少し痛そうにしながら、 大丈夫、怖くないよ。 と呟いた。私はそれが嬉しくて、彼を抱き締めながら身震いをした。肌から伝わる熱と、血液が私と彼を同じにしてくれている。込み上げる絶頂感は底を知れずに脊椎を伝わり脳の奥底を刺激する。


もっと声出して。


一突き、抱き寄せたままに振り被っり脇腹から私の皮膚に到達する勢いで腕を振るう。彼は身悶えをしながら声を抑えようとするが、漏れ出す。


ここがいいんだね。


先と同じ軌道になる様に刃を振るう。今度は彼の中を掻き混ぜるようにグリグリと動かす。彼は、私を受け入れる様に強く強く抱く。私も愈々我慢が出来なくなり、声を漏らしてしまってした。頬を擦り合わせていると、彼は涙を流しながらゆっくりと頷いた。


じゃあ、そろそろ…


私は彼の感情と混ざった、真っ赤なナイフを大きく振りかぶり。何回も振るった。何回も何回も、優しく、激しく。心のままに、そして彼の首を絞め、ベッドに伏せさせ、力いっぱいに首を潰すように、体重を乗せて。そして、左の胸を突いた。彼は泣きながら笑っていた。そして私も同じく笑っていた。


身体は火照りと彼の液と汗とでぐちゃぐちゃになっていて。後片付けのことを考えると、大変だななんて口にしながら、ベッドを立ってベランダの窓のさんに座りタバコに火をつけた。


雨の匂いと、遠くの夕焼けが綺麗だった。

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彼は私に嘘をつかない 荼八 @toya_jugo

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