三題噺
@package
おもちゃ・レモン・悪の中学校⇒指定なし
腐っている。
この学校はずっとそう言われ続けてきた。
割れた窓。怒号の飛び交う授業。裏庭に散らばる煙草の吸殻。これを見てそう思わない方があるいはおかしいのかもしれない。
近所の人はこの学校の制服を見るだけで眉をひそめる。距離を取る。中には聞こえるか聞こえないかの距離で悪口を言う奴もいる。
その扱いは殆どヤクザかヤンキーに向けてのそれだった。透明な境界線を引かれ「関わってはいけない人種」のカテゴリに押し込められているのをひしひしと感じた。
小学校で見たアニメを思い出す。某ライダー。某モン。某パン男。悪の組織が悪い事をやって倒されるいつもの儀式めいた展開。私はいつからか悪の組織側に共感する様になっていた。
悪い事をやりたくてやる人間はなかなかに少ない。泥棒と恐喝で生計を立てたい人間なぞいない。環境・親・出会いといったランダムネスな事象のかみ合わせが悪かっただけ。それだけ。
生きる為の行為を「悪」と持てる者たちに呼ばれ迫害される。私達も似たような物だ。「悪」をしなければナメられる。迫害される。「悪」は一人で生きていく力の無い私達が無事に生きていく為の方法でしかない。
だから私は悪の組織に憐憫を覚える。そして自らを重ね合わせる。「悪」の組織ならぬ「悪」の中学校。誰もが平穏とささやかな生活を求めて「悪」に魂を差し出す世界。誰が悪いのか。きっと誰も悪くない。
腐った果実は捨てられる。「善」にとって私達は腐った果実だ。ずさんな管理で腐った果実を何の感情も無く廃棄する。なぜ腐ったのかも分からないまま。
「善」は沢山の農薬を浴びて育つ。虫に食われないように。腐らないように。昔のアメリカのレモンは見た目を良くする為にとんでもない量の農薬を使っていたらしい。そうしなければ消費者に買って貰えないそうだ。
より高値で買われる。その為ならあらゆる犠牲を厭わない。農薬を浴び、長距離運搬に耐え、全身を凍りつかせ、切り刻まれる。すべては皆様に買って貰う為。
腐らないレモンはこう叫ぶ。「私は腐りません。だから頑張ればすべてのレモンは永遠に腐らないのです」
蓋を開ければおもちゃのレモン。おもちゃのレモンは繰り返す。「信じるレモンは救われるのです」
「善」のレモンもこう叫ぶ。「腐ったレモンは遠ざけろ。私達まで腐ります。腐ったレモンは捨てましょう」
「悪」のレモンは下にいる。みんなのおもみでつぶれてる。つぶされつづけてキズがつく。傷から菌が入り込む。体が茶色くなっていく。誰が悪いのか。きっと誰も悪くない。
おしまい
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