ショートショート集

@package

サイボーグの話

「やった、とうとう完成したぞ」


「どうしたんですか博士。大きな声を上げるとお体に障りますよ」


「助手の癖に一言余計なんだよ君は」


「まあいい。今やっと私が生涯をかけて追い求めた機械が完成したのだ」


博士はそう言って1cm四方の黒い箱を助手に差し出した。


「なんですかこれは。新手のサイコロか何かですか」


「馬鹿を言うな馬鹿を。この機械は人間の脳をそのまま再現出来るのだ。どうだ凄いだろう」


「私に隠れてこんな物を…。どうせならもっと金になる物を作って下さいよ。タイムマシンとかワープ装置とか」


「そんなのは私達の力じゃどうにもならんよ。それにこの装置だって案外金になる」


「どういうことですか」


助手が目の色を変えた。老害教授を抱えた落ちこぼれ窓際研究室にとって資金繰りは喫緊の課題。態度が豹変するのも無理からぬ話である。





「サイボーグを知っているかね」


「ハイ知ってます。体を機械に置き換えるアレですね」


「その通り。今や日進月歩の技術によって体のあらゆる部分を機械で代替できる世界になった」


「しかし脳だけは代替出来なかった。仕組みが複雑すぎるからね」


「話が見えてきましたよ。つまり今回の発明で人間の完全機械化が実現する…という訳ですか」


助手の目にさらなる光が宿る。


「その通り。延命治療としてのサイボーグ化は今でも盛んに行われているが肝心要の脳が代替出来ない以上限界があった」


「つまり脳を代替出来る様になれば人間の不老不死が実現するという事ですね」


「呑み込みが早くて助かるよ。その通りだ」


「しかもそのノウハウは私達だけが握っていると」


「そうだ。上手く使えば金なんぞいくらでも入る」


助手は気付けば身を乗り出していた。この技術を上手く使えば過去の大富豪にダブルスコアが付くほどの資産家になれる。なんせ商品は寿命だ。どれだけ金を払っても買いたい人はゴマンといる。





「これから忙しくなるだろうから君にも協力を頼みたい。私の取り分の0.01%を給料として払う。どうかね」


「…は?」


「いや気持ちは分かる。しかし不老不死になる事を考えると金はいくらあっても足りないんだよ。それに0.01%といっても莫大な金額だ。悪い話ではないと思うがね」


助手は憤りを感じずにはいられなかった。今までろくに成果もあげてこなかった偏屈ジジイの尻拭いをしてきたのは一体誰だと思っている。私がいなければ貴様などとうに路上を這い回っていただろうに。





「なあ頼むよ。君と私の仲じゃないか」


「…。わかりました」


「そうか!助かるよ。あともう少し調整すればー」


「あなたの偏屈ぶりにはうんざりしていた所です」


助手はそう言って机の上の灰皿を掴んで博士に殴りかかった。


「おい、何をする」


「私があなたの技術を有効活用してあげます」


「馬鹿、やめろ、後悔す」


博士は言葉を言い終えぬ内にこと切れた。





その後犯罪隠ぺいに成功した助手は博士が生み出した機械を大量生産した。


その会社の利益は過去の企業にトリプルスコアを付ける程であったという。もちろん助手もとい社長の資産は言わずもがなである。


初めは大富豪しか買えないような値段だった機械も生産量が増えるにつれどんどん安価になり、ついには国からの保険が適用される程の扱いになった。


その影響で死亡率は年々減少し、つい去年に「寿命による死亡率0%達成」というニュースが流れた。





「大変です社長」


「どうしたんだ秘書」


「人口が増加しています」


「それも考慮の内だ。全世界機械浸透時の人口の10倍まで十分賄えるだけの資源はある」


「生身同士の人間の子作りによる人口増加を計算に入れても全く問題ない。技術の進歩を考えれば資源の心配は無いだろう」


「いえ、爆発的に増加しているんです。この10年で人口が2倍に増えています」


社長の顔から血の気が引いた。


「なぜだ。原因はわかるか」


「どうやら完全サイボーグ化した夫婦が自分の子供を育てる…という風潮が一般化しているようです。生身時代に保存していたDNAを利用するとかなんとか」


「調査によると子供を育てているサイボーグ夫婦は全体の半数を超えるそうです。子育てとかいう枷を自ら背負うとは。人間の本能って奴なんでしょうかね」


理由はどうでもいい。問題は人口が増加するという事実だ。10年で人口が2倍増加。寿命による死亡率は0%。この事実が行き付く先は…。





おしまい

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