02

「あああ、終わんねえなあ」


 窓の外。夕暮れ。街の景色。


「きれいだなあ。夕暮れが」


班長リーダー。休憩ですか?」


「新入生くんには分かんないだろうなあ。俺ぐらいの歳になると、もう休憩しないと、やっていけないんだよ」


「5才しか違わないっすよ」


 新入生。15才なのに、わけわからないぐらい、仕事ができる。


 画面をのぞきこんで。


「そんなに官邸に義理立てする必要、なくないですか?」


「まあ、それは、そうなんだけどね」


 化け物が出たから、システムを改修しろと言われた。何もないところにいきなりでっかい小屋サーバ作ったら化け物ぐらい出るもんなんだけど、官邸はお構い無しらしい。


「きれいだ。街の景色が」


「この景色が見たいからここのオフィス取ったとか、言わないすよね?」


「あ、わかる?」


「うっそ」


 タワーマンションの、中腹ぐらいの階。ここからの景色。ビルの街並みと、地平線。それがちょうど両方眺められる位置取り。


「ほどほどにしといてくださいね。班長倒れたら、仕事ぜんぶ僕に来るんすから」


「できるでしょ」


「いや、まあ、できますけど」


「じゃあ大丈夫だ」


 新入生の携帯端末。鳴る。


「おっと。ねえちゃんからだ」


「ねえちゃんいるんだ。へえ」


「班長と同い年っすよ。女子高生だけど」


「20で女子高生か。うらやましいかぎりだ」


「臓物がわるくって、駅前の病院に長い間入院してたんすよ。最近出所しました」


「出所」


「どこに出してもはずかしくない、自慢のねえちゃんです」


「いいねえ。ほほえましいかぎりだよ」


「班長も妹さんいますよね。さぞかし尊敬されてるんじゃないんっすか?」


「俺。おれはだめだよ。ぜんぜんだめ。妹の前ではダメ兄貴」


「うそだあ」


「ほんとほんと」


妹は、手先の器用さと体力を引き換えに学力がない。自分がいくら官邸案件とか街の平和に貢献してるとか言っても、絶対に信じないだろう。


「まあ、そういう、功を誇るもんでもないし。妹の前ではダメ兄貴ぐらいがちょうどいいんだよ」


「そういうもんなんすかねえ」


新入生。ちょっと携帯端末をいじって。


「ねえちゃん一階のカフェにいるらしいんで、ちょっと行ってきます。班長もどうっすか」


「いいよいいよ。同い年の女子高生に対して、僕はほら、ワークホリッカーだから」


「そっすか。じゃ」


 街の景色。


 この景色のためなら、いくらでも官邸に媚を売ってやろうと、思える夕暮れ。


「お」


 携帯端末。妹から。


「なんだ。おまえも下のカフェか」


 一階のカフェにいるから降りてこい、という連絡。箸でパスタ食ってる自撮り写真。


「しかたねえなあ」


 席を立った。


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