その世界に

一色 サラ

第1話 そこに君がいる

 9月の半ばに入って、2学期が始まって2週間ほどたった。まだ多少暑さが残っている。

 今年、高校2年生になった岳は、朝7時半ごろ最寄りである林ノりんのご駅のホームで、高校に通学のため、電車を待っていた。30分に1本の本数で電車はやってくるので、1本乗り遅れてしまうと、学校に完全に遅刻をしてしまう。

 しばらくして、駅のホームに電車が到着して乗り込むと、それほど人は乗っていなかった。岳が住んでいる場所は少し山に近いこともあるのか、乗り込んでいる人が、少なくて空席が目立っている。

いつものように、空いている場所に座って、本を読む。2駅ぐらいすれば、多くの人が乗ってくる。ほとんどが制服を着た学生だ。

「岳、元気してる?」

「おう直樹、おはよう。」

直樹は隣に座って、岳の顔を覗き込んできた。

「昨日出された課題終わった?」

「終わったよ。」

「あんだけ、ゲームしたのに。」

そうだ、昨日は遅くまで、直樹とオンラインゲームしていた。

「何笑ってだよ」

「別に…」

そんなに課題が気になるなら、ゲームを早く切り上げればいいのにと思いつつ、岳自身もゲームに没頭してしまっていたので、何も返す言葉が見つからなかった。

 電車は山を下りるように進んでゆき、海沿いを走りだした電車の窓からは広大な海が見えてきた。

 「次は、珊里瑚さんりご、珊里瑚」とアナウンスが流れてきた。

「岳、降りるぞ」

「うん」

 通っている珊里瑚高校がある駅に電車が到着した。


 電車を降りて坂を登った先に、岳が通っている高校の建物がある。逆に下れば、一面に広がる水平線が見える絶景がある。

ここから、10程度歩く。登り坂が急なので、高校に着く前から少し疲れてくる。

 ただ、高校に着く途中にある「憩いの間」という名前のカフェがあって、そこを通るたびに、岳は心が弾ずませた。

「今日は居ないみたいだぞ」

「ああ」

直樹とのこの会話が、不快だ。言いたいことがあれば言えばいいのに、確信的なことには触れてこない。

 店のドアに『本日はお休みです』と書かれたボードがぶら下がっている。水曜日の今日は定休日のため、あの笑顔を見ることができなかった。

 

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