閑話 女神がもたらしたもの ~腐ったアリエナ上層部~

―短いですm(__)m―



約16年前、アルスト王国から神国イヴァリアに国名が変わってから人族の中に大きな『格差』が生まれ・・・そして『差別』が生まれた。


それは女神イヴァがもたらしたものだった。


女神のいる場所イヴァリア』と名付けれたその国名とイヴァリアのみに張られた結界によって、イヴァリア国民の心の中に


『自分たちは女神により守られている。』


という思いが芽生えた。


そして、その思いが平常化し、この地で暮らすには特別な許可が必要になった事で『この聖なる地に暮らす自分たちは、他に暮らす者達より特別な存在だ。』という思い上がりが根付くのにそんなに時間は掛からなかった。


その逆も然り、神国以外に暮らす者達の心にイヴァリアに生きる者達を羨む気持ちや妬み、不満、不公平感というネガティブな感情が根付くのにも時間は掛からなかった。


しかし、女神イヴァが自ら生み出したという『女神の心』を贈った事によって各地の溜飲が多少下がる事になる。それは結界を出る事が出来ないイヴァの苦肉の策であり、そういう意味合いで贈られたものでは無いのだが、『女神は我らを見捨てたわけでは無かったのだ。』と『女神が我らに心を贈ってくださった。』と・・・『女神の心』を目にした人々がそう思ったからだった。


かと言って、


〇イヴァリアのみに降臨する女神


〇イヴァリアのみに張られた結界


〇特別な許可が無ければイヴァリアで暮らせない・・・


という事実に変わりは無い・・・根付いた『格差』は払拭される事は無かった。


それにより・・個人単位では無く国(都市等)単位でのイヴァへの信仰度合いに温度差が生まれた。


例えば、信仰度合いを数値化してイヴァリアを100とした場合に


アリエナは・・『62』ホロネルは・・『54』とイヴァリアに比べて信仰度合いは大きく下がり、グラティアに至っては『45』といったような具合であった。


しかしそれは魔族の王の復活の際に再降臨し、3人の勇者をこの地に召喚し、国に結界を張るという奇跡を起こした女神を信じて崇めていない・・・という事ではなく温度が違うだけで、逆に言えば・・・洗脳度合いの違いとも言えるがイヴァリアの熱がのだった。


また、イヴァにより制定された『洗礼の儀式』により子供たちの中にも『格差』『差別』が生まれ始め・・・そして・・・以上の事は当然に騎士団にも影響を与えた。


特に、先の魔族との戦いで功績を上げた者たちがイヴァリアの近衛騎士隊長又はそれ以上の地位に就いた事は騎士たちにとって大きな影響を与え、元々アルスト王国時代にもあった騎士たちの格差は神国になった事でさらに広がった。


そして・・・徐々にイヴァリアでの落ちこぼれが各地に就任するようになり、またイヴァリア騎士団上層部にいる者の三男や四男がアリエナに送られるようになると騎士団は一気に腐り始めていく。(女神イヴァや神国イヴァリアに貢献した者、洗礼によって優秀だと判断された者がイヴァリアに入る事を除き、イヴァリアからアリエナへの降格はあるにせよ、アリエナからイヴァリアへの昇格はほぼ無いに等しい状況だった。)


それでも騎士たちの心にイヴァリアに行きたい気持ちが失われる事は無かった。


特にその想いが強かったのはアリエナ騎士団上層部の者達であった。それ故に上層部の者達は功を求め、責は他者に押し付け・・・足を引っ張り、蹴落とす・・・そんな事が常態化していった。


アリエナ騎士団上層部は腐敗していた。


**


そんな折、蛮族たちによる農村集落襲撃という事件が起こった。


『ここで活躍すれば・・・・。』


事件をチャンスと捉えた野心的な男たちは目をギラギラさせた。特に躍起になったのはマクナガル、ドリス、マーカスと言った面々だった。


しかし、彼らの上司たちは自ら名乗り出たマクナガル達に顔を顰めた。


同族嫌悪という事であろうか・・・騎士団上層部の者達は野心的な部下を嫌っていたからだ。自分の功のために何をしでかすか分からない彼らに蛮族討伐を任せるかどうか・・・・足を引っ張られる事を恐れた上層部は頭を悩ませた。


しかし・・・


『上手くいけば自分の手柄にすればいいし、失敗すれば失脚させればいい。』


そう考えた上層部は名乗り出た彼らに指揮を任せた。


結果・・・上層部にとって邪魔であった『ダナン』という名や、野心があり過ぎるマクナガル、マーカスをアリエナ内から排除する事に・・・ある意味成功したのだった。


襲われた集落の人々やマーカスと供に死んだ騎士達の事に心を砕く事がない彼らはまさに腐りきっていた。


また、彼らは野心的な面子と同様に、マリウスやサイリスのような真面目な男たちも良く思っていなかった。真面目ではある・・・が、それ過ぎるが故に融通が利かないからだ。


実力からすればマリウスは中将以上の階級にいてもおかしくないのだが、都民のため、女神のために正義を貫こうとするマリウスを腐った上層部が懐に招き入れるわけがなかった。



****



―イヴァリア歴16年7月20日 未明―


「何をやっとるのだ!」


「この失態の責任は総司令にあるのでは?」


「何を言うのだ!!下の者達をまともに率いる事ができないお前のせいではないのか?」


「そうだ!!」


「まず集落防衛の責任者は誰か・・だろう??」


「私では無いぞ!!!」


「はっ!!!!また始まった!!!」


マリウス達がミューレル達と戦っている中、騎士団の会議室では醜い罵り合いが繰り広げられていた。


『蛮族が都市に襲撃してきた。』と耳にした彼らの頭に最初に過ったことは


『これは誰の責任であるか?』


であった。


都民の無事より自分の地位を第一とする彼らに・・・・慌てる騎士たちに『襲撃者たちを速やかに排除せよ。また、都市への被害を最小限に抑えるため故に治癒魔法外の魔法の使用を禁ずる。』とだけ指示を出し、会議室に引き籠っては青筋を立て飛ばす唾と同じように責任を押し付け合うだけの彼らに・・・・アリエナを守れるはずが無かった。

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