第51話 the protagonist④

正門の両裏側でギシギシと音を立てる大きな歯車を、大柄な6名の騎士が必死で回している。


ギ・・・ギィィイイ・・・


鈍い音を鳴らしながら両外開きの正門が閉まり始めた事に気づいたアルガスが声を上げた。


「あ!!おい!門が閉まってくぞ!!」


「何!?させるな!!!進めぇえええええええええええ!!!!」


「行けぇええええええええええええええ!!!」


「行かせるな!突撃ぃぃいいいいいいいいい!!!」


「!?」


アルガスの声に一斉に正門に視線を向けた蛮族達は、ここが正念場だと力を振り絞り正門を守っている騎士たちに突っ込む・・・・が、門の奥から飛び出してきた騎士たちの姿に目を大きく見開いた。


「「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」」


「くそ!!ここに来て増えんのかよ!!」


「蹴散らせぇええええ!!」


「うらあああ!!」


愚痴のような怒声を上げたバガンは、ギリッ!!と歯を食いしばり騎士たちに飛びかかるとそれに続いて蛮族たちも声を荒げて突進する。


「下がるぞ!!マリウス!!!冷静になれ!!!!!」


そんな中、サイリスに羽交い絞めされたマリウスは必死にもがくが飛び出した騎士たちと入れ替わるように正門内に向かって引き摺られていた。


「ハーセンさん!!!!やめてくれ!!ドゥーエが!!!!」


「落ち着け!!アイツはきっと大丈夫だ!!!合流したヤツの話によると、彼奴らは倒れた騎士に止めを刺さないらしい!!まずは城を守るぞ!!」


「しかし!!!」


「お前は隊長だろぉおお!!!!頭を切り換えろ!!!!!」


「くっ・・・分かりました・・・。」


「よし!!!おい!!魔法使用の許可はまだ出ねぇのか!?!?」


抵抗を止めたマリウスに頷いたサイリスは、羽交い絞めにしていた両腕をマリウスから放すと本壁の上にいる騎士や魔法士たちに向かって声を上げた。


「ま、まだ出ていないようです・・。」


「くそぉ!あの老害どもがぁああああああああああああ!!!!」


歯切れの悪い魔法士の返事に今度はサイリスが怒声を上げた。


アリエナ騎士団魔法士隊は、総司令官を始めとする上層部から『治癒』以外の魔法の使用を禁止されていた。中央部まで攻め込まれていながら、未だに都市の被害を抑えたいと考えているその蛮族達を舐めているとしか言わざるを得ない対応と判断の遅さに立腹していた。


何より第二級警鐘が鳴り響いてからこれまで大将以上の将校の姿をサイリスは目にしていなかった。


「ぐぬぅううう・・・・・・・!?」


青筋を立て目を血走らせたサイリスは唸りながら迫って来る蛮族たちに視線を戻すと、次々吹き飛ばされる騎士たちの姿に驚きを露わにした。


「な・・・何なんだアイツらは!!!」


騎士たちを蹴散らしながら一直線に門に向かってくるエストと、エストをフォローするようにその背後を縦横無尽に飛び回るリュナの姿にゾッとしたサイリスは、本壁の上部にいる魔法士たちに視線を戻し声を荒げた。


「お前らぁあああ!!!俺が責任を取る!!!魔法を使えぇええ!!!!!」


「え??」


「このままでは防ぎ切れん!!!魔法で彼奴らの行く手を阻め!!」


「し、しかし!」


「早くしろぉおおおおおお!!ここを落とされてもいいのかあああ!!!!」


「は、はい!!!!」


「精霊よ!力を!」


サイリスのその形相と怒号にピンッ!と背筋を伸ばした魔法士たちは慌てて杖をエストに向かって突き出した。


「ん!!よし!!!」


「待て!上から魔法が来るぞ。!!」


騎士たちを倒しきり、正門が閉まりきる前に中に飛び込もうとしていたエストだったが背後から聞こえたセスの声に反応し顔を上げた。


『『『炎壁blaze wall』』』


「ぐぅっ!!」


エストの目に自分に向かって杖を突き出している魔法士たちの姿が飛び込むと、地面を強く蹴り後方に跳び上がと・・・


ボォオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアア!!!!!


「あぶねっ!」


エストの眼前に炎の壁が勢いよく噴き上がった。


「撃て撃て撃て撃て!!!!」


『『火弾fire bullet』』


土槍spear


「ん!!」


ドン!!ドン!!ドンッ!!!!!


更に魔法士たちに号令がかかり着地したエストに火弾や土槍が襲い掛かるが、ピョン!ピョン!!と軽く後方に飛び跳ねながらそれを全て躱した。。。。が、その隙に正門が完全に閉じられてしまう。


ギィィイイイイイイイイ・・・・ガオォオオオオオオオオオオン!!


重厚感のある音を周囲に響き渡った。


「「「ああ!!!」」」


「よぉおおおおおおおし!!!」


「畳み掛けろぉおおおおおお!!!」


落胆した蛮族たちに対し、閉じられた扉に安堵した正門内の騎士たちが拳を掲げ上げると、魔法士たちは続けて魔法を放ち彼らに追い打ちを掛けた。


『『『火弾fire bullet』』』


『『『土槍spear』』』


ド!ド!ド!ド!!!!!ドォォオオン!!!


「ぐっ!」


「うああっ!!!」


しかし、高みから襲い掛かる数々の魔法に蛮族たちが倒されていくなか・・・後方からスッと静かに出て来たアリシアが手にした扇子をトン♪と指で弾き音を鳴らせるとギロリと魔法士たちを睨み上げた。


氷刺icicle


怒りを露わにした視線を魔法士たちに向けたアリシアがそう呟くと、トン・・トン・・と掲げた扇子を指で叩くたびに魔法士たちの喉や目、額に氷柱が突き刺さっていく。


「あう????」


「ぐっつ・・・が、があああああああああ!!!」


「ぎゃあああああああああああ!!!」


「ぐああああああ・・・・あ!」


喉を抑え苦しそうにもがいていた魔法士が、手摺壁に体を預けるがぐらりと態勢を崩し本壁上部から落下してしまった。


「あああああああああああああああああああああ・・・・げぅっ!?・・・・。」


地面に体を打ち付けピクピクと痙攣している魔法士の横を通り過ぎたバガンが、閉ざされた大きな扉の前に辿り着くと何度も両手を叩き付けた。


ガアァアアン!!


「くそぉおおおおっ!!!!」


が、無論、鉄製のその扉はビクともしない。


「間に合いませんでしたか・・・。」


「どうする?」


「城壁の周囲を回って別の入り口を探すか?」


「それは難しいでしょうね・・。」


「そんなのもう閉じられてるに決まってるだろうが!」


「はぁ??じゃあ、どうすんだよ!!」


正門を前にして足を止めざるを得なくなった蛮族たちが相談・・・と、いうようりも言い合いを始めるが、アルガスはキョトンと首を傾げて立っているエストに気づいて声を掛けた。


「どうしたんだ?」


「あの・・正門の扉は最初から開いてる予定だったんですか?」


「ん??」


「最初から閉じてたらどうしてたんですか??」


「ん・・・んんん???」


エストの素朴な疑問に目を丸くしたアルガスは言葉に詰まってしまいミューレルに視線を向けて助けを求めた。


「さて・・どうしてたでしょうね・・・・ところでエスト君には何か考えがあるんですか?」


2人の会話に耳を傾けていたミューレルは、アルガスの『助けてくれ』という視線にフッ・・と困ったように眉尻を下げるとエストに逆質問を投げかけた。ミューレル自身もそこは行き当たりばったりのところがあったようだ。


「あ!はい。城壁を跳び越えて中から扉を開けて来ます。」


「ほ???」


「へぇ~~♪いいじゃない!やってみなさいよ♪」


想像外のエストの答えにミューレルは思わず呆けると、腕を組んだリュナがそう促すのでさらに素っ頓狂な声を上げた。


「ふぉぉっ!?!?!?」


「うん!ちょっと行ってくる!!」


リュナに顔(フードは変わらず深く被っている)を向けてニッ!と笑ったエストはトトト、、、、と軽やかに本壁から距離を取った。


「おいおい・・坊主、何を考えてるんだ?」


「おう!お前何しようってんだ??」


すると、下がったエストの周囲にいた男たちが声を掛けて来た・・・


「跳んで中に入ります!!!」


「は?ふざけてる場合じゃねぇぞ?」


「おいおい・・。」


「いや、いくらお前さんで・・・・・も!?」


が、反論する男たちの話を切り上げて走り出すと


『スキル 0⇔100ゼロワンハンドレット 5gravity』


これまで通常の重力の5倍の負荷をかけたまま戦っていたエストは、バン!!と地面を蹴り上げる瞬間に通常の二分の一の重力へと切り換えて高く跳び上がった。




「「「「「「「は!?!?!?(ほぉあっ!?)」」」」」」」


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