第52話 the protagonist⑤
「「「「「「「は!?!?!?(ほぉあっ!?)」」」」」」」
ミューレルたちの想像を遥かに超える跳躍をしたエストは、アリエナ城を囲い守る本壁を軽く跳び越えた。
「あ!やべ・・ちょっと高く跳び過ぎちゃった。」
「「「・・・・・・・・・。」」」
上空で跳び過ぎたと苦笑いを浮かべたているエストの小さくなった姿を見上げたミューレル達は、目を点にしてあんぐりと口を大きく開き硬直している。
「わお!!!」
そんな中、母親のリュナだけが感嘆の声を上げ嬉しそうに目を細めて息子の背中を見つめていた。
****
「おい!どうなった??」
「魔法士たちの姿が見えないぞ!!」
「はぁ・・はぁ・・・ハーセン隊長!!本壁上の魔法士たちが敵の魔法により全滅したようですっ。」
「なにぃ!?!?なんと言う事だ・・・魔法士の増援を増やすよう伝えてくれ!」
「え?上の許可は・・」
「そんなもの取らなくていい!!」
「はっ!!」
「おい!外はどうなっている?」
扉が閉じられた正門の内側にいた騎士たちは、崩れた体制を立て直そうと慌ただしく動いていた。マリウス・ラートナム近衛騎士隊長も、信頼するドゥーエ・ガラハウ騎士が倒された動揺から立ち直り周囲にいる騎士たちに指示を出していた。
「城内に人は残っているのか?」
「は、はい!職員が数名・・。」
「なら急ぎ後門から退避させろ!」
「は!」
「また、後門を閉じたらそこにいる騎士たちをこっちに回してくれ!」
「は!!!」
「よし!次・・・・ん・・・・?」
しかし、きびきびと動き回りながら指示を出していたマリウスだったが、ピクッ!と体を震わせると突然足を止めてキョロキョロと周囲を見渡し始めた。
「・・・・。」
「どうした?マリウス??」
その様子に気づいたサイリスが問い掛けるが、マリウスは眉を顰めて首を忙しく左右に振り続けている。
『ぁぁぁ・・』
「何か・・・聞こえませんか??」
「あ?」
騒がしく動き回る騎士たちがいる周囲に視線を向け続けながら、マリウスはサイリスに逆に投げかけるも・・・サイリスは首を若干傾げるだけで徐々に近づいてくる声ににはまだ気づけていなかった。
『ぁぁぁぁぁああああ・・・』
「む!!!!上か!!!!!」
しかし、どこからともなく近づいてくるその叫び声が、上空からである事に気づいたマリウスは慌てて剣を抜き構えた。
「どうした?マリウ・・・なにぃいいいいいいいいいいい!!!!」
サイリスは剣を抜き上を見上げるマリウスに怪訝な表情を浮かべるも、同じく見上げると刀を上段に構えながら落下してくるエストの姿を視界に捉えて驚愕した。
「あああああああああああああああああああああ!!!!」
刀を振り上げたまま落下してきたエストは、勢いそのままに真下で剣を構えているマリウスに向かってその刀を振り下ろしと、
「だああっ!!!!」
「ぬぅうううううううう!!!」
ガキィイイイイイイイイイイイイイイイ!!
マリウスは剣を振り上げ渾身の力を込めて迎え撃った。
「え??」
「なんだ??」
「アイツ・・さっきまで外にいた奴じゃないか!?」
「どうやって侵入したんだ!!!」
突如の金切音の発生にその周囲で慌ただしくしていた騎士たちが騒然とした。正門と城との中間地点でマリウスと先ほど外にいたはずのフードを深く被ったエストが剣と刀を合わせていたのだから驚くのも当然だろう。
(な、何という重い一撃なんだ・・・。)
周囲が騒ぎ始めるなか、マリウスは目を歪めていた。
ギ・・・ギリィッ・・・
さらに簡単に弾き返せると思っていたエストの斬撃が予想以上に重く歯を喰いしばる。
ギギギギッギ!!!!
「く!!!。。。ぅうううううううううう!!」
しかし、押し返そうと唸り声を上げるがエストの刀に徐々に圧され始めたマリウスは、これ以上力比べをしても無意味だと判断し体を翻してエストの刀をいなした。
「お!?」
ギィイイイイイイッ!!!
剣を外されたエストの刀が地面を穿ったが、その反動を利用してクルッ!と前転すると地面に着地した。
「ふぅうううううううっ!!」
「このぉおおお!!」
「ん!」
着地したと同時に地面に片手を着いたエストを挟んだマリウスとサイリスが剣を振り下ろす・・・・が、エストは着地した姿勢のままススッと前に移動して左右から襲い掛かる剣を躱すと、左足を踏ん張りサイリスの腹部に回し蹴りをお見舞いした。
「ごふぅうっ!!」
下から蹴り上げられたサイリスの体は空中に浮かび上がりその顔を歪めると、間髪入れずに跳び上がったエストはこごまったサイリスの背中に刀を打ちつけた。
「がはぁっ!!!!!」
打ちぬかれた勢いで頭から一回転し、ゴンッ!!!と鈍い音を上げ背中を地面に叩きつけたサイリスが苦悶の表情を浮かべる。
「サイリスさん!!!くっ!」
その状況を目にしギリッ!と剣を握る手に力を込めたマリウスは、跳び上がったエストが着地する前に横薙ぎにいく。
『スキル
「ぬぅああああああああああ!!!」
向かって来るマリウスを見ていたエストは、刀を構えて防御の姿勢をとるとマリウスは力の籠った声を上げ剣を振り抜いた。
キンッ!!
が、マリウスの予想に反してとても軽い金属音が周囲に響き渡る。
「お・・重さを一切感じなかった・・・・な・・・・何なんだ!!」
マリウスはあまりの手ごたえの無さに困惑した。
横薙ぎを刀で受け止めたエストが、先ほどの重い一撃とは真逆にアリエナ城の方向へ軽く簡単に吹き飛んでいったからだ。
「おあっ!?」
「くっ!!!!」
「わああっ!?!?」
突如目前に迫って来たエストの姿に声を上げたのは周囲を取り囲んでいた騎士たちだった。各々身を屈めるなどをして吹き飛んできたエストを避けると、皆揃って頭上をすり抜けていった男に視線を向けた。
「おおお!すげぇ!!!」
「よし!体を打ち付けて終わりだ!!!」
「捕らえるぞ!!!」
「流石はラートナム近衛騎士隊長!!」
エストが無重力状態にあるとは知らず、マリウスのパワーによって得体のしれない男は地面と水平に吹き飛んでいったのだと・・・何という力強さだと感嘆し、そう思い込んでいた騎士たちだったが、エストが途中で体を翻しアリエナ城の壁に両足を着けてググッ!!!と体を深く沈めると(この瞬間に重力スキルを解除している)、ピョ~~~ンと斜め前方に跳び上がり向かって来る騎士たちの頭上を越えて行った。
「は?」
「な!!」
「嘘だろ・・・・。」
その一連の動作を目で追っていた騎士たちは呆然とした。
「何をボーっとしている!!!!!!追うぞ!!!!」
自分達に見向きもせず、軽やかに正門に向かってトトトト♪と走っていくエストの背中を呆然とただ見つめていた騎士たちに怒声を上げたのはマリウスだった。
「「「あ!!は、はいぃいいいいい!!!」」」
立ち尽くす騎士たちを掻き分けたマリウスがエストの後を追いかけると、その怒声にハッとした騎士たちも剣を抜いてマリウスに続いた・・・が、すでに正門前に到着していたエストはそこを防衛している騎士たちと戦闘を開始していた。
「うおおおおおおおおおお!!!」
「叩き切れぇえええええええええ!!」
「ん!!!」
「ぐはっ!!」
「ぎゃあああ!!!」
「つ・・つえぇ・・。」
一斉に斬りかかる騎士たちを物ともせずに次々と打ち倒していくエストの姿に、駆けつけた騎士たちは再び唖然とするのだった。
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