第48話  the protagonist①

「よし!!構えろ!!!」


邪魔だったニドランが退い事で、一斉射撃すべく隊員達が銃を構え直した。


「待って下さい!時間を掛け過ぎました。まだそこにいるとは限りません!」


砲撃隊の前には未だに高さ5m、長さは15m程はあると思われる土の壁が街路の中央に立ちはだかっていた。


砲撃隊員たちは街路から教会入口に続く広い階段を30段(約6m弱)上った先で銃を構えているのだが、そこからそれなりに距離があるため壁の向こうの様子は見て取れなかった。


街路の奥は広場があり、街路と広場の間には数多くの樹々が立ち並んでいた。


『中将に気を取られている内に、樹々に紛れて蛮族達がその場を離れている可能性がある。』


さらにエルピは『銃を構えながら警告及び前進し、向こうの出方を見るべきだ。』と提言した。しかし、先程のアリシアの『降雹Haze』により大きな痛手を受けた砲撃隊の面々は明らかにそれを警戒・・・と、言うよりもそれを恐れているようだった。


「な、ならばお前が先行しろ!」


「はい!!よし、続け!」


「は、はい。」


「りょ、了解・・・。」


「急げ!もたもたするな!」


「あ、ああ。」


「分かっている・・。」


臆病な上官から先行するよう命じられたエルピが階段を下り始めるが、続く隊員たちの足取りは重かった。エルピは発破をかけるも良く見れば、腕や頭に包帯を巻いている者が多く混ざっていた。さらに増援で来た隊員たちの顔には先程の話を聞いたためか恐怖の色があるのが見て取れた。


(チッ!!ドゥーエ・・・砲撃隊こちらにも腰抜けが多いみたいだ。)


心の中で舌打ちしながら階段を下りきったエルピが警告を発しようとしたその時・・・


カンッ!コンッ!カラン・・・カンッ!・・・・カンッ!!


壁の上部から数個の雹が降り注いできた。


「あ!」


「ひっ!!!」


「これは・・・まさか!!・・ダァアアアン!!!!!


カンッ!コンッ!コンッ!カランッ!!!


「ひぃっ!!」


「う、打てぇえええええええ!!!」


「おい!待て!!!」


「うわあああああああああああああ!!!!」


大量に降り注ぐ大粒の雹により、同僚たちが打ちのめされていく地獄絵図と化した先程の光景は隊員たちの脳裏に焼き付いていた。


そして『降雹Haze』の直撃を受け頭に包帯を巻いていた隊員が、降り注ぎ始めた雹に恐怖し引き金を引いてしまうと、さらに降ってきた数個の雹にパニックになった他の隊員たちも引き金を引いてしまう・・・・


ダァン!!ダダダダダダダダ!!!!ダダダダダダダダ!!!!「撃つな!やめ・・ダダダダダダダダダダダ!!!!ダダダダダダダダダダダァァアアアアン!!!!


数個の雹がただの時間稼ぎだと気づいたエルピが大声を上げるがもう遅い。その声は激しい射撃音によりかき消されてしまった。





銃撃音が鳴り終わり、硝煙が風に流されるとエルピの目に一斉射撃により崩れ落ちた土の壁の残骸が映った・・・・が、




「くそぉおっ!!!」





崩れ落ちた壁その先にミューレル達の姿は無かった。




****



―イヴァリア歴16年7月20日 午前2時16分―


未だに解除されない『屋内退避命令』にアリエナに暮らす人々が不安に駆られているなか、都の中心部にある広場を中央突破すべくミューレル達は一塊となって走っていた。


「走れ走れぇええええええええええ!!!」


「うおおおおおおおお!!!」


「食い止めろ!!!」


「うらぁああああ!!!」


「ぐあっ!?」


「いたぞ!!突撃ぃいいい!!!」


「「「おおおおお!!!!」」」


「ぐ・・おおおおおおお!!!」


「ぎゃあ!!!」


「うああああああ!!!」


が、広場は混沌としていた。


東西に長い楕円形の形をした広場の突っ走っているミューレル達に対して、アリエナ城前で構えていた騎士達は無論、北や南から集まって来た騎士達が次々と襲いかかっていた。そして、背後からは砲撃隊の射程距離から外れた事で、先程エルピが言ったように指揮系統が別である騎士達が今度は遠慮なくミューレル達を追いかけていた。


そのため様々な怒声や叫び声が入り乱れていた。


先頭に立つバガンやセス達は正面に待ち構えている騎士を蹴散らし、タンザやアルガスを筆頭に左右から襲いかかって来る騎士達を斬り伏せながら、少しずつではあるものの徐々にアリエナ城に近づいていくミューレル達だったが、騎士達の猛攻に一人・・また一人と仲間が倒れていった・・・。


バチッチチチチ!!!!!


「ぐあああああああ!!!」


「とても・・遠い城だ・・・。」


自らも『電撃』を駆使し騎士を倒していたミューレルだったが、正面にそびえるアリエナ城を見上げると思わずそう呟いてしまった。



「「「「うおおおおおおお!!」」」」」



更にミューレル達の背後に追いかけて来た騎士たちが声を上げ迫って来た。


「ミュンちゃん!!アリシアさん!!合わせて!!!!」


「分かったし!」


「ええ!」


だが、迫る声に振り返ったロックは再び巨大な土の壁を立ち上げた。


擁壁Retaining wall


「ああ!?」


「くそ!迂回しろ!!」


目の前に立ち上がった壁にぶつかり足を止めた彼らに、アリシアは大粒の雹を落とし、ミュンは両掌から生み出した激しい水流で彼らを押し流した。


降雹Haze


激流Torrent


「ぐああああああああああああああ!!」


「うわあああああああああああああああああ!!」


「ぎゃあああああああ!」


「おぼおお!おぼおぼぼぼぼ!!!」


「うばぁあああああ!!!!」


**


ギィイイイイイン!!!キンッ!!!


「くっ・・・!?何だ?やられたのか!?」


アルガスと戦っていた騎士が、剣を弾かれたと同時に聞こえた仲間たちの絶叫に思わず振り返ってしまった。


「あ?正気か?」


それをアルガスが見過ごすわけが無い。


「ぐああっ!!」


ズバッ!とその騎士を斬り伏せたアルガスだった・・・が、倒れた騎士の後方から別の騎士が飛び掛かって来る。


「このぉおおおおおおお!!!」


「切りがねぇなっ!!!」


キィイン!!ドゴッ!!!


「あ!?うぼおっ!!」


「と・・・・ん?なんだ??」


ぼやきながら飛び込んで来た騎士の剣を捌いて胸部に前蹴りを喰らわせたアルガスは、吹き飛んだ騎士の先で一小隊と思われる騎士たちが混乱している事に気づいた。


「くそっ!!!上の命令でこっちは魔法を使えないってのに!」


「数で押し込め!!!魔法を使わせる・・な!?ぎゃあああああああ!!!」


「な・・・何だ!?こいつは!?!?」


「うおおお!!!」


「コイツいったいどこから!」


「ぐあああっ!!!」


「風魔法だと!?」


「ぎゃっ!!」


「つ・・・・強い・・・。」


「うわあああああああああ!!!」


「うぐぅっ!!」


次々と倒れ吹っ飛んでいく騎士たちの姿に、アルガスは目を丸くして唖然としていたが、


「あ!!!お前!!!」


倒れた騎士達の真ん中からパーカーを深く被り、刀を逆手にしたエストが姿を見せるとニッ!笑い駆け寄った。


「てっきりもう合流しないのかと思っていたぞ。」


「遅れてすいません!あの・・・で、今はどこに向かっているんですか?」


「ああ!今はアリエナ城に向かっている・・・が、説明は後だ!」


「そうですね。分りました!」


現状を把握出来ていないエストだったが、戦っているミューレル達が窮地に追い込まれているのは見て取れた。故に今は目標先だけわかれば十分だったエストは刀を持ち直すとアルガスと共にミューレル達のもとへ駆けつけた。


「おお!良く無事で・・・ぬぇい!!!!!」バチッ!!「ぎゃああ!!」


「遅れてすいません。」


「いや、いいんです。よく、!?!?」


エストが合流した事に気づいたミューレルは戦いながらも『原石』を破壊してくれたエストに労いの言葉を掛けようとしたのだが、



「よぉおおし!!ここまで来ればアイツらに邪魔されねぇぜ!!」



その頭上を飛び越えたニドランがミューレル達の前に着地した。



「チッ!!面倒な相手が来たぜ。」



強敵の再出現にバガンは舌を鳴らし剣を構えた・・・が、コテン!と首を傾げたエストはニドランを指差すと、バガンと同じく剣を構えていたアルガスに純粋な質問を投げかけた。


「あの人は敵ですよね?」


「ああ!」


「なんで上半身裸なんですか????」


「は??ああ・・・その説明も後でいいか?」


「分りました。とりあえず邪魔ですね。」


「は?」


「あ・・・おい!」


自身への重力負荷をいつもの半分・・・『50gravity』に落としていたエストはトントン♪と2度体を弾ませてバガン達の前に出る。


「お??お前!!強そうだな!」


「ん~・・・ん!」


ピョン!と自身の前に立つエストを目にしニタリ!と笑ったニドランは、嬉しそうに剣を構えて身を低くしようとした・・・のだが、その笑顔は一瞬で苦悶の表情に変わる。


「ぐふぅ!!!・・・・うぅ・・・・。」


身を屈める前にいつの間にか懐に潜り込んでいたエストの刀が、ニドランの脇腹に深くめり込んでいたからだ。(勿論峰打ちである。)


「ぐぅううう・・・・お・・・ま・・・・ええぇ・・・・。」


震える手から剣を落とし、両手で脇腹を押さえ後退ったニドランは目をひん剥きながらその巨躯な体を地面に横たわらせた。


「おーーー!やっぱ強ぇえな!!!」


「おいおい・・・・・・マジかよ。」


一撃で自分たちが苦戦したアルギア・ニドランを倒してしまったエストにアルガスが感嘆の声を上げると、バガンは瞼を擦って目の前で起きた一瞬の出来事に呆然とするのだった。

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