第43話 千変万化
「いうっ!!!」
「ぐっ!!!」
無情にもクリードの体を貫いた幾つかの銃弾の一つがエストの左膝を襲った。そして、銃撃を受けたクリードは体を前後に揺らしながら何とか立っていたが・・・・程なくしてバタッ!!と路地に大の字に倒れてしまった。
「は???・・・・嘘・・・だろ・・・・。」
状況を飲み込めないエストは、左足を引き摺りながら倒れたクリードの脇に膝を着いた。
「エ・・スト・・逃げ・・・・て・・。」
「何でだ・・。」
路地に血が滲みだし口から血を流しながら・・・それでも震える手でエストの袖を掴み『逃げろ』と言うクリードの手をエストは強く握った。
「まだ動いてる者がいるぞ!!次弾準備!!!」
「「「はっ!!!」」」
硝煙の向こう側で動いているエストを目にした砲撃隊員が声を上げると、キッ!っと砲撃隊を睨んだエストは彼らに手を翳し風の精霊の名を呼んだ。
「スアニャ!」
『任せて!!』
エストの声に応えたスアニャも眉を顰め怒っているようだった。
『
砲撃隊員たちの足元から一瞬にして高速の渦巻く上昇気流が発生した。
ビュゥウウウウウウウウウウ!!!!
「うわぁああああああああああああああああ!!!!」
「なんだこれはぁああああああああああああ!!!!」
ダンッ!!ダァーーーン!!!!
激しい気流に飲み込まれパニックになった隊員が思わず引き金を引いたようだ。狙いの定まっていない銃弾の一つは路肩の塀にめり込み、もう一つは街灯のランプを破壊した。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「きゃぁあああああ!!!!!!!!」
「・・・・。」
砲撃隊の全員が上昇気流に巻き上げられている姿を見上げたエストは、翳した掌をグッ!!!と握り風の魔法は解除した。
「ぐああああああああああ!!!」
「ぎゃっ!!」
解除した事で気流は一瞬で消え失せはしたが、砲撃隊員たちは巻き上げられた勢いそのままに路地や塀に体を叩き付けられた。
「う・・・・・・。」
「か・・ぜの魔法だと・・・う!?」
他の隊員が意識を失う中、射撃命令を下していた男だけは意識を手放すことなく這いつくばり、何とか顔を上げエストに視線を向けた・・・・・が、男の目に飛び込んでいたのは引き摺る左膝に手を添え倒れたクリードの前に出たエストが右手を翳し魔法を放とうとしている姿だった。
「あ・・やめて・・くれ・・・・」
男が小刻みに首を左右に振り、眉を下げ、懇願するように言葉を絞り出すがクリードを銃撃した彼らをエストが許す訳が無かった。
パンッ!!!!!!!
エストの差し出していた掌から空気が弾けたような音が響くと、一瞬のうちに倒れている隊員たちを強烈な風が襲い掛かった。
「うわっ・・ああ・・・・あああああああああああああああああああああああ!!」
吹き飛ばされまいと、路地にしがみ付くように男はもがくもそれは無駄な足掻きだった。濡れた肌に張り付いた木の葉を剥がすように、路地から捲り上がった男の体は気を失っている他の隊員たち同様吹き荒れる烈風により路地の向こうまで飛ばされていった。
「いやあああああああああああああああああああ!!!」
「クリードォオオオオオオオオ!!!」
「!?」
背後から悲鳴が上がったエストはハッとして振り返ると、倒れているクリードの胸に顔を埋めたエリシアと、シャツを脱ぎ止血しようと必死になっているエドリックの姿がそこにあった。
「ゴフッ・・・ガハッ!!!」
「ああ!クリードォ・・・」
「クリード・・・まだ生きてるな・・・そうだ、お前はそんなに簡単に死ぬ男じゃない・・・。」
エストは苦しそうに血を吐くクリードのもとにズルッ・・・ズルッ・・・・と、左足を引き摺りながら近づくと再び両膝を着いた。
「君が!!君がエストか!!!!どうしてクリードが!!」
怒りを露わにしたエドリックが怒声を上げながらエストの肩に手を掛けグッ!!!と服を引っ張るが
「うっ!!」
エストは見向きもせずエドリックの手を乱暴に振り払った。
「いやだぁ・・・クリードォオオオオオオオ・・・いや・・いやぁあああ!!」
「あ・・おい!!!」
クリードの体に顔を埋め泣き叫ぶエリシアの肩に手を掛け、嫌がる彼女の体を無理矢理起こしたエストはエリシアに優しく語り掛けた。
「大丈夫!!今クリードを助けるから・・。」
「え??でも????」
顔を涙でグシャグシャにしながら戸惑うエリシアに、もう一度『大丈夫だ』と言い頷いたエストはクリードの体に両手を添え治癒の精霊に声をかけた。
「ミルプ・・・弾を取り出せる?」
『ミプ!!!!!!ダイジョブミプッ!!!!!!』
グッ!!とミルプが頑張るポーズを取る。
『
「は?」
「なに??・・・・え!?」
エストが『んっ!!』と力の入った声を出すとその両手から光が溢れ出した。眩い光に驚きの声を上げたエドリックとエリシアだったが、クリードの撃たれた部位に光が収束していく様子に目を大きく開き、息を呑んだ。
「ぐぅうっ!!!!!」
痛んだのか・・・クリードが苦しそうな声を出し体をビクンッ!!と跳ね上げたが、光に包まれた銃弾が傷跡から取り出されるとガクッと再び体を地面に預けた。
カラン・・・カチャン・・・カチャン・・・
「ぬぅうううううう!!!!」
路面に転がる銃弾に一度視線を落としたエストは、スッと閉じた瞼に力を入れ唸るような声を上げた。
「あ・・あああ。」
右腕に一発、左肩に一発、右の鎖骨部に一発、腹部に二発、左太ももに一発の銃弾を浴びたクリードの体が光に包まれると、この場にまで届いている修道女たちの讃美歌によりエリシアの目に映るその光景はとても神秘的なものに感じられた。
ボロボロと涙を零すエリシアはいつの間にか祈るように両手を握り締めていた。
「あ・・・・なっ!!!」
エストの両手に光が集束していくと、エドリックはクリードの体から傷跡が消えている事に気づき思わず何度も目をこすり上げた。
「ふぅう・・・何とかなったな・・・ありがとうミルプ。」
『ミプ♪』
「え?・・・お・・・終わったの???」
光が消え、クリードの体から手を放し、ペタッと路面に腰を下ろして大きく息を吐いたエストに何度も瞬きをしながらエリシアが恐る恐る問いかけた。
「ああ。」
「クリードは??」
「大丈夫。傷は癒えたよ。」
「え?あ・・・ああ!!!クリード??クリード!!!!」
横たわるクリードの体に抱き着いたエリシアが愛しき人の耳元でその名を叫んだ。
「う・・・・・。」
「あぁ・・・・・・良かったぁ・・・うああああああああああ。」
意識を取り戻さないまでも、ゆっくりと落ち着いた呼吸をしているクリードに安堵したエリシアは再び泣き出してしまった。
「ん・・・。」
エリシアに目を細めたエストは、次に自分の左膝に両手を当て治癒を施すと唖然として立ち尽くしているエドリックに顔を向け口を開いた。
「ああ・・同い年位なんだね・・・さっきはごめん・・・。」
「え??あ・・なに??」
突然の砕けた口調とエストが小さく頭を下げたことに戸惑ったエドリックだったが、
「乱暴に手を払っちゃって・・・。」
そう話すエストの気まずそうな表情にクスッとつい笑ってしまった。
(こっちが素なのかな???)
さっきまでと全く違うエストの様子を見ているうちに、エドリックは緊張で凝り固まっていた自分の体がほぐれていくような不思議な感覚を覚えた。
「いや。僕こそごめん。君を勘違いしていたよ。」
「??」
「いや、いいんだ。」
「えっと、君はクリードの・・・。」
「うん。僕はクリードのクラス・・・いや、親友だよ。」
「そうか!ならこの学校に詳しいよね??あのベッドがある・・・あの・・」
「保健室??のこと???」
「あ!そうそう!そこにクリードを運びたいから案内してくれる?」
「え??・・・でも、お・・・・は??」
大きな体のクリードに目を落としたエドリックは『重くて運べないんじゃ』と言いかけたが、ズッ!!とエストが両手をクリードの体の下に差し込むと軽々とクリードを抱き上げてしまった。
「す、凄い・・・。」
宙に浮いたクリードの体を見上げて目を丸くしたエリシアが感嘆の声を上げたが、エストは少し焦りながら顎を使って立つように促した。
「立って!急ごう!!!いつまた砲撃隊が来るか分からないから!!」
「あ!そうだね。」
「え?・・・あ・・クリード・・・あ!待って!!」
目まぐるしい出来事に心が付いて来ていない様子のエリシアだったが、エドリックがエストを学校内に誘導すると、運ばれていくクリードを目にしてエリシアは立ち上がると3人の後を追い校内に戻っていくのだった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます(o_ _)o))
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※また今週末は仕事のスケジュールでいっぱいになってましたので、次回の更新は週明けになるかと思います<(_ _)>誠に勝手ながらお待ちいただければ幸いです(o*。_。)oペコッ
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