第38話 粉砕
―魔力晶石があると思われる工場の屋根の上で―
羽織袴の男は、エストが腰に携えている刀を睨み口をへの字に結んでいたが、
「何だ・・・その奇抜で派手な刀は。」
「え?」
と眉を歪めてエストの腰にある刀を指差した。
エストの刀は男が持つシンプルな刀とは比べれば、深紅の柄巻に非対称に波打った鍔、そして黒が主体の鞘には躍動的な龍の装飾に『vivere est militare.』と文字が刻まれていて派手と言われれば確かに派手な方だった。
「奇抜???何言ってるの?カッコイイでしょ!!!」
「あははは!それよりも何でアンタは刀をぶら下げてるんだい?」
少しムキになっているエストの回答に破顔した子振袖の女性が率直な疑問をぶつけてくるも、チラッと女性に視線(フードを深く被っているものの)を向けたエストは、
「ん~~・・・・内緒♪」
とだけ答えてバガンとセスに視線を戻した。
「あらら・・なら、力づくで教えて貰うよ!」
「!?」
女性がそう言って顎に人差し指を添えた途端、青筋を立てた羽織袴の男がエストに向かってご自慢の突きを繰り出したが、その切っ先を軽く躱したエストは男の足を引っかけて転ばせた。
「うっ・・・くっ・・・・・。」
「あちゃぁ・・。」
「ピュ~~ッ♪♪」
ゴロゴロと屋根を転がるも何とか踏みとどまった男に女性は残念そうな表情を浮かべ、しれっとしているエストにアルガスは『やるねぇ♪』と言うように口笛を吹いた。
「あの・・俺、原石を壊しに行きたいんですが・・・ここを任せちゃってもいいですか?」
「あ??お前どれが原石かって見分けがつくのか?」
アルガスに近寄ったエストが、申し訳なさそうな雰囲気を漂わせながらそう伺いたてると、アルガスは後頭部を掻きながら逆に問い返した。
「はい!!!」
「そ、そうか・・・。」
アルガスはミューレルからそれは『大きな原石です。』とだけ聞いていたので、行けば分かるだろ!!的なノリでいた・・・さらに、もし、それっぽいのが数多くあれば、その全部をぶっ壊せばいいだろ!!なんて思っていたため、間髪入れずにフードの少年が『良い返事』をしたのにはちょっと驚いた。
「分かった!ならここは任せろ!」
「・・・(コクッ)。」
少年が自信満々に『分かる』と言うなら、原石は任せた方がいいと判断したアルガスが胸を叩くと、セスも無言で頷いた。
「ありがとうございます!!」
「おまえら・・・イヴァ様の意に沿わぬモノだね・・・行かせないよ・・・ここで死んでもらう!!」
しかし、立ちはだかった女性の声色と目つきがガラリと変わった。
エストはワザと『原石を壊しに』という言葉を強めに話していた。そして・・その言葉に反応し、豹変した女性のその表情をエストはよく知っていた。
「うん!やっぱりここにある!」
「んあ?何だ??コイツ・・・。」
鬼のような形相になった女性にアルガスが若干引いていたが、それによりこの建物の中に『原石』があるとエストは確信した。
「死ね!」
女性が瞬時に間を詰めてきた・・・が、それに応じるようにエストも踏み込んでいた。
「!?」
横薙ぎした女性の刀を躱し懐に入ってクルン!と背負い投げた(投げっぱなし)エストに『信じられない!』と言うように目を剥いた女性は、空中で体勢を立て直し着地すると同時に剣を構え直したが・・・既にエストの姿はそこに無かった。
「もおおおおっ!!!!」
下に降りたのだと察した女性がエストの後を追おうとするも、
「行かせねぇよ!」
「!?」
ギィイイイイイイン!!!
真横から斬りかかって来たアルガスに足止めをくらってしまった。
「くっ!!!イチ!!!・・・!?」
アルガスの剣を受け止めた女性は『イチ』と呼んだ羽織袴の男に視線を向けたが、男は既にセスと交戦状態にあった。
「ああああああああああああああああああ!!!!邪魔するなぁああああああああああああ!!!!!!!」
第二級警鐘が鳴り止んだ工業区の空に、女性の狂ったような怒声が響き渡った。
****
屋根から飛び降り、薄汚れた通路に着地したエストは工場の勝手口と思われるドアノブに手を掛けた。
ガチャッ!!ガチャガチャッ!!!
しかし当然鍵が掛かっていて開かない・・・・・
「ん・・・んん!!」
バキャン!!!!!!!!!
が、エストは力づく引っ張りドアを破壊し中に入った。
細い通路を抜けて作業場に足を踏み入れると、中央にまだ不整形であるが若干丸みを帯び出している原石がそこにあった。見たら一発でそれが原石だと分かる状況になっていたが、その周囲には胸に羽根の彫刻がある鎧に身を包んだイヴァリアの騎士が数名立ったいた。
「お・・・1、2、3・・・・6人。」
冷静に人数を数えているエストに騎士が怒声を上げる。
「だ・・誰だ!!何でここが・・・。」
「私達の動きは軍部にすら気取られていないはずでは・・・。」
「くそ!外が騒がしいと思ったら・・・何の用だ!!小僧!!!!」
「そんな事はどうでもい!!!捕らえろ!!」
「おい!剣を持っているぞ!!気を付けろ!!」
「おおお!!」
一瞬動揺していた騎士もいたが、互いに声を掛けあいながら素早く騎士達はエストを取り囲んだ。
「お前・・ここに何しに来た?」
エストの正面に立った騎士が剣を抜いて威圧的な姿勢を取った。
「んーー・・・あれを壊しに。」
しかし臆することなく原石を指差したエストに・・・騎士達は激昂した。
「あああああああ!?」
「捕らえる事などない・・・反逆者には死を!!!」
「ああ!!死ねぇええええええええええええ!!」
取り囲んだ6名の騎士が同時にエスト目がけて剣を振り下ろした。
ガイイイイイイイイン!!!
しかし、6本の剣は床を傷つけただけだった。
「どこに消えた!!!!!!!!」
「くそ!」
「上だ!!!!!」
騎士が顔を上げると、エストは建物の梁に手を掛けぶら下がっていた。
「よっ!」
体を振って梁から手を放したエストは、騎士達から少し離れた場所に着地すると深紅の柄巻に手をかけた。
スラッ!!!!!!!
「は?・・・刀・・・貴様・・・ユウタ・カザマの手の者か?」
「???」
輝く刀身に息を呑んだ騎士が勇者の名を口にしたが、良く分からなかったエストは頭に?を浮かべて首を傾げた。
「違うのか???」
「そうであろうと、なかろうと・・・反逆者に違いは無い!!!」
「ああ!」
「行くぞ!」
エストは刀をクルッ!とひっくり返すと、突撃してくる騎士達に向かって駆けだした。
「おああああああああああ!!」
まず先頭の騎士の大振りを身を屈めて躱すと、がら空きの脇腹を峰で打ち抜いた。
「ぐほぉおおおおおおおっ!!!」
「ふぅうううううううううう!!!」
「きさまっ!!ぐはぁ!」
息を吐きながら体を回転させて刀を振り上げたエストは、勢いそのままに2人目の騎士の頬も打ち抜く。
「死ねぇ!!!」
エストの背後を取り、上段に剣を構えた騎士がビュン!!!!と剣を振り下ろす・・・が、またしてもそこにエストの姿は無かった。
「ぐああああっ!!!!!!!」
「なに!?」
悲鳴に慌てて騎士が振り返ると、仲間の騎士が兜ごと頭部を床に叩きつけられていた。
「くそおおおお!!!」
「うおおおおおおおおおおお!!」
2人の騎士が刀を振り下ろした隙を見て、エストの背後から斬り伏せようとするも・・・
ダンッ!!!!!!!
「え?」
「嘘だろ・・・。」
床を強く蹴ったエストは一瞬で2人の背後に移動していた。
「う!!!」
「がっ!?!?!?」
そして、2回鈍い音が室内に響くと2人とも前のめりで床に倒れ込んだ。
「は・・・速い・・・・。」
騎士は唖然としていた。殺さねばならない!という思いが吹き飛ぶほど圧倒された騎士は、
「極秘である『原石輸送』の護衛を任された自分達が、こうもあっさりと叩き伏せられるなんて・・・・・・嘘だ!!これはきっと悪い夢だ!!我らが簡単にやられるはずがない!!!」
プライドを粉砕され無意識に後退しながら現実逃避を始めていた。
しかし、騎士はエストがゆっくり近づいて来ると、後退る足を止めてビクッ!!!と体を大きく震わせると、顔を般若のように歪めて張り裂けるような怒声を上げた。
「女神イヴァの意に沿わぬ者には死をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・意思の捻じ曲げ・・・。」
騎士の変化を目にしたエストは冷静にそう呟いた。
「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
上げた声を震わせながら騎士が襲い掛かってくるが、我を忘れた騎士などエストの相手では無かった。
「ぐぼぉおっ!!!」
瞬時に間合いを詰め腹部を前蹴りして騎士を後退させてエストは、下がった頭部を他の騎士同様に峰で打ち落とした。
「・・・・。」
ブン!!!
そして・・・一度大きく刀を振り下ろし、ゆっくり鞘に刀を収めたエストは周囲に倒れている騎士達を一瞥すると教わった決め台詞を口にした。
「安心しろ!!峰打ちだ・・・・・・・・・・・
これ、ホントに言わなきゃいけない決まりなのかな・・・。」
初めて口にしてみたものの、違和を感じたエストはリュナに疑念を持ったもののとりあえず気を取り直して原石に視線を向けた。
「よし!目的を果たすか!!」
そして原石に向かいながらリュナの剣を抜いたエストは、剣に魔力を注いでいくとポォオオオオッ・・・・と剣身が光を放ち始めた。
「ぐ・・・・待て・・。」
「それ以上・・近づくな!!」
しかし、気絶していなかった3名の騎士が体を起こし、エストを止めようと剣を振り上げ襲い掛かってきた・・・・が、
スキル『
「うぐっ!?!?!?」
「うあああああああああああああああああ!!!」
邪魔をするな!と言わんばかりにエストは範囲重力を発動させた。
「何だ、これはぁあああぁぁぁあ・・・あ・・・。」
急に体が何倍も重くなり、床に突っ伏した状態になった騎士達は怒声を上げたが途中からそれすらも苦しそうにしている。
そして・・・その中心で平然と立っているエストは、
「や・・・やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
約5倍の重力に逆らい、騎士が叫びながらブルブルと震わせエストに手を伸ばすが、それに構わず魔力を込めた光り輝く剣を『女神の心』となり得る原石に振り下ろした。
「う・・・・ああ・・。」
目を貧むき、大きく口を開き、驚愕の表情を浮かべた騎士はエストの剣筋を目で追えなかった。
振り下ろしたエストの剣から、スウゥゥゥゥ・・・・と放たれていた光が消え失せると、
ビシッ、ビシビシッ!!!
幾重もの線が入り込み、細切れになった魔力晶石がガシャガシャと音立て床に崩れ落ちた。
その中でカツン♪と音を鳴らしエストの足に原石の欠片がぶつかると、
「こんなもの・・・。」
そう呟き、足元にある原石に冷たい視線を向けたエストは、その欠片を踏みつけ粉々に踏み砕いた。
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