第39話 狂信者の壁①
「ああ・・・何ということを・・・・・・。」
伸ばした手は虚しく空を彷徨い、細切れにされた原石が崩れ落ちていく姿をただ見てているしか出来なかった騎士は、嘆きの言葉を口にするもエストのスキルに耐え切れず意識を手放してしまった。
「ふぅ・・・。」
周囲に倒れている全ての騎士が気絶したのを確認したエストは、目的を達成した事に安堵すると小さく息を吐き剣を鞘に収めた。
剣を収めたキン!という軽い金属音が静まり返った屋内に鳴り響く・・・が、屋内の静けさは一瞬だった。
ダダダダダダダダダダ!!!!
ダン!!!
タタタタタ!!!!ダンッ!!!!!
ダタッ!!!!
屋根の上では今も戦闘が続いているようだ。
クルッ!とドアがある方向に体を向けたエストは、激しい音が響き渡る作業場から外に出ると屋根を見上げてすぐ跳び上がった。
「うらああああああああああああ!!!!!」
鬼気迫る勢いでアルガスに子振袖の女性が斬り込んでいた。
「くっ!!!!・・・・ふん!!!」
全ての斬撃を受けきれず女性の刀がアルガスの右腕の薄皮を斬り裂いた。しかし、一瞬顔を歪めたアルガスだったが次の斬撃を受け止めると力強く弾き返した。
「いい加減に!?!?!?」
弾き返された事に苛立った女性が声を上げようとしたが、目の前にトンッ!!とエストが着地した事に驚き後退した。
「お!やったのか?」
「うん!粉々♪」
戻って来たエストに構えを解いたアルガスが問いかけると、ニッ!と笑ったエストはアルガスに向かって親指を立てた。
「おまえぇえええええええええええ!!!何とい事を!!!!!」
そのやり取りに発狂した女性が声を上げてエストに斬りかかったが、しかし、刀を抜いたエストは女性の刀を弾き返すと瞬時に間を詰めたエストは女性の首に手刀を叩きつせた。
「うっ!!」
ドサッ!!!!
「おいおい・・・つえーな・・・。」
「ああっ!!」
簡単に女性を制したエストにアルガスが若干呆れると、少し離れた位置でセスと刀を交えていた羽織袴のイチが女性が倒れた事に気づいた。
「きさまぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
怒声を上げエストに向かって駆け出したイチは、突きを繰り出そうとしているのだろう・・・水平に刀を引いて走って来る。
「・・・・。」
怒りに満ちた表情で向かって来るイチに正対したエストは、何も言わずゆっくり左手を差し出した。
「おい・・止まる訳ねぇだろ。」
「この馬鹿がぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」
エストの行動にアルガスが苦笑いを浮かべた。アルガスも咆哮するイチもエストが『止めろ』と制止していたのだと思っていた。
しかし、イチが突き出した刀がエストの左手に差し掛かる瞬間、体を時計回りに回転させたエストは思い切りイチの後頭部を打ち抜いた。
「がっ!!!!!!!」
ガシャン!!
刀を手放しビクビクッ!!と体を震わせたイチは、その後フラフラと二、三歩足を進めるも・・・・バタン!!と前のめりに倒れた。
「おおっ!!」
すると、その機転にアルガスが感嘆の声を上げた・・・・・
「・・・・・・・・(ボソボソ)」
「は?何だって??」
が、エストが刀を収めながら何かを喋っているようだったが、声が小さすぎて聞き取れなかったアルガスは耳に手を添えエストに顔を近づけた。
「あ!いえ・・・何でもないです。あははは・・・。」
言うのが決まりだと言われていたが、先程の違和感で少し恥ずかしさがあったエストは、周りに聞こえないよう小さい声で『峰打ちだ。安心しろ。』と言っていた。アルガスにそれが聞こえていなかったのだとホッとしたエストだったが、それでも恥ずかしくなり笑ってこの場を誤魔化そうとした。
「あは。あはははははは。」
「・・・・そうか。」
「????」
そして、恥ずかしそうにアルガスに向かって両手をぶんぶん振っているエストの姿に、セスは頭に『?』を浮かべ首を傾げているのだった。
****
時間は少し遡り、エストがアルガス達が戦っている屋根の上に到着した頃・・・・
「よし!このまま突っ込みますよ!」
街路を突破したミューレル達の視界にアリエナ城と教会が入って来た。
向かっているミューレル達の左手にアリエナ城があり、右手に教会があった。そして、その中央は整備されたに公園なっており、整えられた通路の両脇には様々な樹々が建ち並んでいた。また公園には所々にベンチや遊具が設置してありアリエナ市民の憩いの場になっていた。
「行け!行けぇええええええ!!!」
数度接触した騎士達を薙ぎ払い勢いに乗っていたバガン達が、公園に突き当たった街路を右に曲がると・・・・
バァーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「何だ?」
「信号弾!?」
背後にある建物の屋上から赤い信号弾が上がった。
「くっ!!私達の行く先を知らせたのか!!!」
ミューレルが屋上に視線を向けると、信号弾を放ったと思われる影がこちらを観察しているように身を乗り出していた。
**
バァーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「赤!!!奴らの狙いは教会です!!!」
エルピが上げた信号弾を確認した隊員が声上げた。
「!?!?」
「何のために?」
「分かりません・・・我らの祈りの象徴である教会を破壊するつもりなのかも・・・??」
「目的は金じゃなかったのか!?」
別の隊と合流を済ませていたエルピが所属する砲撃隊員たちは、エルピが上げたその信号の色に動揺していた。
『奴らの向かう先がアリエナ城なら青。教会なら赤を上げます。』
そう言って隊から一度離れたエルピに頷いた隊員達は、『青』が上がるものだと思い込んでいた。アリエナ城は都の中心である。都の実権は騎士団が握っているとしても、行政、金融を取り仕切っているのは都長だった。
それ故、騎士や砲撃隊員たちは『蛮族たちの狙いは金だろう。教会を狙う事はないだろう。』と考えていたからだ。
しかし、どうであれ蛮族たちが教会に足を向けた事に変わりはない。
「静まれ!!!!!奴らがどこに向かおうと、この都市の治安を守るのが俺たちの仕事だ!!!!至急教会前を固めるぞ!!!!!」
「「「「「は!!!」」」」」
隊長の掛け声に気を引き締めた砲撃隊員たちは、駆け足で教会に向かうのだった。
****
「うらああああああああああ!!!」
「ぐああっ!!!」
「ふん!!」
「ぶふぅっ!!!」
向かって来る騎士たちをなぎ倒しながらバガンたちは教会に続く道を進んでいた。
「何と野蛮な連中なのでしょう・・・。」
教会の一番上にある一室から司祭がそれを見下ろしていた。
「はい。ですが、我らが制圧致しますので。」
「はい。宜しくお願いしますね。」
司祭の背後にいた騎士がそう話すと、おっとりとした雰囲気を醸した笑顔で騎士に一礼をした。
「任せてください。」と同じく一礼し騎士が部屋を出て行くと、白髪垂れ目の司祭は、冷たい視線を再び下で躍動するバガン達に向けた。
「汚らわしく野蛮な者たちを、イヴァ様を祀るこの神聖な場を踏み荒らされたくはまりませんね???」
「はい!!仰る通りです。」
「神聖なるこの地を守らなくては・・・。」
「教会には指一本触れさせたくありません。」
室内で控えていた修道女たちが司祭の言葉に同意する。
「何と素晴らしい!!皆様の思いはイヴァ様にきっと届いていらっしゃいますよ。」
「ああ・・・・・イヴァさま・・・。」
「この命を捧げますわ・・・・。」
司祭の言葉に恍惚の表情を修道女たちが浮かべると、先程までいた騎士から『蛮族達は一般人に手を出していないようです。』と聞いていた司祭は薄っすらと開いたその目を歪にゆがめた。
その手に持つ杖の先端から妖しい光を放ちながら・・・・。
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