第47話 基盤⑤ ~ガルニの才能~
野心があった。
見返してやるんだ。自分を馬鹿にした村人たちを、そして村の中で一番体が大きく、村の中の誰よりも多くの魔物を狩る事が出来る自分がいずれこの村を大きくして、より多くの人族をまとめていく!!!・・・・・・そう強く望んでいた。
ガルニがそう思うようになっていった原因のひとつに魔法があった。
ガルニは小さい頃から。。そして今もなお自分の魔法が周囲から馬鹿にされている事を知っていた。
自分はこんなに強いのに・・・。村を守ったのに・・・・・。
ひそひそと陰口を叩かれている事を知っていた。
ガルニの不満は溜まる一方だった。
****
服を汚したと叩かれるが泥んこ遊びが好きだったガルニは、8歳になる頃魔法を使えることに気づいた。
手をかざすと土が浮かび上がったのを目にした時は飛び上がるほど喜んだ。
早くから父母を亡くし、長の家で育てられていたガルニは、どこか長の家族から疎外されているような気がしていた。
「これで認めてくれるかもしれない!役に立てるかもしれない!!」
そう思った。
だが、長や長の家族に見せたその魔法は、自分のせいなのか、宿った精霊の性格なのかは分からなかったが、大雑把に土を持ち上げるだけの役に立たたない魔法だと笑われてしまった。長は眉間に皺を寄せてため息を吐くほどだった。
その後何度試しても、不格好で歪な食器しか作れなかった・・・同年代のレック(ガルニを笑った男)のように綺麗なコップや器を作る事が出来なかった。
故にガルニの魔法が役に立つ時はゴミの処理や、埋葬の時のみだった。
悔しかった。
純粋に悔しかったガルニは、馬鹿にした奴らを見返したかった。
そのためガルニは毎日魔法の練習を怠らず、さらに体を鍛えて狩りに出るようになっていった。ただ、その鍛錬の成果は魔法には現れず、肉体のみに現れていった。
魔法はより多くの土を持ち上げる事は出来るようになったが細かい作業は相変わらずだった。それに対して体全体の筋肉は鍛錬に応じるように盛り上がり、振るう石斧は上げる音を変えていった。
しかし、ガルニにとってその成果はそれで良かった。何せ腕っぷしは強くなり村の中で自分に敵う者がいなくなったからだった。
それにより面と向かって馬鹿にしてくるものはいなくなった。ただ・・・・・・陰口は変わらず聞こえてくる。
だが、ある時『美しきイヴァ様』が忌み嫌う魔族を額に傷を負いながらも・・・仲間を失いながらも・・・・・追い返すことに成功した。
全身ボロボロになりながら村に帰ると「よく戦った。」「守ってくれた。」と人々が称えてくれた。
だけど・・・
「どうしてアイツが生き残って・・・。」
「あの子が死んだのはきっと・・・。」
それでも陰から非難する言葉が聞こえてくる。
ガルニは耳を閉ざした。
(自分は一生懸命戦った。必死だった。
どうして、、それでも、、どうして認めてくれない??)
どんなに耳を閉ざしたとしても届く言葉に心は抉られる・・・ガルニはそれなら『自分を馬鹿にしたり、自分の言葉に従わない者は力づくで黙らせればいい。』と思うようになっていった。
そんな折、女神イヴァから南東にある勇者がいる集落に向かうよう言われてしまった。
(まだこの村の権力を握っていない。もう少し後にしたい。)
そう思ったガルニだったが女神には逆らえない。行けと言われたなら行かねばならない。
なら・・・自分が村人たちを先導し、アルストとかいう男を倒して自分の方が強い事を証明してやる。
認めさせてやる!
そう思っていた矢先・・・
ガルニはアルストの戦いを目にしてしまった。
一瞬で魔族を斬り殺したアルストの力に、思い上がった自分の自尊心がガラガラと崩れ落ちていくのを感じたガルニは、自分の存在意義を見失った。
認められない寂しさを、鍛えた肉体と野心によって覆い隠していたガルニには何も残っていなかった。
いや、残ったのは役立たずと馬鹿にされる魔法と、勇者には敵わない肉体だけだった。
当初の目的通りに村人たちを引き連れてアルストがいる集落に辿り着く事は出来たものの、自分を見失ったガルニは力なく地面に腰を下ろし項垂れていた。
「なんだ?ガルニの奴どうしたんだ??」
「アルスト様の強さに比べたら・・・。」
自分を見失ってもヒソヒソと嫌な言葉が聞こえてくる中で、集落に住む人族たちがアルストが集落を守るための『騎士団』を結成しようとしている事を耳にした。ガルニは昔から耳が良かった。
『騎士団』の話にピクッ!と反応したガルニは少し顔を上げると
(それなら自分でも役に立てるかもしれない。)
・・・そう思った。
勇者アルストに会い、騎士団に入らせてもらうよう懇願しようと思った。例え周囲に何を言われても自分を晒すしかない。
そして・・・(入団を拒絶されたら自分はこの地を去る。)・・・・そう決意をしていた。
しかし、
自分の自尊心を打ち砕いたその男は、散々馬鹿にされ続けて来た自分の魔法を『素晴らしい』と偽りなく称えてくれた。認めてくれたのだ。
信じられなかった。
だが、それと同時にガルニはその男のキラキラと輝く瞳に吸い込まれるような感覚があった。
目を丸くしてアルストを見ていると、フッ!と笑ってガルニの肩を叩くと口を開いた。
****
「ん?どうした?」
「いえ、レックの言う通り・・・自分の魔法は持ち上げるだけの役立たずな魔法だと・・・村ではそう言われ続けていました。自分はたくさん・・・たくさん練習しましたが、どうしても綺麗に加工する事は出来ませんでした。」
「たくさん練習した??」
「はい・・・。」
「なら本気出せばどれほどの量の土を持ち上げれるんだ??」
「わ、分かりませんが、去年は2m四方くらいは持ち上げれました。」
「凄い!!!なら、魔法を使えるようになったばかりの頃はどれくらい持ち上げれたんだ?」
「え???うーーんと・・最初はひと握りくらいだった気がします。」
話を進める度に目の輝きを増していくアルストにガルニは戸惑いながらもそう答えると、アルストはギュッ!!!と拳を握り体をブルッ!!と震わせた。
「ガルニ!!これまで良く頑張った!!!!!凄い才能だな!!!!」
「な・・何がですか???ちっとも上達しなかったんですよ??」
「何を言っている???」
「え?」
「ひと握りが2m四方だぞ!!!進化してるじゃないか!それに魔法は鍛える事が出来る事をお前は証明してくれたんだぞ!!!心から感謝する!!!!」
「え????・・・あ・・・あ・・・・あれ??あ・・・。」
いつの間にかボロボロと涙が溢れ出している事に気づいたガルニは戸惑いを見せたが、アルストはその姿に元の世界で可愛がっていた認められようと必死で足掻いていた後輩騎士を重ねていた。
再びポン!と軽くガルニの肩を叩いたアルストは口の両端を少し上げた。
「よく頑張った。お前は凄い男だ。」
「う、うあ、、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・ああああああああああああああ!!!!」
微笑みながらアルストがガルニを労うと、ガルニは膝から崩れ落ち大声を上げて泣き出した。
ガルニの泣き叫ぶ姿に驚いた同郷の村人たちに向かって冷えた視線をアルストが送ると、村人たちはきまりが悪そうな表情を浮かべていた。
アルストは視線をガルニに戻すと、泣き叫ぶガルニを優しく見守るのだった。
・・・・
「す・・・すいませんでした・・・急に泣き声など上げてしまって・・。」
しばらくして泣き終えたガルニは、立ち上がると恥ずかしそうにアルストに頭を下げた。
「いや、気にするな。それよりガルニ・・・君には騎士よりもやってもらいたい事があるんだ。それは君にしか出来ない。」
「え???じ、自分は騎士には向いてないんですか??」
アルストの発言に驚いたガルニはガバッ!!と顔を上げて取り乱した。
「いや、体が大きいだけでも騎士の素質は十分にある。だが、さっきも言ったようにそれ以上にやってもらいたい事があるんだ!!俺は君のような人物を探していた!!」
「それ以上に??ですか??」
「そうだ。ちょっと来てくれ・・・って・・・あ!!!すぐ戻るから他の者達はちょっと待っててくれ!!!」
「え!!は!?!?はぁ?????」
ガシッ!!!とガルニの手首を掴んだアルストは、嬉しそうにガルニを広場に引っ張っり走り出した。
遠ざかる2人を同郷の村人たちは呆然と見ているしかなかった。
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