第46話 基盤④ ~土の魔法~

「こ!?!?!?」


自分の背後に迫る剣を瞳が捕らえるが、奇妙な声を上げた魔族の男はアルストの一振りで首と体が切り離された。


そして着地と同時に落ちて来た魔族の男の死体を川岸に引きずり上げると、アルストは火の魔法を放ち遺体を火葬した。田に流れていく川の上流に落ちた魔族の血を多く流したくなかった。


その様子に川を渡っていた人族たちは歓喜の声を上げ、子供を助けられた母親はアルストに涙を流し感謝の言葉を告げていた。


「な・・あっさりと・・・。」


そして、アルストの強さに呆然としたガルニは、そのまま川の半ばで立つ尽くしていた。



****



―ゾラとコルニ―に板版を見せた夜―


アルストは2人の話から想像していた以上にこの集落の下水が進んでいることを知った。


彼らの祖先はその昔、アルストが言うように汚物処理に頭を悩ませていたそうだ。しかし、ある時、雨が降った後に出来た濁った水たまりが、時間が経つと透明になっている事に気づいた事から汚物処理の方法を思い付き色々試して作り上げたそうだ。


「素晴らしい・・。」


先人たちの知恵に感服したアルストだったが、二段階の沈殿方式を地中に作り、川の下流に綺麗になった水を流す・・・アルストには地上の生活技術を見る限りそんな芸術的な下水処理を地中に作れるなんて想像も出来なかった。


いったいどんな掘削技術を持っているんだ???・・・身を乗り出したアルストはゾラにその技術を問いただし、この世界の魔法には火と水以外に『土』の魔法というものがある事を知ると、その土の魔法の内容に感嘆の声を上げた。



土を自在に操り、加工する事が出来る。


そして、土の魔法には取り出した土から粘土だけ分離する事も出来るらしく、話を聞きながら口にしている土器のコップや目の前に並べられてる皿や鍋もその分離した粘土を魔法で加工し、火の魔法で焼き上げたものだった。


アルストはさらに目を輝かせた。



「魔法とは・・・なんと素晴らしいんだ。土の魔法があれば、俺が思っている以上に事が早く進みそうだ!!」


椅子から立ち上がり、テーブルの上に置いてある板版に目を向けたアルストの胸には新しい街(国の基盤)づくりへの希望が湧きあがっていた。




しかし、、、


「あの・・・・アルスト様。」


「ん?」


「その昔、アルスト様が言うその下水という物を作っていた先人たちの中には、大量の土を一気に運ぶほどの大きな魔法を使える者がいたそうなのですが・・・。」


「ですが?」


「今、この地にいる土魔法使いはここにある食器のような・・・小さい土を加工するくらいの事しか出来ないのが現状です。それに昔と比べて今は土魔法を扱える者が少なくなっているんです。」


「そうか・・・・。」


そう簡単にはいかないようだった。


顎に手を当て俯いたアルストに説明したゾラが申し訳なさそうに頭を下げた。


「す、すいません。アルスト様。」


「あ???いや、謝る必要はない。現状が知れて良かった。それに少なくなって来ていると言うことは土魔法を使える者が全くいないという訳ではないのだろう?」


「はい・・。それはそうです。」


「それに、今ここに各地から人々が続々と集まって来ている。その中に土魔法を扱える者がいるかもしれない。」


「!?確かにそうですね!!それに・・働かせるんですものね!!!!」


アルストの言葉にゾラと一緒に頭を下げていたコルニ―が顔を上げた。


「ああ。そうだ。それに魔法は鍛錬すればいい。」


力強く頷いたアルストは椅子から立ち上がった。



****


―ガルニ達を救出した次の日の朝―


ゾラの家を出たアルストは、コルニ―に注文して作ってもらった元の世界にいた時に愛用していた軽装のシャツとパンツに身を包んでいた。


「よし。さっそく始めるか。」


そう呟くと昨日この地にやってきたガルニ達がいる場所に足を向けた。



・・・・


「わ、私は戦う事は出来ませんが水の魔法を使う事が出来ます。」


「ん。よし、そうか。なら、通りの先にある広場にコルニ―という女性がいる。その人に指示を受けるんだ。」


「分りました。」


ペコッと頭を下げた女性が足早にアルストが指差した広場に向かっていった。


アルストは集落の人々の前に立ってから率先して役割分担の選定を行っていた。自分が集落を離れる間はゾラに任せる事にしていたが、出来る限り自分の耳で人々話を聞きたかった。


女性の背中を見送ったアルストは、並んでいる人々に目を向け直すとゆっくりと視線を上に上げた。


「大きいな!!!名前は??」


「はい・・・ガルニと言います。」


力なく返事した額に傷がある大男にアルストはニッ!と笑顔を見せた。


「ガルニか!俺が180cmくらいだから・・2mくらいはあるのか?」


「あ、はい。」


「そうか!前にいた集落では何をしていたんだ?」


「は、はい。ここに来る前は村にやってくる魔物の退治や襲って来た魔族に対抗したりしていました。」


「そうか!!有望だな!!!」


「いえ・・・。」


「どうした?元気が無いな。」


「・・・・・自分は・・・・以前仲間たちと力を合わせて何とか魔族を追い払う事が出来ました。」


「凄いじゃないか!」


「いえ!!!自分たちが追い払った魔族は魔法が使えず、背中に羽を生やしてもいない魔族でした。」


「ん?確かにそういう魔族もいるが・・・それがどうした?魔族を追い払えた事には変わりはないだろう?」


「いえ・・・そのために自分たちは多くの仲間を失いました。・・・・そして、それでも何とか追い返すのが精一杯でした。」


いつもは顔を上げて額の傷をなぞるガルニだったが、今は俯きながら額の傷を中指で撫でていた。


その様子はここに来る前までの・・・いや、アルストの戦いぶりを見る前までの威勢は消え失せていた。


「その傷はその時に?」


「はい・・そうです。自分は・・・昨日のアルスト様の戦いぶりを見て・・・自分の認識をあらためました。」


「おい!ガルニ!!いつもの威勢はどうした??」


「こいつ昨日から様子が変なんですよ。アルスト様の強さにビビったんじゃないですか??」


「・・・・。」


「????」


昨日まで『イヴァ』に認められようと息巻いていたガルニが、牙を抜かれたように大人しくなっている事を同郷の者達に揶揄われると、少し恥ずかしそうに鼻のしたを軽く擦りながらなアルストに視線を戻すと意を決したように声を上げた。


「こいつらの言いう通りです。自分は!!!ここに来るまで自分がアルスト様に負けるわけがないと思っていました。体を張って魔族を追い返す事が出来た自分が、他の世界から来たヤツなんかに負けないと・・・自分が村や人族をまとめるんだ!!!そう思ってました!!!ですが、昨日のアルスト様の戦いぶりに・・・自分は勝てない!!そう思いました。」


ガルニの大声に並んでいた他の人族たちが驚きの声を上げ罵声を浴びせるも、アルストは腹を抱えて笑い声を上げた。


「くくっ!ハハハハハハハハ!!!!そうか。よく正直に話してくれた!気に入った。」


「お、怒らないんですか?」


「ああ。なぜ怒る必要があるのさ。そう思っていたんだろう??」


「はい。ですが、今は自分は己惚れていたと思いました・・・。」


「そうか。自分で自分の意識を変えれる事は良い事だ。」


そう言って再びニッ!!と笑顔を見せたアルストに、ガルニは(ああ・・・力も器量も到底敵いそうにないな・・・。)と改めてそう感じると肩から力が脱けた。


「嘘だろ??」


「あのガルニが・・・信じられない・・・。」


周囲はガルニの言葉と態度に唖然としていたが、アルストはその様子に構わず口を開いた。


「それではガルニは騎士希望って事でいいのか?」


「あ!はい!!」


「よし。ガルニは魔法は使えるのか?」


「はい・・・使えますが・・自分は『土』です。」


「土!?!?そうなのか!!!」


『土』と聞いて目を大きく開いたアルストはガルニの両肩を掴んだ。


「え!?あ、はい。ですが、自分は量を持ち上げるだけで細かい作業は苦手なんです・・・。」


「量を??ちょっとやってみてくれるか?」


「は??」


「アルスト様!ガルニの魔法は土を持ち上げる事しか出来ないですよ!!オイラの方が器用に色んな物を作る事が出来まっせ!!」


ガルニのふたつ隣に並んで立っていた調子の良さそうな男がアルストにそう告げるも、


「ガルニ。やってみてくれ。」


と、再度魔法を見せるよう促した。


「は、はぁ・・・。」


自分の魔法にこだわるアルストを不思議に思いながらも、精霊に呼びかけ地面に向かって手をかざしたガルニが、グッ!!!!とその手を握って上に上げると、ボコォ!!!と地面から直径50cmほどの土の塊が持ち上がった。


「おお!!」


アルストはガルニがかざした先の地面に目を向けると、地面は持ち上がった土の分だけえぐられていた。


「凄いな!!ガルニ!!素晴らしいぞ!!!」


「え?????」


「は?でも、持ち上げるだけですよ??」


「なら、君はこれほどの量の土を持ち上げれるのか?」


ガルニの魔法を見てニタニタと馬鹿にするような仕草を取っているさっきの男をアルストが睨みつけた。


「い、いえ、出来ませんが「なら馬鹿にするな。」


「ひっ!!はい。すいませんでした。」


静かに・・だが、確実に怒気を込めた声で男を諫めると、男と同じくニヤニヤしながらガルニの魔法を見ていた数名がアルストの怒気に驚き顔を引き締めた。


「え???え???????」


それに対してガルニは、自分の魔法を称賛するアルストを目を丸くして見ていた。


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