第31話 正体 ~4人組~
「エスト君つよーーい♥」
魔狼の首元を剣で貫いているエストの隣でウットリしているアーブリーが、近づいて来るトトとラミロに気づくと小走りで近づいていく。
「見て見て―!!エスト君があっという間に倒しちゃった♥」
チラッとエストのいる位置を確認したアーブリーは、ペロッと舌なめずりすると弓を構えたラミロの前でわざと躓いた振りをする。
「きゃっ!!!!」
大げさにバタッ!!と倒れたアーブリーに驚いたエストが「大丈夫ですか??」と声を掛けると、向こう側にいるラミロの前がキラッ!!と光った。
「くっ!!!」
ビュン!!!!!!!!!!!!・・・・・カツッ!
体をよじって矢を躱したエストだったが、腕を矢が掠めていたようだ。
後方の木に刺さっている矢の先に血が付いている。
「く・・・何を・・・。」
「あら、やっぱり反応良いわね。」
「でも、掠ったよな。」
起き上がったアーブリーが矢を躱された事を残念そうにしていると、隣に立ったトトがエストの腕に付いた傷を指差した。
「う・・!?」
体にピリッと痺れを感じたエストはガクッと両膝を地面に着けると、さらに両手を着いて四つん這いの状態になってしまった。
「さっきの矢にはさぁ・・・チシダケの毒が塗ってあったんだよ。掠った程度だがそれでも猛毒だ。そのうち意識を失うだろうよ。」
ニィっと嫌な笑顔を見せたトトが、膝を着いたエストを見下しながら楽しそうにそう話し出した。
「あらあら。可哀想に・・・・キャハハハハ!!」
それまでネットリとした話し方をしていたアーブリーは、エストが倒れると急に下品な笑い声を上げた。
****
―同日午前1時頃―
階段から降りて来た不機嫌そうなアーブリーにトトが声を掛けた。
「姉さん。どうだった?」
「どうもこうもないわよ!寝たみたいね。どんなに声かけても反応無かったわ。」
「くふふ。振られたねぇ。」
「うっさいわね。あのガキ・・・酒も飲まない、アタシの誘いにも乗らない、マジでノリが悪いわ。」
「ホント、水しか飲まなかったしな。毒も入れれなかったぜ。」
両手を腰に当てて下唇を噛んでいるアーブリーと面倒くさそうにしかめ面をしているトトを見てアロンゾが口を開いた。
「まぁ、明日殺せばいいだけだろ?」
「そうね。止めはアタシにやらせてね。」
「だが、あのガキかなり鍛えられてるぞ。」
「そうね。腕なんてガッチガチだったもの。」
「俺よりもか?」
「太さはアロンゾが上よ♥」
「ははぁっ!!!」
アーブリーに目配せされたアロンゾが嬉しそうに両腕の力こぶを披露する。
「動き・・・素早いかも・・・オレが毒矢で打つ。」
しかし、冷静にラミロがエストがいなくなってから初めて口を開いた。
「ああ。ラミロの言う通りだ。確実に仕留めようぜ。」
「アイツのリュックからはみ出して見えた折り畳みテント・・・・かなり高価そうなモノだった。」
「そうだな。結構金持ってるかもな。農産区出身ってのは嘘だな。」
「まぁ、それは明日仕留めた後のお楽しみって事だな!」
「楽しみねぇ・・・あの子の歪んだ顔・・・・・。」
恍惚な表情を浮かべたアーブリーを見て、トトが再びジョッキを掲げた。
「では。改めてカモとの出会いを祝してーーーーーーーーーー乾杯!!!」
「「ヒャッハーーーーーーーー!!!!!!」」
「ヒヒヒ。」
ガチャッ!!!と下品な叫び声と笑い声を上げ4人はジョッキをぶつけ合った。
ビシッ!!!!!!!!!!!!!!
ガシャ・・・ガシャ!ガシャ!・・・・
―同日 午前8時頃―
空間にヒビが入り崩れ落ちた映像の前で、昨夜自分が立ち去ってからの食堂の映像を見ていたエストは食堂のテーブルに腰かけていた。
ここで起こった過去にため息を吐いた後、朝食を食べ終えたエストは食器を調理場のカウンターに戻し笑顔で宿屋の女性に感謝を述べた。
「ご馳走様でした。昨夜の食事も今朝もとても美味しかったです。」
戸惑う女性を余所にエストは一度部屋に戻ろうとしたが、女性が声をかけた・・・・が・・・
「あ・・・お前さん・・・「早いね!!!エスト君!!!!」
トトが現れた。
「???」
エストは宿屋の女性に視線を向けるも「いや・・・。」と言葉を濁したため「おはようございます。朝食を先にいただきました。一旦部屋に戻って準備しますね。」と笑顔でトトに返事をした。
「そうかい!じゃあ、ここで待ってるね。」
「はい。すぐ戻ります!」
「ははは!!慌てなくていいからね!」
「はい。」
歯切れのよい返事をして階段を上がっていくエストを細目で睨んだトトは、その後ジロッ!と食堂に目をやるが宿屋の女性は姿を消していた。
「チッ!アイツを殺した後、あのババァも殺るか。」
こめかみに青筋を立てたトトは、舌打ちをするとそう小さく呟いた。
****
部屋に戻ったエストはリュナの言葉を思い出していた。
『いいエスト。聞いてもいないのに甘い話やプラスになる事ばかり話してくる奴らの事は信用しちゃだめよ。正体を隠してるんだからね。絶対裏があるわよ。』
腰に手を当て真剣にそれを伝えてくれるリュナの姿を思い浮かべ微笑んだエストは、昨夜部屋に戻るなりスキル『
の『
と『
を使用して、彼らがこの宿で行っていた所業を目にしていた。
そのため、アーブリーが何度もドアを叩き呼びかけても返答しなかったのだった。
「確かに・・・母さんの言う通りだったよ。」
そう呟きリュックに荷を詰めて背負うと、食堂で待っているトトたちと合流するのだった。
「お世話になりました。ありがとうございました。」
宿屋を出る際に鍵を返しながら宿屋の女性に礼を言うと、女性は何かを伝えようとエストに小声で話しかけた。
「あ・・・あんた・・・悪い事は言わな「しーー。」
しかしエストは人差し指を立てると女性に目配せをして声を出さず「大丈夫です。」と口パクで伝えた。
「あ・・・お前さんは・・・「おーい!!行くよーーー!!」
その仕草に驚いた女性が目を丸くすると、急かす様にトトが声を上げるのだった。
****
話はエストが毒矢を放たれた後に戻る。
「エストくーん。ありがとうね。わざわざ俺らの前に現れてくれてぇ。」
倒れているエストを見て、ニタリとイヤらしい笑顔を浮かべたトトが声をかけるがエストは返事をしなかった。
「なんだ・・・もう意識を失ったの??何から何までつまんねーヤツ。」
両手を上に向けてトトがため息を吐くと、その横からバッ!!と飛び出したラミロがエストのリュックに手を伸ばした。
「あのテントは・・・貰う。」
「あ!汚ねぇぞ!!ラミロ!!!!」
「クヒヒヒヒ・・・・ヒ!?」
苛立つトトに目を向けながらリュックに手を掛けたラミロだったが、倒れて意識の無いはずのエストに手首を掴まれた。
「な!?」
「ん!!」
「ヒィィィイイイイイイイイイイイ!!!!」
素早く立ち上がったエストは、ラミロを4、5回頭上で振り回すとさっきの矢が刺さっている気に投げつけた。
「グヘェアア!?」
激しく背中から木の中腹に体をぶつけたラミロは、根本に落ちると体をピクピクと痙攣させていた。
「どうして??矢は掠ったはずなのに・・・。」
その様子に唖然としているアーブリーに顔を向けたエストは
「あ!俺、それなりに毒耐性あるんで。」
しれっとそう答えた。
「それなり!?!?はぁあああ!?!?猛毒のチシダケなのよ!!!!!!」
「知ってますよ。前に無理やり食べさせられたので・・・・。」
「食べたぁ!?!?」
「嘘を言うな!!!!」
驚愕したアーブリーとトトのその表情を目にしたエストは、
(やっぱりあの人はクレイジーだった。)
そう実感しながら空に親指を立ててニッ!!と笑うリュナの姿を思い描くと小さくため息を吐いた。
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