第28話 決着 ~アルスト対ルガタ~

「調子に乗るなぁああああああああああああ!!!!」


両手を広げ、反り返ったルガタが口の端が裂けそうな程大きく口を開き叫び声を上げた。


「ああ・・・すまんな。確かに力が溢れ調子に乗ったようだ。」


先程まで防戦一方だったアルストの状況を目にし沈黙していた周囲の人族たちは、形成が逆転すると大いに沸き始めた。


「はぁ・・・ここは闘技場か??」


その周囲の状況にため息を吐いたアルストだったが、キッ!!と今にも飛び掛かって来そうなルガタを睨みつけると地面を強く蹴った。


「な!?」


ギィン!!!!!


攻撃に出るのは自分のはずだった・・・・ルガタは爪に自分の魔力を注ぎ今度こそ止めを刺そうと踏み出そうとした途端、一瞬で間を詰めて来たアルストに先手を取られてしまった。


「な!う・・・・くそぉ!!!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!」


今度は一転して『くそ!』という言葉と共にアルストの攻撃を受け捌く側に回った。


「う!!!」


目の前に迫った剣の切っ先を首を傾けて躱すが、ルガタの右頬に剣がピッ!!掠ると宙に鮮血が飛ぶ。


「くそ!!・・・・が!?」


ルガタは左爪を斜め下から振り上げて反撃に出るも、サッと右側に回ったアルストの膝蹴りを腹部に受けた。


ヨロヨロと腹部を押さえ後退しながら忌々しげな顔をしたルガタは、アルストの一振りを頭上で交差した爪で受け止めると渾身の力を込めて押し返した。




「ゴフッッ!?」




後方に跳んだアルストの胸部を狙い、爪を突き出そうとしたルガタの胸部を、




アルストの剣が貫いていた。


「ブフッ!!!!!」


咳き込むと共に口から血が流れだしたルガタは、


「こんなはずでは・・・・・・・。」


と、先程自分が胸を貫いた人族の男と同じ台詞を口にしていた。


「ふ・・・ふふ・・・・。」


その事に気づいたルガタは、さらにゴフッ!と血を吐き出すと・・・何だか笑えて来てしまった。


「ああ・・・俺も甘くて弱かったんだな・・・。」


ズルッ!とルガタの胸部から剣が引き抜かれると、口の片端を上げ、視線は空を漂わせながらガクッと膝から崩れ落ちた。


「いや・・・お前は強かった。俺が今まで出会ってきた者達の中で1番強かった。」


「ほんと・・・何なんだよ。おまえ・・・は・・・・。」


剣を鞘に収め真顔でそう語るアルストに、迷惑そうな笑顔を見せたルガタはゆっくり目を閉じると前のめりに倒れた。



・・・・


少し寂しそうな顔をしていたアルストが、投げ置いていた盾を広いあげると金色の髪をかき上げて人族たちの方に体を向けた。



「「「う・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」



スタスタ歩いてくるアルストの姿を静観していた人族たちは、堰を切ったように諸手を挙げて歓声を上げ始めた。


「すげぇえええええええええええ!!!」


「魔族を1人で倒した!!」


「勇者さまーーーーーーーーーーー!!!!!」


「ありがとうございます!ありがとうございます!!!」



「・・・・・。」


つい悲鳴に反応して駆け出してしまい、さらに強者と相対して高揚してしまったアルストは、興奮する人族たちとは正反対に徐々に冷静さを取り戻していた。


「ア・・・アルスト様??」


先程アルストに進言した老人が何かを探すように首を左右に振っているアルストに問いかけた。


「ああ・・。あのイヴァとかいう者は??」


「イヴァ様ですか??ああ。お姿を消されたようですね。あの方は突如現れ、いつの間にか姿を消すようなお方です。」


「勝手な女だな。」


「いくら勇者様とは言え、我らの女神への冒涜は許せませんぞ!!」


「そうか。覚えてはおく。」


「ひっ・・・お、お願い致します。」


アルストのイヴァへの言葉を諫めた老人だったが、クルッと顔を向けたアルストの眼力と威圧に気圧されてしまった。その様子に気づかず周囲の人族達はまだ歓声を上げていた。


(この方にも逆らってはいけない。)


そう感じた老人はアルストに怯えながら低頭するのだった。


「まぁ・・いい。この集落の近くに国はあるか?そこの王に会いたいのだが。」


「く・・くに????お・・・おう????ですか?」


「何!?この世界には『国』や『王制』は無いのか?」


「ああ!!『国』!!!『国』は思い出しました。確か以前イヴァ様が南の集落から人族を集めて『国』というものを作ると仰っておりました。」


「そうか。元の世界より文化が遅れているのだな。」


そう呟きため息を吐いたアルストは、額に中指をグリグリと押し当てていた。


困ったり悩んだり、考え事をする時に出てしまう癖なのだが、巡らせている思考を人族たちの悲鳴が切り裂いた。


「きゃあああああああああああ!!!」


「魔族だ!?」


「ん?新手か??」


アルストが悲鳴がした方に視線を向けると、倒れているルガタを数人の魔族が担ぎ上げていた。


「ア・・・アルスト様・・・。」


魔族数人の姿を目にしてガタガタと震える老人の肩に手を置いたアルストは、その魔族たちの様子を見て首を左右に振る。


「そのうち去る。放っておけ。」


「し・・・しかし・・・。あ。」


少し薄く生えた白髪を震わせながら、一旦アルストに向けた目を魔族たちに向け直すと、魔族たちはアルストを睨みつけながらルガタを運び森の奥へと消えて行った。


「ほらな。」


「仰る通りでした。流石です。」


「ふ。褒め言葉はいらない。それよりもこの集落の長は貴殿で良いのか?」


「きでん???」


「あぁ・・・あなた様で宜しいのですか?」


「そんな!?アルスト様。わたしなどにそのような言葉遣いはいりませぬ。わたしはゾラといいます。仰る通り一応ここの長をしています。」


「そうか。助かる。では、ゾラ殿、分かる限りで良いからこの世界の事を教えて貰えぬか?」


「は・・・・・はい。喜んで!!」


戦闘中の表情やイヴァに対する態度とは一変して、気さくに話しかけてくるアルストに戸惑ったゾラだったが、こっちが本当の勇者の素顔なのかもしれないと感じた。


そして、その事を心の奥底から嬉しく感じたゾラは、神の加護を授かり自分には無い強さを持ちながら偉ぶる事をしないアルストを、イヴァ同様に敬愛していくのだった。



****




―ルガタが倒された翌日の夜―


「いやああああああああああああ!!!」


「助けてくれぇええええええええ!!」


アルストが召喚された場所からさらに北にある集落を襲っていたライトは、暗闇に紛れ容赦なく人族たちを殺戮していた。


「きゃっ!?」


「死ね。この世界のゴミ共。」


ライトから逃げようとした人族の女が躓き転ぶと、その背後に現れたライトが細長い剣を振り上げた。


「ま!待ってくれ!!!なんでこんな事を!!」


1人の青年が両手を広げ女の前に立ちはだかった。


「獣人族たちのその問いに答えず殺していたゴミ達に答えることなど何も無い。」


「まぁ。そう言うなよ。」


「あ”!?!?」


青年の言葉にイラっとしたライトは振り上げた剣をそのまま振り下ろそうとしたが、突如背後から掛けられた聞き覚えの声に振り返った。


「なんだよ!オッサン!!!邪魔しに来たのか?」


「まぁ。結果としてはそうなったな。」


「あ?フレドのおっさんと同じように、アンタも俺が言ってる事が間違っているとでも言いに来たのか?」


「いや、間違ってないぞ。」


「は?」


「間違っていないが、今のお前の行動は『ゴミ』だと罵っている人族たちと同じだけどな。」


右腰に手を当て、左肩に戦斧を担いだドイルが首を傾げながらそう答えると、苛立ったライトが怒声を上げた。


「ふっざけんなぁ!!!!俺がゴミと一緒だと!?!?!?ふざけるなぁあああああああああ!!!」


「ふざけてなどいないぞ。お前は獣人族たちを殺戮している人族と同じだ。」


「・・・・・。」


何も答えず俯いたライトは体を小刻みに震わせると


ボォォォォァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!


全身から炎を噴き上げた。


「なら、アンタはゴミに殺された塵になれ。」


『炎渦』


ギラッと目を光らせたライトが、勢いよく両手をドイルに突き出すと噴き上がった炎が渦を巻きながらドイルに襲いかかった。

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