第27話 スキルの発動
「う・・・・・・・。」
盾を貫いたルガタの爪は、アルストの左腕を掠め、さらに左頬を掠っていた。掠ったとはいえ蒼く光る爪は鋭く腕と頬の両方から血が滴り落ちていた。
蒼い光に身の危険を感じたアルストは、左手に持った盾を突き出し貫くであろうと予測した部分から若干体を逸らしていた。
ズルッ・・・・・・。
盾から爪が引き抜かれると、外れた事を察知したルガタが舌打ちをする。
「チッ・・・。」
「はぁ・・・・・・・・・・危なかったな・・・。」
それに対してツゥーッと頬から垂れる血をペロッと舐めたアルストは、ルガタから距離を取るとひとつ深いため息を吐いた。
一瞬『死』というものを感じたアルストは、貫かれた盾の穴をジーッとしばし見つめるとポイッと盾を前に投げ置いた。
「は???こ・・・この気違いが・・・。」
その様子を見ていたルガタは、自分の身を守っていた盾を捨てたアルストにさらに苛立っていた。
少しではあるもののアルストの盾を邪魔に感じていたルガタは、その盾を捨てたアルストをドイルと同じ戦い好きの死にたがりと判断するのだった。
****
―アルストとルガタが対峙する3週間前―
「ぐ!!!がああああああああああああ!!!!」
意見が合わずドイルと対峙したルガタの爪がドイルの肩に突き刺さると、一瞬顔を歪めたドイルは痛みを振り払うように吠えてルガタの顎を殴り飛ばした。
「があ!?!?」
その威力に吹き飛んだルガタが立ち上がろうとするも、バランスを崩してガクッと膝を地面に着ける。
「ぐ・・・くそ・・・・。」
自分に発破をかけるようにパン!!と頬を叩いたルガタが顔を上げると、ニィッと笑顔を浮かべ腰に手を当てているドイルを目にした。
「な、なぜ・・」
自分の周囲にはいなかったタイプの男の理解不能な行動に苛立ちを覚えた。
「なぜ止めを刺しに来ない!!」
「あ?お前、まだ本気出して無いだろ??本気で俺を殺す気で来いよ!」
「ごめんだ、そんな事に意味などない。」
「なんだ・・・楽しめると思ったんだけどな。つまらん。」
『戦いは任務で、自分に課せられた事をするだけ。』という考え方だったルガタは、そう言って心底残念そうにため息を吐くドイルに苛立ちから怒りを覚えた。
「いつか・・・後悔させてやる・・・・。」
そして・・ルガタは立ち去っていくドイルの背を睨み、額に青筋を立てながらそう呟くのだった。
****
ドイルと同じようにニィッ!!と笑っているアルストを目にしたルガタは、あの時ドイルに感じた怒りと同じようなものが胸に込み上げていた。
「そんなに死にたいのなら殺してやるよ。」
アルストを睨んでそう呟いたルガタは、胸の前で交差した両手を勢いよく広げ両の爪を剥き出しにするとアルストに襲いかかった。
キン!!!キンッ!!!
狂ったように、獣のように襲いかかるルガタの表情は鬼の様だった。
足を後退させながら何とかルガタの攻撃を捌くアルストはまさに防戦一方だった。2人の予想通り、徐々に追い詰められていたアルストは自分が『死』に近づいているのを感じていた。
「くっ!!!あの神に力を借りて前より強くなった感覚があったが・・・・これは・・捌ききれないかもな・・・・・ああ、せっかっく強い奴に会えたのに、つ『我の力を使え。』
「は?」
ルガタの攻撃を捌きながら思いを巡らせていたアルストは、思考の合間に入って来た声に驚いた。
「うあああああああああああ!!!!」
ギィン!!!!
「くっ!!!」
冷静を失っていたルガタの大振りに合わせて剣で爪を受け止めたアルストが、何とかルガタのその爪を弾き返すと、肩で息をしながら心に語り掛ける聞き覚えのある男の声に問いかけた。
「あなたは・・・先程の・・・・??」
『そうだ。我は「力を司う神」の分身である。さぁ・・・我が授けたスキルを使え!』
「スキル?????」
『そうだ。我が主に授けた特殊な力だ。」
「使うって・・・・どうやって使えば・・・・?」
『唱えよ。』
「唱える??何を・・・うお!?」
「何を1人でブツブツ言っている!!気でも狂ったかこの戦闘狂が!!!!」
目の前にいたはずのルガタが姿を消したことに気づいたアルストは、背後に殺気を感じると振り返りルガタの攻撃を剣で弾き返した。
「う!?」
戸惑いながらもルガタの右の爪の攻撃を弾き返した・・・いや、何とか弾き返せたのは良いものの、その後も勢いを止める事なく襲い掛かるルガタの攻撃にアルストは再び押され始めた。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!!!!!!!!!!!」
『死ね』という言葉の数だけ爪を振り下ろすルガタの攻撃を全て捌ききれず、アルストの体に切り傷が増えていく。
が、まだ致命傷には至っていない。
スレイルの言葉に何とか耳を傾けていたアルストは、ピッ!!ピッ!!!っと周囲に血をまき散らしながらスキルを発動するのだった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!死ねぇぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
「ぐ・・・・う・・・・うぅううううううううううううううう!!!あああああああああああああああああああああ!!!」
スキル『
ガイン!!!!
止めとばかりに渾身の力を込めて振り抜いたはずの攻撃を、いとも容易く受け止められたルガタは目を見開き驚いた。
「ふぅ・・・・・はぁああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そして、ルガタの爪を受け止めながら大きく深呼吸したアルストの体は光を放っていた。
「な!?!?!?ス・・・スキルだと!?!?!」
その状況を信じたくなかったルガタは、こめかみに青筋を立てると思わず大声を上げた。
「うああああああああああああああああああああああああ!!!!!そんなはずが・・・そんな事があるものかぁああああああああああああ!!!!」
「何だ・・・・クールなタイプなのかと思ったら、結構俺と同じような激情家なんだな。おい。攻撃が雑だぞ。」
「あ”!?!?くそ・・・・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええええええええええええ!!!」」
「ふん!!!」
ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギンッ!!!!!ギン!ギン!ギン!ギン!!!!!!
ルガタに語り掛けながら余裕の表情を浮かべたアルストは、先程までは何とか捌き致命傷を外していた状況から、一変して簡単にルガタの攻撃を受け流すようになっていた。
「あああああああああああああ!!!!!!!あ!?」
スルッと切っ先をルガタの指の股に向けたアルストはルガタの爪を滑らせながら、その指の股を斬りに行った。
「が!!」
手を切り裂かれる前に後方に跳ね、何とかそれを避ける事に成功したルガタだったが、指の股からタツッ・・・・タツッ・・・・と地面に血が落ちていた。
「凄いな・・・身体強化は、動体視力も上げるのか・・・・?」
『無論だ。』
「・・・・。」
胸の内から聞こえてきた回答をあえて無視して笑顔を浮かべたアルストは、体に溢れる力を感じながら剣を構えた。
「さぁ・・・今度はこちらから行くぞ!!!」
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