第18話 怒るバスチェナ ~side horns tribe


―王国歴が始まる3年前 南の砦にて ―


「それで、俺たちに何の用だ?」


両腕を組んだドイルがバスティナに問いかけた。


「はい。お二人は人族たちが北部に大移動しているのはご存知ですか?」


「ああ。」


「何だと!!どういう事だ!?」


バスチェナの言葉へのフレドとドイルの反応は真逆なものだった。


「落ち着けフレド。お前が集落地を渡り歩いている間に、あの得体のしれない女に洗脳された人族たちが次々と集落を捨てているんだ。この男が言うようにアイツらはみんな北に向かっていた。」


「ど・・どうして・・・。」


「はぁぁぁぁぁ・・・・。」


ドイルの話に動揺するフレドを見てバスチェナが大きく息を吐いた。


「あ!?」


その大きなため息に苛立ちいきり立ったフレドにバスチェナは臆することなく口を開いた。


「たぶんですが、その女は人族一人一人の力では我々には敵わないと思ったんだと思います。」


「だな・・・・。」


椅子から立ち上がったフレドの肩を掴み、力を込めた無理矢理椅子に座らせたドイルがバスチェナの言葉に同意した。


「ぐ・・・ドイル!!!」


そんなドイルに苛立つフレドに対してバスティナが怒声を上げた。


「いいかげんに頭を冷やして今起こっている事を冷静に考えろ!!!!!!!!!」


「!?!?」


フレドの気持ちは分かる・・・・「一人の女のエゴで洗脳された人々を助けたい。」という気持ちは十分に分かっているバスチェナだったが、今、現実に起こっている出来事を考えるとフレドの気持ちに同意している余裕は無かった。


「あなたは・・・もしこの地に魔物が攻めてきたらどうしますか?」


「そ・・・それは・・・。」


「それは??」


「・・・・・・。」


「それは??????」


「げ・・撃退する・・・。」


「なら、人族がこの地に攻めてきたら見過ごすんですか??洗脳されて可哀そうだから家族を殺され、自分を殺されても致し方ないと??」


「ぐ!!!・・・・・・くそぉおおおおおおお!!!!!!!」


バァァァァン!!!


フレドはバスチェナの言いたい事が分かってはいるものの、踏ん切りがつかない自分の気持ちに悶え両手でテーブルを叩きつけた。


「話は聞いています。物理攻撃も魔法もスキルもその女には効かない事を・・。」


「・・・・。」


真っすぐフレドを見つめるバスチェナに対して、フレドは机に手を乗せたまま俯いて答えなかった。


「なら、今は集結しようとしている人族たちに対して我々も団結するべきではないのですか???」


「・・・・。」


「おい・・フレド・・・。」


「・・・・。」


ドイルの呼びかけにも応じないフレドを見てため息を吐いたバスチェナはうだつが上がらないフレドに怒り、なおかつ呆れていた。


「分りました。助力を求めてここまで来たのですが無駄足でしたね。こんなにも決断力がないとは・・・。」


そう言い捨てて部屋のドアに向かって歩き始めたバスティナに、フレドが重い口を開けた。


「お・・お前はこの後どうするんだ??」


「無論。自分の考えに賛同する者達と共に人族達と戦いますよ。俺は仲間も家族もあの女の思うようにされてしまうのは我慢できない。」


「それで・・いいのか?」


「あなたが罪の無い人族たちを何とか救いたいと思って奔走していたのは分かっています!だが、解決できなかった!!!しかもあんたは奔走した挙句、人族たちの動きにも気づけなかった!!!!もしあの女が人族たちに『北部に移動しろ。』と命じなくて『この砦を攻撃しろ。』と命じてたなら??それでも『人族たちは操られていたんだよね。じゃあしょうがないですよね。』って仲間を諭し、人族を許すんですか?」


「ぐ・・・。」


「あなたが人族たちのために奔走していたのは分かります・・・俺が同じく奔走していたとしも結果は同じだったでしょう・・・何とかしようと奔走しても何も出来ない自分に憤ったでしょう・・・だが、それでも操られた人族たちが集結して攻めてくるなら・・俺は人族と戦います。例え洗脳されていようとも・・・。」


「それによって死んだ人族たちに恨まれてもか??」


「もし殺した人族が俺に文句を言うのなら、それはあの女に言ってくれ!!ってところですね。」


両手を広げてあっけらかんとそう話すバスチェナにドイルが破顔した。


「はははははは!!!お前は分かりやすいな。」


「そうでしょうか???」


「ああ。獣人族のダチにお前と似たような男がいる。久しぶりにそいつを思い出したよ。」


「ああ!!」


「どうした?」


「すいません。そう言えば言っておりませんでしたが、俺が人族たちと戦う事決めた理由に北部の集落ではその女の影響で共に生きる獣人族を蹂躙し始めているっていうのがあります。」


「は!?」


バスチェナの言葉を聞いた途端、笑い声を当てていたドイルはピタッ!!っと笑顔から真顔に戻った。


「すいません!!住処の近くにある人族の集落で『イヴァ』と名乗る女と対峙したときに・・・やつらが獣人族を蹂躙しているのを目にしました。」


ドォオオオオン!!!


「なんだと!?!?」


今度はバスティナの言葉に反応してテーブルを強く叩いたドイルと、顔を上げたフレドにバスチェナは無言で頷いた。


「お前もあの女に会っていたのか??」


「はい・・・・・・あの女は人族たちに向かって『人族以外は人類に非ず。』と言い獣人族を殲滅するよう命じてました。」


「な!?!?!?あの女は俺たちや獣族たちは人ではないと言ったのか!?」


思いもよらぬバスチェナの話にドイルが怒り声を上げた。


「はい。その後、人族たちは実際に獣人族たちを躊躇なくけものを捕らえるように獣人族たちを殺戮し始めました・・・。そして・・・無論俺もあの女に抵抗しましたが、何も通用しませんでした。俺は・・・今やあの女が現れてたこの大陸は人族、角族、獣人族の生き残りをかけた戦いの場になったと考えています。」


「・・・・・。」


「・・・・・。」


バスチェナの話と思いに言葉を失ったフレドとドイルだったが、しばらくして先に口を開いたのはドイルだった。


「確かにそうだな・・・。分かった、俺はお前に付いて行く。」


「ドイル!」


「ありがとうございます!!」


ドイルの言葉に感謝したバスチェナはフレドに目を向けるが、フレドは両手を机に着けたまま再び俯いてしまった。


「すいません。無理強いをするつもりではありませんでした。俺はあくまでも助けを求めに来ただけでした。ですが・・・俺はもう既に人族たちを敵だと認識しています。あの女に操られていようが・・・・これ以上好き勝手にさせる訳にはいきません。俺は・・・・あなたが言うように結果的に人族たちに恨まれようとも・・・人族たちと戦います。」


フレドの様子を見て頭に登った血を下げた(実際には血が登ったまま)バスチェナは、そう語った後に頭を下げると踵を返して部屋を出ていった。


それを見てバスチェナの後を着いていこうとしたドイルが、一度足を止めて振り返ると


「じぁあな!フレド、達者で暮らせよ!」


と、言って同じく部屋を後にするのだった。


「ドイル・・・。」


ドイルの名を小さく呼び、椅子から立ち上がったフレドだったが、呪いのように触れ合っていた人族たちの笑顔が脳裏に焼き付いているフレドは、思い出と自分の思いによってテーブルから手を離せなかった。



フレドはドイルが出ていったドアを見つめながらその場に立ち尽くしていた。




「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!・・・・・・・。」




そして・・・悔しさのあまり叫び声を上げたフレドのその声は、空しく一人残された室内に響き渡るのであった。

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