第42話 レベルアップ と 罰と言ってもお尻ぺんぺんだった件
「う・・・。」
足を短い鎖で繋がれていたブレナが目を覚ますと、王の座に座り腿に肘を乗せて前屈みで自分を見ているバスチェナの姿が正面にあった。バスチェナの隣には白髪の老人が控えている。
閑散とした王の間は、王の座以外は何もない空間だった。天井にはシンプルでクラシカルなシャンデリアがいくつかあり、蝋燭の灯りが静かに揺れていた。
「よぉ、ブレナ。」
「お・・お父様。」
「だいたいの話はドリアスから聞いた。」
バスティナが顎でブレナの後方を指すと、後ろにはドリアスとガルシア、そしてエストの姿があった。
「で。お前、ルゴートに誑かされたのか?」
「いえ、彼の目的と、私の目的が合致していただけです。」
「なるほどなぁ。おい!!入って来い。」
ブレナは毅然とした態度で、バスチェナの問いに答えていたが彼の合図で両開きのドアが開き、中に魔狼とエビルイーグルが連れて来られると目を泳がせ動揺した。
「グアアア。」
「ガアア。」
「あ、あなた達・・・。」
魔物がブレナの傍にすり寄ると、涙を浮かべたブレナは彼らに抱き着いた。
「さて、問うが魔物達はお前を責めているか?」
「グウアアア。」
「グルルルルル。」
「姫と共に戦った同胞達は、誰も姫を責めたりしない。」
魔物達の言葉を通訳したブレナはポロッと涙を零した。
それに対してバスチェナが、嘘か誠かを確かめる事は無かった。ここで嘘を吐くほどブレナが愚かでは無い事を知っていたし、魔物達の回答がどちらだとしても罰を与える事には変わらなかったからだった。
「なるほど・・・姫ね・・・。しかし、魔物達が許していたとしても、勝手な行動をしたお前を俺は許すわけにはいかないんだよ。」
「・・・はい・・・。」
「でだ。ドリアスが自分の管理不行きだったと首を差し出すと言っている。」
「え???」
ブレナが驚いて立ち上がろうとするが、鎖が邪魔をして膝立までしか出来なかった。
「ドリアス。」
「は!!」
バスチェナが人差し指で前に出るよう合図すると、背筋を伸ばしたドリアスがブレナの前に出ると、ドアから大剣を持った牛のような角を生やした巨躯な男が現れる。
「ダメ!!!私に責任があるの!?ヤメテ!!!お父様!!!!」
ブレナが声を荒げるも、ギン!!!とブレナを睨んだバスチェナがドスの効いた声で語り掛ける。
「お前・・・俺やドリアスが何度も「やめろ。」「踏み止まれ。」と話しても一切聞く耳持たなかったじゃねーか。」
「そ・・それは・・。」
「なぜ、俺がそんなお前の言う事を聞かなきゃならねーんだ??ガルシアがルゴートの首を刎ねてイヴァリアの騎士と落とし前を付けたらしいが、それで済むわけが無いだろう????」
「う・・・。」
ブレナは俯き、魔物達はバスチェナの威圧に首を垂れるしか無かった。
「じいちゃん・・・どうして?」
「待て・・・我慢しろ。アイツにはアイツの考えがある。」
ガルシアは飛び出しそうになったエストの肩を掴んで首を左右に振った。
「お嬢様。」
振り返ったドリアスが、フッと微笑むと頭を下げた。
「ド・・ドリアス??」
「お嬢様、これまで誰かと比べたりするような事を何度も話してしまい。申し訳ございませんでした。」
「は??何を言ってるの???そんなのいい・・から・・・。やめてよぉ・・。」
ブレナは柔らかいドリアスの表情にボロボロとまた涙が零れた。
「お嬢様。どうか・・どうかお幸せに暮らして下さい。」
ドリアスはバスティナの方に向き直すと床に両膝を着き、大剣を持った男がドリアスの左後方に移動する。
****
「じいちゃん!!離して!!!」
我慢が出来なくなったエストは、ドリアスのもとに駆け寄ろうとするもガルシアに羽交い締めされる。
バタバタと暴れるも、エストが大剣の男にスキルを使おうとするのを察知したガルシアは、エストを羽交い締めにしたまま振り返りそれを阻止した。
「ダメだ!!エスト。バスチェナにはバスチェナの立場がある。」
「そんなの知るか!!オレはドリアスさんを死なせたくない。」
「俺に重力負荷をかけても絶対離さねーぞ。」
「じ・・じいちゃん・・・。分かった!!!!行くよ?」
「なに!?」
スキル『
「ぐあああああ!!!!ぬぅうううう!!」
ズド!!!!とガルシアに重力負荷がかかるが、特訓中、何度もエストのスキルを体験していたガルシアは言葉通り耐えてみせた。
「じ・・じいちゃん・・・・。これに耐えるのか!?」
「離さねぇって言っただろうが!」
「凄いなじいちゃん・・・・俺も意思を貫く!!!」
スキル『
「うあああ!?最大負荷だと!?!?エストォオオ!!!!」
100gravityに沈んだガルシアを余所に、初めての100gravityの重力負荷の中でも立ち上がったエストは6mは離れたドリアスに向かって足を向けると、脳内にグエナからのお知らせが届いた。
『エスト・・よく100gravityの重力負荷を克服しました。それによりスキル『
「グエナ・・・様??」
****
「これまで苦労かけた。」
「勿体ないお言葉。」
バスチェナの労う言葉に感謝したドリアスは、首を垂れた。
「いや・・ダメ!!!お父様!!!ヤメテェエエエエエエエエエエエエ!!!」
ブレナの叫びを無視して男が大剣を振り上げる。
グエナのレベルアップの知らせを受けていたエストは、ブレナの叫び声でハッと我に返ると重力負荷と重力範囲を切り替えた。
スキル『
「ぐお!!」
「おお!!!」
「キャアアアア!!!」
「グアアアアア!?」
「こ・・これは!?マサトと同じスキル!?」
部屋にいる全ての者達が重力負荷に押し潰された。大剣を持った男も剣を床に落とすと平伏す姿勢なった。それに対して重力負荷が半減したエストは、ドリアスのもとに駆け寄ると男が落とした大剣を拾い上げた。。
ガシャアアアアアア!!!ガシャアアアア!!!!
50gravityの負荷に耐えられず天井のシャンデリアが落下する。
「ぐ・・エスト・・止めろ。俺たちの・・・負けだ。」
ガルシアがエストに向かってそう言うと、『負け??』という言葉に違和を感じたエストだったが、目的を果たしたのでスキルを解除した。
「エ・・・・エスト殿。」
ドリアスは唖然とエストを見上げた。
「ごめん。ドリアスさん。俺どうしてもあなたに死んでほしくなかった。」
「そ・・・そんな・・「あはははははは!!!重力スキルを授かっているとはな・・・確かに私達の負けだな。」
破顔したバスチェナが大声で笑うと、ガルシアと同じく『負け』を認めた。
「バスチェナ様??」
「お父様??」
ドリアスとブレナがキョトンとした顔をして座り込んでいた。
「すまん。最初からドリアスを殺すつもりは無かった。」
「は??」
エストが振り返るとバスチェナはニヤッと笑みを浮かべた。
「ブレナに事の重さをきちんと理解してもらいたくてな・・・俺が必ずエストを押さえておくとバスチェナに言ったんだが・・・・やられてしまったな。」
ガルシアがエストの頭にポンと手を置くとクシャクシャと頭を撫でた。
「ご・・ごめん。じいちゃん。」
「いや。お前の意地の強さを見せてもらった。しかし、いつから負荷範囲を広げれるようになったんだ?」
「ん・・さっき・・・・。」
「は?」
ガルシアが目を丸くすると、再びバスチェナが笑い声を上げた。
「ははははははは!!!そう言う事だ。まさか
「いえ・・・正に勿体ないお言葉です。」
「それと、凄いヤツに慕われたものだな。」
「は・・・はい。大変恐縮です。」
ドリアスがチラッとエストを見て深々と頭を下げると、突如『バン!!!!』と慌ただしくドアが開き、たくさんの魔族が王の間に詰め寄って来ていた。
「王!!!今のは何だったんですか!?」
「ご無事ですか!?」
それはエストの半径10m範囲の重力負荷に巻き込まれた者達だった。
「問題ない。」
「は・・・はぁ。そうですか。」
バスティナが一言そう言うと、頭を掻きながら部屋を出ていく魔族達にエストは135°くらい頭を下げていた。
「くく。さて、ブレナよ。」
「は・・・はい。」
「ドリアスの命を懸けた想いはしかと受け取ったか??」
「はい・・・うぅ・・ドリアス・・ごめんな・・・さい。」
「お嬢様・・。」
ドリアスは泣き崩れるブレナに寄り添うと、バスチェナは立ち上がり2人に向かって歩き始めた。
「まぁ・・本音を言えばお前のやろうとした事は分からなくはない。それにマサトの息子との縁を早めてくれた一因にもなった・・・だが、勝手な行動を取ったお前にこのまま何もせぬわけにはいくまい。
お前には罰として説教部屋に入ってもらう。」
「え!?!?!?!?!?」
「説教部屋??」
ブレナは『説教部屋』と聞いてガバッと顔を上げると涙ながらにバスチェナに訴え始めた。
「お・・お父様・・私ももうこの歳です。どうか・・・それは・・・それだけはご勘弁ください。」
「ならぬ!連れてけ。」
「は!」
大剣を持っていた男が、バスティナに命を受けるとブレナを抱えて王の間の外に向い始めた。
「いや。。いやああ!!ドリアス!!!!」
「ぐ・・・申し訳ございません。ブレナ様・・・。」
ブレナがドリアスに手を伸ばすも、バスチェナに睨まれてはブレナを助けるわけにはいかなかった。
「いやあああああ!!!やめて!!ちょっと、そこのあなた!!!ドリアスを助けたように、私も助けなさい!!!!」
今度はエストに助けを求めて両手を伸ばすが、当のエストは首を傾げていた。
「?????なんで?????」
「う・・う・・・・・うらぎりものぉおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ・・・・・。」
連れ出される間、ずっと叫び声を上げ続けたブレナだった。
「じいちゃん・・・俺、あの子の事裏切ったの??」
「ん?気にすんな。」
「ブッ!!!」
エストが呆然としてガルシアにそう問いかけると、バスチェナは吹き出した。
「本当に面白い男だな。さて、行って来る。」
「くくく。ほどほどにな。」
ニヤニヤしながらエストの横を通り過ぎ、王の間を後にしたバスティナを見送ったエストはガルシアに問いかけた。
「説教部屋って何するの?」
「ん?お尻ペンペン100発だ。」
「へ?」
「呆けるが、あいつのお尻ペンペンは馬鹿に出来ねぇぞ。ドリアスは昔100発のペンペン中に8回は天に昇りそうになったらしいからな。な??」
「や、止めて下さい!!数十年も前の話ですよ!?」
急に昔の痴態を暴露されたドリアスは、汗を吹き出しながらエストに両手を振る。
「そんなにヤバいの?」
「ああ。昔コツを聞いたら『掌の中心に気を入れて、尾骶骨から脳天まで一気に貫くイメージで平手をぶち込む。』そうだ。」
「うへぇ・・・・・。」
エストは苦笑いを浮かべてブレナが連れ出された王の間の出口を眺めていた。
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