第39話 狂乱のルゴート

「くっ!」


キィイイイン!


後退しながらドリアスの剣を躱し、アシュトンの振り下ろしたショートソードを交差した短剣で何とか受け止めるも


「ぬぅぅああああ!!」


ドリアスの渾身の蹴りを脇腹に受けたランダルは、街路に叩きつけられてしまった。


「ぐはぁ!」


強く路面に叩きつけられたランダルはその衝撃で短剣を手放してしまった。


路面に落ちた短剣が乾いた音を上げる。


「う・・・ぐ・・・。」


ランダルは短剣に手を伸ばすが、ダメージが大きく首元に剣を突き付けられた。


「降参しろ。」


「う・・・くそ!!」


ドリアスが低い声でそう言うと、頭だけ少し上げて悔しそうに顔を歪めるも、負けを認めたように体の力を抜いて大の字になった。



****



「すんません、姫。ちょっと遅くなっちゃいました。」


「ルゴート・・。」


ペタンと地面に座っているブレナの前に着地したルゴートは、片膝を着き飄々と呆然としているブレナに話しかけた。


「あ・・あぁ・・・。」


ルエラは騎士達ではなくルゴートが戻って来たことに愕然としていた。


「じゃ、引き続き人族殲滅しましょ♪」


「もう終わりだ。若いの。」


ガルシアがルゴートの背後から声を掛けると、ギロッと目をひん剥き肩越しにガルシアを睨みつけた。


「はぁ?誰だよオッサン。」


「ルゴート、この方はな「ま、誰でもいいや。邪魔すんじゃねぇよ。」


ランダルをアシュトンに任せたドリアスが、ガルシアの素性を説明しようとするも遮られてしまう。


「ル・・ルゴート??」


いつもケラケラとおちゃらけている彼とは様子が違いドリアスは目を丸くした。


「さあ、姫。ここにいる人族達を殲滅しちゃいましょう。」


ガルシアとドリアスを無視し、視線をブレナに戻したルゴートが、またニンマリとした表情でブレナに声を掛けたが彼女は首を左右に振る。


「しない・・もうしないわ。」


「だから終わりだと言っただろうが。」


「は??マジかよ。チッ、使えねーな。」


ルゴートがその後も項垂れたまま動かないブレナに苛立ち、「使えない。」と舌打ち混じりに彼女をそう言い捨てると、その一言にガルシアは眉をひそめた。


「まさか・・お前が首謀者なのか?」


「あ???まぁ、半分正解で半分不正解だ。」


「そうか。まぁいい。とりあえず帰るから付いてこい。」


「オッサン。ママに教わらなかったのか??」


チラッとガルシアを見てそう答えたルゴートは、ゆらっと立ち上がる。


「あ!?何だコイツ?」


「いつものルゴートじゃない!?」


青筋を立て歯ぎしりをしているルゴートが、目を充血させて振り返ると両手から炎を立ち上げた。


「知らない人に付いて言っちゃいけないってさぁ!」


紅炎prominence


「しぃねぇえええええええええ!!!!」


バッ!と両手を突き出すと、ルゴートの両手から炎が噴き出た。


「お!やべっ!?」


ガルシアは後方に飛び、ルエラを捕まえると今度は上へと高く飛び上がった。


ゴオオオオオオオ!


飛び上がった真下を業火が通り抜ける。


「危ねーなぁ。」


「どういう事だ!!!」


「ああ。すまん。言う事を聞かないガキがもう一人いたようだ。」


「そうじゃない!!なぜ私を助けた!!」


「あーー・・・・。何となく。」


「くそっ!何なんだ!?!?」


ルエラはガルシアが現れてから頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。


死んでいたと思っていた剣豪の魔族が突如現れては停戦を求められ、その剣豪が仲間であるはずの魔族と揉めては攻撃され、しまいには敵である自分を助けた理由が『何となく。』となればそうなっても致し方ない。


建物の屋根に着地したガルシアはルエラを降ろすと、両手から左右の建物に火の糸を伸ばしているルゴートの姿を目にした。


「あ!!・・・のやろう。」


ブレナの時とは対照的に、ルゴートの手から離れた炎の糸の末端は瞬時に建物に辿り着く。


爆破Blast


ズ、ズドォオオオン!!!!!


街路両側の建物が爆発して火の手を上げる。


「くっ!!血迷ったか・・ルゴート・・。」


「違うわ、ドリアス・・・こっちが本性なの。」


「何ですと!?う!」


ドォオオオオン!!!!


片側の建物が二度目の爆発を起こし更に炎が燃え上がった。


「ギャハハハハハハハハ!!!キィヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!」


街路に飛び降りたガルシアは、路面に落ちていた騎士のものと思われる剣を拾い上げると、のけ反りながら狂気的な笑い声を上げながら、さらに魔法を放とうとしているルゴートに足を向けた。


「う・・・。」


気絶していたクリミナが二度目の爆発音で目を覚ました。


「うっ・・あれは・・・誰?」


屋根の上で上半身だけ体を起こしたクリミナだったが、全身を強打していたため思うように動けなかった。しかし、下に目を向けると炎で真っ赤に色づく街路を悠然と歩くガルシアの背中が目に入った。


「やめろ。もう終わりだと言ったはずだぞ?小僧。」


正気を失った目を宙に泳がせているルゴートに、ガルシアが話しかけるが狂乱した彼が聞く耳を持つはずが無かった。


「勝手に終わらせるんじゃねーよ、オッサン。ここからが本番だって、それにオレは死ぬまで止まらねぇ♫ギャハハハ!!」


ガルシアは拾った剣を構え、ルゴートの背後にいるドリアスとブレナに目を向けると、ため息を付いたドリアスはガルシアの意思に無言で頷き、ブレナは項垂れたままだった。


「いや、終わりにする。」


「うるせぇなぁ・・。まず、あんたが爆発してよ。」


説得を諦めたガルシアは、言葉の通り一瞬で終わらせる。


バッ!!と両手を構えたルゴートがガルシアに向かって炎の糸を放つと、ガルシアは走り出して先ほど拾い上げた剣の腹に炎の糸を付けさせた。


ドォオン!!!


と瞬時に爆発を起こしたものの、剣を手離し、強く地面を蹴って一瞬でルゴートの横を通り過ぎたガルシアは、大剣を鞘に収めるとルゴートの方へ振り返った。


「え?は????かはっ!!!!な・・んで・・・。」


首にプツッと線が入り鮮血が飛び散ったルゴートが、目を大きく剥いたまま前のめりに倒れる。


そして、倒れた衝撃でルゴートの首と胴体は切り離された。


ルエラとクリミナはガルシアの動きに息を呑み、ドリアスは無念の表情を浮かべ、ブレナは崩れ落ちていた。


ガルシアはルゴートの遺体に近づくと、再度剣を抜きピッ!!とルゴートの片方の角を切り落とした。そして、それを拾い上げるとドリアスに放り投げ「火葬してやれ。」とルゴートに親指を向けた。


「か・・かしこまりました。」


ドリアスはガルシアに一礼すると、街路に落ちていた火がついた建物の木材を手に取ると、ルゴートの遺体に歩み寄り静かに火を付けた。





ボアアア!



ルゴートの遺体が燃え上がり始めると、周囲は静寂に包まれていくのだった。



****



「よし!行くよ?」


しっかりとカリンを抱きかかえたエストは崖を見上げた。


「どうするの?」


カリンもエストと同じ様に上を見上げてそう問うと


「ところどころ突き出てる岩を使って上まであがる。」


「え??な・・何て言ったの??」


突拍子もないエストの発想に驚きを隠せなかった。


エスト的には、風魔法と0gravityを使えば簡単に崖の上まで行けるのだが、ガルシアから『ホロネルでは人前でスキルを使うな。』と言われていたため、エストは自力で上がる方法を選ばざるを得なかったが、現在90gravityを超える重力負荷に耐えれるエストにとってはカリンを抱えて崖を飛び上がっていく事など難しくなかった。


(※ちなみに① 現在エストはスキルを解除しているので通常の重力負荷。

  ちなみに② カリンを救助していた時は、カリンが気絶していたのでセーフ。

  ちなみに③ ルゴートに姿を見られたがお亡くなりになられたのでセーフ。)


「大丈夫。俺を信じてくれる?」


「うん。」


エストの迷いのない瞳を見たカリンは、頷くとギュッと彼の首に手を回して捕まった。


「ありがとう!」


「わっ!?」


エストは微笑むと、周囲の木々を利用しながら蹴り上がると、言ったとおりに崖から飛び出している岩場にピョンピョンと飛び移りながら崖の上まで登っていった。


「す・・・凄い。カッコイイ!!」


エストに体を預けていたカリンの目がハートになっていたのは言うまでもない。

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