第40話 ブレナの後悔とエストの救い


「え・・・・・・酷くなってる・・・・。」


先程までエストの逞しさにうっとりしていたカリンだったが、山頂に戻りホロネルの街を目にすると、ルゴートと剣を交える前より燃え広がっている状況に言葉を失った。


その様子を見ていたエストはそっとカリンを地面に降ろす。


「・・・・・。私。。行かなきゃ。」


懸命に消化活動にあたる水の魔法士達を見つけたカリンはエストにそう告げた。


「うん。」


エストはカリンの言葉に頷くと、フードを深く被り直した。


「エスト・・ずっと待ってるからね。」


「ああ!必ず会いに行く。」


惜しむようにエストの手を放したカリンは、山の斜面を駆け下りて水の魔法士達と合流した。


「手伝います!!!」


「ああ!!!助かる!!」




「・・・・。ん?」


エストは見送ったカリンが消火活動を始める姿を見つめていると、「グアアアアアア!」という魔物の鳴き声を耳にしてそちらに目を向けた。


「じいちゃん。」


そこには、1羽のエビルイーグルの背に飛び乗るガルシアの姿があった。



****



~エスト達が山頂に戻る少し前~


激しい音を上げながら、ルゴートにより爆破された建物が倒壊した。


「うわ!!!!あ!ルエラ隊長!!!!!」


倒壊した建物に怯えながら、南側にある防壁の上で戦況を見ていた騎士がルエラの元に訪れた。


「どうした!?持ち場を離れてまで。」


「はい!!あ!!え??」


前方に魔族が3人いる事に気づいた騎士は状況に困惑するが、ルエラは声を上げ報告を求めた。


「おい!!!どうした!?!?」


「あ・・はい!ハワード隊長を先頭に魔物討伐に当たった騎士達が、魔物達の侵攻を何とか食い止めたのですが・・・先程さらに数百の魔物が南東の森から姿を現しました。」


「何だと!?」


「騎士達は満身創痍です・・・ご助力願いたかったのですが・・・この状況では・・・。」


騎士は、街の状況をもう一度見渡すとガックリと項垂れた。


「だ、そうだ。ブレナ、魔物を止めろ。」


「・・・・はい・・・。」


ガルシアの発言に驚いたルエラは、振り返ると項垂れていたブレナが指笛を鳴らした。


すると上空を旋回していた2羽のエビルイーグルが、街路の中央に座り込んでいるブレナの傍に着地しては傍にすり寄った。


「まさか・・・本当に・・・。」


ルエラは信じられないという表情でブレナを見ていると、ブレナは1羽のエビルイーグルの耳元で何かを囁いた。


スッと、エビルイーグルから離れたブレナは「伝えて・・。」と呟くと


「グアアアアアアアアアアアア!!」


鳴き声を上げ羽ばたいたエビルイーグルは、ハワード達が戦っている方向へと飛んで行くのだった。


ガルシアは飛んでいくエビルイーグルを見届けるとルエラに向き直った。


「じゃあ、こいつを連れて帰るぞ。」


「・・・・分かった。」


複雑な表情を浮かべ、悔しそうに拳を握るルエラだったが今現在の状況を考えれば同意するしか方法は無かった。そしてルエラは事を確かめるため、ホロネルの南門に向かって全速力で駆けだした。


「う・・。く・・・。」


先程飛び立ったエビルイーグルが上げた鳴き声で、リンナは目を覚ましていた。体を起こしボーっとする頭を左右に振って立ち上がると、目に飛び込んできたのはガルシアがブレナの腰に腕を回してエビルイーグルに飛び乗る姿だった。


「え??何??」


バサッ!!バサッ!!と、羽ばたいてブレナとガルシアを乗せたエビルイーグルが離陸する。


「エストはどこ行きやがった??あ・・いた。」


ガルシアはしかめ面をしながら周囲を見渡すと、山の上でこちらを見ているエストを見つけた。


「おい。ブレナ、あいつにもエビルイーグルを1羽回せるか?」


「はい。」


頷いたブレナがエビルイーグルに話しかけると、再びエビルイーグルが大きな鳴き声を上げ旋回し始めた。


「な・・何なの??逃げるつもり??」


リンナは、近くの平屋の屋根に飛び上がると、その隣家の2階屋根に飛び移った。


ゴオオオオオオ!!と燃え広がる周囲を見渡したリンナの心に、魔族への怒りが込み上がって来た。


「な・・何てことを・・・!!!」


ガルシアとルエラのやり取りやルゴートを見ていないリンナは、全てブレナがした事と勘違いし飛び去るエビルイーグルを追いかけた。


「り・・リンナ・・。」


「クリミナ様!」


力を振り絞り立ち上がったクリミナだったが、エビルイーグルの後を追うリンナの姿を目にするも、リンナほど素早く走れなかった。


「だめ・・リンナ・・・深追いしないで!!!!」


「クリミナ様。ここでアイツを逃がす訳には・・・いかないです!!!!」


旋回していたエビルイーグルは、ホロネルの外から呼びかけに応じたエビルイーグルの声を耳にすると南東に向かい始めた。その様子を目にしたリンナはクリミナの制止を聞かず再び追いかけ始めた。


「ああ・・一人で行っては・・・だめ!」


クリミナが手を伸ばすが、全力疾走するリンナにその声は届かなかった。


「水の精霊よ。力を貸してください。」


周囲で一番高い建物の屋上に立ったリンナは、指先に魔力を集中し始めた。


「ギリギリ届く!!」


両手を銃のような形にすると、巨躯な男に腕に抱きかかえられたブレナの頭部に照準を合わせる。


「ん?」


ガルシアはリンナの殺気に気づいて振り返るが、リンナの後ろに迫る影に気づいて前に向き直した。


「くらえぇええええええええええええええええええええ!!!!」


リンナが怒りに満ちた顔で怒声をあげた。


貫通perforate








しかしリンナの魔法は放たれ無かった。




「させねーよ。」


「あ・・・がはっ!!!!」


アシュトンの漆黒のショートソードが、背後からリンナの胸部を貫いていた。


「ぐ・・・あ・・・。」


「あああああ!!!リンナァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


叫び声を上げるクリミナに気づいたアシュトンは、ショートソードを引き抜くと素早くその場から立ち去った。



****



「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・。」


雪原に腰を下ろしたハワードは、息を切らせて天を仰いでいた。


「流石にこの数はくたびれた。」


「ですねぇ。」


同じく腰を下ろしていたスクラーダがハワードの言葉に同意し、グラントとネイサンも無言で頷き同意していた。



その周囲にはたくさんの騎士と魔物が倒れている。



最後と思われる魔物を倒してから10分以上が経過し、雪原での魔物達との戦いは終わったと思っていたハワード達に予想外の出来事が起こる。その予想外にいち早く気づいた騎士が絶望的な表情を浮かべて声を上げた。


「あああああああああああああああああ!?!?」


「どうした?」


「あ・・あ・・。」


言葉に出来ない騎士が、南東方向を指差すと100は超える魔物が森からゾロゾロと姿を現した。


「う・・・嘘だろ・・・。」


ガレットの目の中に絶望の色がうつろうと、ハワードが声を上げ立ち上がった。


「ぬぅうううううううあああああああああああ!!!!!」


「ここで、死ぬわけにはいきませんねぇ。」


それを見ていたスクラーダも立ち上がると、翼を広げた大きな影が自分たちの上空を通過した事に気づく。


「う!!エビルイーグルか?」


ハワードが顔を上げると


「グアァアアア!!グアァアアアア!!」


エビルイーグルが、魔物達に向かって叫び声を上げると


「「「ガアアアアアアアアアアアアア!!」」」


それに応えるように森から現れた魔物達が一斉に吠え出した。


「く・・来る。」


ガレットが盾を構えると、その予想に反して魔物達は振り返って森の中へ戻り始めた。


「あれ???」


「帰っていく・・・。」


「助かったのか??」


「む!?」


生き残った騎士達は森に帰っていく魔物達の様子を呆然と見ていたが、もう1羽のエビルイーグルが飛び去っていくのをハワードは見逃さなかった。


「ガ・・・ガルシア・・・・デギンス・・なのか??」


そして、その1羽の背に乗る見覚えがある男の姿にハワードは愕然とするのだった。



「うぅ・・・。」


一方、ハワードの上空でガルシアに抱えられていたブレナは、倒れ、傷つき、死に絶えた300を超える魔物達が雪原に倒れている光景に青ざめていた。   


「あ・・・みんな・・・あぁ・・・ごめ・・・ん・・・あああああ。」


舞い降る雪に混ざり、ボトボトとブレナの大粒の涙が雪原に落ちていく。


「はぁ・・・。これはお前が起こした事だ。この光景を忘れるなよ。」


「いや・・いあ・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あ!?!?!?・・・・・・・・・。」





ガルシアは取り乱すブレナの首に軽く手刀を落とし、気絶させると再び大きなため息を吐くのだった。



****


エストはガルシア達と合流すべく山頂を下り、飛び立ったエビルイーグルに向かって建物の屋根を伝って走っていると、正面にある高い建物の屋上で刺された女性が倒れる姿を目にした。




「り・・リンナ・・リンナ・・誰かぁああああああ!!誰か!回復魔法士を!!」


倒れているリンナのもとに辿り着いたクリミナが必至で声を上げるも、雪原で戦っていた満身創痍の騎士達が戻って来たため、回復魔法士達は南門に集まりクリミナの周囲に回復魔法士が1人もいなかった。


「く・・くりみな・・さま・・・命令をきかず・・・すいま・・せんでした。」


「いいの。しゃべらないで。」


クリミナは、膝を着きリンナの傷口の応急手当(各自が所持している包帯やガーゼ、絆創膏などの簡易なものを使って)を試みるが、貫かれた傷には施しようがなかった。


「あ・・あの・・ま、ほう・・・。」


「しゃべらないで!!!」


ガーゼを重ね傷口に当てて、しゃべらないよう訴えるクリミナの手をリンナがギュッと握る。


「リンナ・・。」


「か・・りん・・に・・引き継がせ・・てくだ・・さい。」


「え?」


「あの・・この・・ゴホッ!・・ま・りょくりょうなら・・・わたしより・・ガハッ!!!う、う、うまく・・ゴホッ・・。」


咳き込んだリンナの口の端からスーッと血が流れる。


「リンナ・・お願い・・しゃべらないで・・助からなくなっちゃう。」


「わ・・たし・・・・たすから・・・ない・・で・・す、ごほっ!!」


「ダメ!!!!だれかぁあああああああああああ!!!。」




クリミナの叫ぶ姿を目にしたエストは走りながらミルプに話しかけた。


「ミルプ・・さっきのあの人を助けたい。」


「ミプ!!がんばるミプ!!」


リンナがいる屋上に向かって飛び上がると、エストの手から光が溢れ出した。


「く・・りみな・・さま・・。」


「ダメ!!!!!」


クリミナの手を握る力が弱まってきたその時、ダン!!!とリンナの脇にフードを深く被った黒いコートの男が着地した。


「え??」


急に現れたフードの男が、リンナの胸に手当てると溢れ出る光がリンナの傷に注がれていく。


「か・・回復魔法・・・・。」


クリミナが呆然としてその様子を見ていると、徐々に光が小さくなっていった。


「う・・・うぅ・・。」


「リンナ!?」


男が立ち上がると、一瞬リンナがうめき声を上げたので驚いたクリミナだったが、貫かれた胸の傷は塞がり、呼吸が整い始めた事を確認すると胸を撫で下ろした。


「あ!あの・・ありがとう・・・ございました。」


パッと顔を上げてクリミナが男に礼を言うと、「良かった。」と微笑んでそう呟いた男は・・・・・頬を染めたクリミナviewにはキラキラと爽やかに、まさしく颯爽とその場を去って行く姿に映り、当のエストは、「良かった。」と呟くとガルシアの乗ったエビルイーグルを見失わないため慌ててその場を立ち去り、とりあえずホロネルの外に出れる直近の西に向かって駆け出したのであった。


****


ホロネルの外に出たエストは、ガルシアを載せたエビルイーグルが向かった南を目指して走り始めると、別のエビルイーグルがスーッと空から滑り降りて目前に着陸した。


「え?」


立ち止まったエストは、ジーッと自分を見つめてくるエビルイーグルに思わず「乗せてくれるの??」と問いかけると、その問いに答えるように「グアアアア!」と声を上げ羽を広げるのだった。



___________________

あとがき


いつもお読みいただきありがとうございます(^^)


話の本筋には影響ないのですが・・・・(-_-;)


本当は、エストはカリンと別れた後すぐ西に向かうため、この回でリンナさんにはこの物語からご退場いただく予定だったのですが、リンナというキャラクターを気に入ってしまった自分は彼女を殺せませんでした。


故に、出会わない予定だったクリミナと出会いリンナの命を救い、まさかのクリミナが頬を染めるという展開に・・・・カリン一筋のエストの恋模様がどうなっていくのか。。。そんなに波乱は起こらないと思いますが、書いている自分でもまだ分からないです(/ω\)


乞うご期待をm(_ _"m)今後ともよろしくお願いします。

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