第4話 プランダーエイプス
「お兄ちゃん!!!」
ファルナが帰って来たエストを見つけ、駆け寄るとエストの背中の傷に気づいた。
「ああ!?背中大丈夫?」
「ありがとう。浅い傷だから大丈夫だよ。」
「そう・・・お兄ちゃん・・・どうして何も言わずに行っちゃったの??」
「ご、ごめん・・緊急事態で。」
心配してくれた事に礼を言うも、大丈夫と聞いて安心したファルナがプリプリと怒り始めてしまい、エストは顔を引き攣らせた。
「エスト君!!!」
「すまない!!我々のせいで!!」
エストを見つけたフォックや住民たちが駆け寄ってきた。
「いえ、大丈夫です・・・それよりも飛び降りた時にはあいつら入り口の枝葉を怪しんでました・・・。」
「ああ・・・そうか・・ここも間もなくだな・・・。」
「みんなすまない・・・・私が迷ってしまったせいだ・・。」
ファルナから離れ、長老にプランダーエイプス達がこの集落の入り口を怪しんでいた事をエストが伝えると、フォックが自分を責め始めた。しかし長老がすぐにそれを否定する。
「いや、フォックのせいではない。いずれここは見つかると言ったはずじゃ。ただ明日にもここを侵略しに来るかもしれぬな・・。」
「いえ、それは無いです。」
「何?」
体勢を整えて明日にでもここを攻め込む。自分が向こう側ならそうする。そう考えていた長老の考えに対してエストは違う答えを確信していた。
「どうしてそう言い切れるのかい?」
「ただ普通にこの集落を見つけただけならですが。」
「?」
「今は得体のしれない俺がいます。」
「どういう事じゃ???」
「俺はさっきの戦いで奴らに『スキル』をかけました。」
「ス、スキルじゃと!?」
長老はその昔、父親から『スキル』という特殊な能力を持つ者がいるという事を聞いた事があった。しかし、フォックがファルナの話を100%信じ切れていなかった事と同じように、父親の話をピョン太も100%信じていたわけではなかった。
「それを証明出来るのか??」
疑う目で見てくる長老に、エストは仕方なくスキルの『15gravity』をかけてみた。
「ぐ・・ぐぬぅうう・・・こ、これがスキルか・・・・もう分かったのじゃ。」
そう言われてスキルを解くと、長老は両膝を地面に付けた。
「長老!!いったい何を!?」
「いや良い・・儂がエストを試したのが悪い・・・。確かに憶病な奴らが今日明日で攻めてくる事はなさそうじゃな・・。しかし、奴らは臆病ではあるものの、徐々に、そして確実に侵攻してくるぞ・・・レッドベアがそうされたようにな。」
「はい。なので俺から仕掛けます。」
「何じゃと?」
「奴らの住処は北側にあるんですよね?」
「そ、そうじゃが・・。」
「ダメだよ!!」
長老と話していると、群がった周囲の中からファルナが飛び出しエストの腰に抱き着いた。
「お兄ちゃん。ダメ!!!」
「ファルナ・・・さっきあいつ等と相対して分かったんだ。」
「ダメ!!!!」
エストは屈んで一辺倒の返事しかしないファルナと視線を合わせた。
「共存なんて無理だって・・。あいつらとは戦って勝つしかないんだって。」
「そんなの分かってるもん。ダメだもん・・・お兄ちゃんがいくら強くたって。」
半泣きになっているファルナを抱き締めた。
「大丈夫。だって俺まだ半分も力出してないから。」
「嘘!!」
「嘘じゃないよ。レッドベアも半分以下の力で倒したんだぞ!」
「嘘!!!!!ダメだよ・・そんな事言っても。」
「行くとしても、せめて背中の傷の手当てをしてからにしてくれるかな?」
「お父さん!?!?」
エストと同じ様に屈んだフォックが会話に入って来た。
「ファルナ・・・私たちがどんなに止めても、エスト君は行ってしまうと思う。最悪私達の目を盗んででもね。」
「はは・・・。」
「お兄ちゃん!!!!」
フォックに見破られたエストは苦笑いを浮かべて頬を掻いた。
「ファルナ・・また何も言わずにいなくなられたら嫌だろ?」
フォックの問いかけにファルナは答えず俯いてブツブツ何かを呟いていた。
エストが耳を傾けると・・・
「ダメ・・絶対行かせない・・・そうだ!お兄ちゃんをロープで木に括りつけて・・・」
「えー・・・ファルナさん??」
エストがファルナの肩を掴むと、ビクッと体を震わせた。
「わ・・わたし、ちょっと用事が「ちょっと待った!!」
走り去ろうとしたファルナをエストは捕まえた。
「ファルナさん・・・ロープがどうこう呟いてましたね?」
「え??えーーっと??えとぉ・・」
エストがさっきの呟きを尋問するが、ファルナは目を逸らして誤魔化そうとしている。
「じゃあ、邪魔されないようにファルナをロープで括っちゃおうかなぁ??」
「ええ!?!?や、いや・・・。」
腕の中でジタバタ暴れるファルナを抱え直したエストは、ファルナの目を見て誓った。
「ちゃんと帰ってくるから。」
「うぅ・・・ほ、ほんとに???約束だよ??」
「うん。約束する。」
そう言ってエストはファルナに小指を差し出した。小指を見てキョトンとした顔をしているファルナに「ゆびきり」を教えたエストは、ファルナとゆびきりを交わしたのだった。
****
「ギッ!!!」
「ギャー!!ギャッ!ギャッ!!」
-イヴァリア歴15年6月17日-
日が傾き始めた頃、エストはプランダーエイプス達の縄張り付近を歩いていた。
見張りがエストを見つけて威嚇をしてくるが、エストは構わず歩を進める。
「ギィイイイイ!!!」
「ギャッ!!!ギャッ!!!」
威嚇を無視された見張りが、青筋を立てて両側からエストに襲い掛かった。
僅かながら左の猿の出足が遅いことを見極めたエストは、右から飛びかかって来た見張りの腹部をなぎ切ると、背面になった左からの攻撃してきた猿を後転で飛び越えると、着地と同時に間合いを詰めて背後から切り伏せた。
「ギ・・ギギャ・ギャアアアアアアア!!!!」
その様子を離れた枝の上で見ていたプランダーエイプスが、悲痛な叫び声を上げた。
「さっきの俺とは動きも覚悟も違うぞ!!」
エストはここに来る前に、自分に常時かけていた「50gravity」を解除していた。
叫び声を上げ後退していった猿の後を追っていったエストは、丸く崖に囲まれた広場のようになっている彼らの住処に辿り着いた。崖は段々畑のようになっていて至る所に横穴が空けられている。
エストが広場に姿を出すと、飛び降りて威嚇する者や、穴から出て来て同じく威嚇する者いれば怯えている者もいた。数は300を超えているように見えた。
「はぁ・・やっぱ多いなぁ・・。」
様々なプランダーエイプス達の奇声が響き渡る中、崖の一番上から一際体つきの良い猿が姿を現すと一気に広場に駆け下りて来た。
「お前がここのボスか?」
プランダーエイプスに囲まれたエストは、ボスと思われる個体に問いかけたが
「ギャアアアアアアアアア!!!!!」
とボスが奇声を放つと四方から同時に猿が飛びかかって来た。エストは真正面の飛び上がっている猿の真下を抜け、素早く振り返り後ろを取った。
「ギ!?」
後ろを取られたプランダーエイプスが、落下しながら顔だけ後ろに向けると、目に飛び込んできたのは上段に構えているエストの姿だった。
「ギャ!!」
剣を振り下ろし斬り裂くと、そのまま正面になった猿の胸に剣を突き刺した。さらに体を回転させながら左右の猿を横薙ぎで斬り捨てる。
着地すると、止まった剣先から血の雫が飛び、ボスの額に当たって弾けた。
「ギイイ!!」
ボス猿が悔しそうに歯を食いしばり、エストを睨みつけると先程よりさらに威圧を込めた声を上げた。
今度はその声と共に、10匹ほどの猿が同時に飛びかかるが、エストは斜めに跳躍し段々になっている崖の3段目に移動した。
「ギキャアアアアア!?!?」
メスと思われる個体が悲鳴を上げ横穴に逃げると、追いかけて来た数体が牙をむき出し突撃してきた。エストはトンッと軽く踏み出し、彼らの爪や牙の攻撃を躱しながら剣を左右に振り斬り捨てる。
また斜めに跳躍して5段目に移動し、同じように追いかけてくる猿を一体ずつ冷静に倒していった。それを数回繰り返していたが、次に着地した場所が良くなかった。「メスは逃げるだけ」と思い込んでしまったエストが、何の気なしに3段目の横穴の脇に着地すると、急に横穴から出て来たメスの猿に両足蹴りをされてしまった。
「ぐっ!?」
崖の3段目から広場の方に落ちていくエストにボス猿が飛び掛かる。体を翻しエストはボスの一撃を躱すことが出来たが、逆の手で体を掴まれると広場の外れに投げ捨てられた。
バキバキッと体で木の枝を折りながらも、回転して地面に着地したエストだったが顔を上げると、上下左右に素早く動く影が迫って来ていた。
「やっぱり森の中の方が厄介だな。ガッ!?」
エストが身構えた刹那、木の枝で遠心力を付けた猿に背中を蹴られた。よろけたエストに次々に爪を立てた猿が襲い掛かる。
「ぐっ!うっ!」
何とか躱すも頬や腕、腿を引っ掻かれ、体勢を崩すも、正面から口を大きく開き噛みつこうとしてきた猿の動きを捉えていたエストは、口に剣を突き刺した。
「ググ・・・ァ・・・・。」
貫かれた猿がぐたっと両手足をぶら下げると、そのまま剣を振りぬき向かって来る影にその猿をぶつけた。
「ギャ!?」
猿が怯んだ隙に、エストは森の中を走りだす。
「ギャーー!!」
猿達も素早く追いかけるが、50gravityを解いたエストには追い付けなかった。
「ギギ??」
「ギャ??」
エストの姿を見失った猿たちが足を止め周囲を見渡していると、彼ら以上の素早い影が襲い掛かってきた。
「グギャ!!」
「ギャーーー!!」
その影は猿達のように上下左右に飛び回りながら、猿達を斬り捨てていく。アリエナの森の中で鍛錬を続けたエストならではの芸当だった。
「ギギャーーーーーー!」
またエストの姿を見失ってしまった猿達は、形成が不利になったと判断すると後退し始めた。しかし、猿達は後退しながらも1匹、また1匹と仲間を失っていった。
「ギャーー!!!ギャーーー!!!!」
残りの1匹が、広場の前に辿り着くも、後ろから来た素早い影に首を落とされた。斬り落とされた勢いで広場に転がった首は、悔しそうな表情を浮かべ、まるで森から出て来たエストを睨んでいるようだった。
体の至るところに傷を負いながら姿を現わしたエストは、視線をボスに向けると自分に語るように呟いた。
「さぁ、次行くぞ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます