Ep18:「説得」
「リヴァイアサン・・・俺をこの島に連れてきた魔物・・・」
「正確には魔物では無いが・・・あの時、リヴァイアサンが目の前に現れた時、やつは明らかにこちら側を意識していた。それが敵意でなくとも、初めて見る海神の姿に私は心を折られた・・・。」
実際、ショウはこの時、腰を抜かしヘタレこんでいた。
「しかし、翌々考えてみれば、外側を守るリヴァイアサンがなぜ現れたのか、なぜユーキを連れていたのか、そして一時的ではあるもののなぜ防域を壊したのか、私達の村の結界までも剥がす必要はあったのか・・・謎な事ばかりで気が滅入りそうだよ・・・。」
ユーキは改めて自分が今置かれている現状を理解し始めた。
「俺ってもしかしてやばい存在なのかな・・・」
「そんな事ない!!!」
ルアが大きな声で否定した。
「・・・・・」
ユーキは目をパチクリさせどう答えようか困っていた。
「こ、コホン。すまない。大声を出してしまった。でもユーキは決してやばい存在なんかじゃない。だって・・・」
その先にルアが言おうとしていることは容易に想像ができた。
「・・・ルア、言いづらいだろうが・・・レアさんのことについて話していただけないだろうか。」
ショウは恐る恐るルアに聞いた。
「・・・・・。」
少しの間、静寂が部屋を包んだ。
「レア兄ちゃんは、」
ふとルアが話し始めた。
「レア兄ちゃんは、実は私達の一族ではなくて・・・。今から17年前、私がまだ5歳位の頃・・・」
「ま、待て待て!お前今何歳だよ!!」
急にレンが聞いた。確かに、気になる。。。
「あ?何だ急に。さすがディズの息子といったところか。失礼極まりないな。ちなみに今年で22だ。」
これにはびっくり。明らかに目の前に座る"少女"は、見た目15、6。いやもっと下にも見える。
「ルア・・・さんは私達より歳上なのか・・・?す、すまない。人を見た目で判断するなど・・・。」
ショウが気まずそうにに謝罪した。
「気にするな。自分でもこの見た目が実年齢に追いついていないことぐらいわかる。私達の一族は皆そうだ。ロスト魔祖の影響か、生育が極端に遅い。まぁ寿命もその分長くなるのだがな。つまり、私の身体年齢は14,5、よく見積もって16といったところか。」
「ロストの魔素にはそんな効果が・・・」
ふむふむといった表情で思案するショウ。
「いや、あくまで私の一族に共通している事項であるから・・・・脱線したな。話を戻そう。」
そう言うと改めて椅子に座り直し話し始めた。
「レア兄ちゃんと私とは血は繋っていなくて、私が5歳の頃にこの村に急に現れたんだ。」
「急に・・・?」
「そう。急にと言うと語弊があるが・・・体がボロボロの状態で村の端の方に倒れていた。村のみんなが総出で手当し、1ヶ月後にやっと目が冷めたんだ。」
ルアは続ける
「彼は名前を覚えていなくて、それどころかこれまでどこに居たのか、どこから来たのか、自分が何者なのか、すべてを忘れているようだった。」
「レア兄ちゃんはそれから恩を返すようにこの村に尽くしてくれた。」
「私は彼に懐いた。父親も彼の魅力に惚れ込んだ。何でも嫌と言わずにこなし、文句一つ言わない。常に謙遜し、村の役に立つ。だから父は彼にレアと名付け、息子と呼んだ。」
「ずっと一緒に居た。たくさん遊んだし、いつも一緒に寝た。ほんとにお兄ちゃんが出来たようで嬉しかった。血がつながっていなくても、ロストが使えなくても、父は跡継ぎにと決めていた。それほどまでに、この場でいくら言葉を紡ごうと表せない魅力がレア兄ちゃんにはあった。」
「俺とは全く違う人種みたいだな・・・。」
とは口に出さず・・・。
「しかしある時。居なくなった。」
「居なくなった?」
「恐らく夜の間に村を抜け出したんだと思う。でも私も小さく眠りが深いとはいえ、全く気づかなかったし、その日までにそんな素振りは全く見なかった。それは父も同じだった様でかなり困惑していた。」
「極めつけは、村を出て島を出るもその他の地域に行くにしても、この村の結界を必ず通らなければいけないことだ。結界には構成術式で触れたり通った場合に分かる様になっている。けど・・・」
「何も反応がなかった・・・と?」
「うん。」
「結界をすり抜ける方法は無いのか?」
ショウが聞いた。
「私達が知らない方法があるのなら・・・。基本私達の村の結界はかなり厳重だ。まず3重であること。結界の境界(ライン)だけでなく、上空、そして地中にまで。村を中心にして、円形ではなく球形に広がっている。」
「す、すごいな。そんな厳重に結界を・・・。私の村の結界が恥ずかしくなるな・・・」
恥ずかしそうにショウが言った。
「そこから、レア兄ちゃんが帰ってくることはなかった。痕跡さえ見つけられなかった。父はその後レア兄ちゃんのことを話さぬようにし、村人も空気を読み、まるで何事もなかったかのように振る舞った。」
三人は黙ったまま聞いていた。
「でも私はソレがたまらなく嫌だった。レア兄ちゃんは死んでいない。どこか出ていっただけですぐに帰ってくる。私にはレア兄ちゃんを居なかったことには出来なかった。」
「まぁ。私も年を重ね、漸くいろんなことに割り切れて来たとこだったんだが・・・」
そう言いながらルアはユーキを横目でチラチラ見た。
いたたまれない気持ちになりながらもユーキは切り出した。
「そ、それならさ!俺と・・・俺と一緒にレアさんを探そうよ!この島を出てさ!!」
これにはユーキの他3人とも驚きを隠せなかった。切り出したタイミングが急だったのだ。しかし、やはりショウは内心喜んでいた。
-いいぞ!ユーキ。ナイスだ!-
「そんな・・・レア兄ちゃんを探す・・・?この村を。。。島を出て?考えたこともなかった・・・。」
「そ、そりゃぁさ。いろんな心配もあるだろう。でもルアは今まで十分村のみんなのことを考えてきたよ!話して分かった。すごいと思う。偉いと思う。」
ここぞとばかりにショウも切り出す。
「ルア。君が私達を敬遠する理由もわかる。父君のことは今知ったとはいえ、私達の村の者が失礼をした。すまない。」
ショウは深々と頭を下げた。レンが何かを言いかけたがショウが目で制した。
「更に、代々続いてきたこの島のルールを破ってしまうこと、敷いては君を誘ったことに怒る事も、もちろん共感できる。」
するとユーキが再度話し始めた。
「でもね。ルア。この村を捨てるわけじゃない。結果この村のためになることを旅の目標とすればいい。ショウみたいに。」
「この村の・・・?」
実際、ショウはこの村の守りを強固にするために旅に出たのだ。自身の知識欲によるところもあるが・・・
「何より!!・・・自分がしたいように行動することは村人や魔物の特権じゃないよ。村長だってだれにだってある権利なんだよ。」
「権利。。。」
「ルア。率直にいう。誰のためでもなく、自分のために俺たちの誘いを考えてほしい。君が。ルアが何を求めるか!」
ルアはユーキの一言で昔を思い出した。
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「ルア。ゴメンな。兄ちゃんは村長にはなりたくない・・・いやなれないんだ。」
「え。でも父さんは・・・」
「そうだね。あ、ルア。リアさんにはこの話は内緒な。二人だけの秘密だよ・・・。」
笑いながら言うレア。
「うん!でもなんで?転送術が使えないから?ホントの一族じゃないから?それなら心配いらない-」
「んーいや。そういうわけじゃないんだ。ルアにはまだ難しいから説明できないけど・・・まァ無理なんだよ。」
「そうなの。でもじゃあ私が村長をやらなくちゃなんだ。出来るかなー?」
「そうなるかな。だからこそ、その選択を任せてしまうことが申し訳ない。ごめんね?」
「なんで謝るの?」
「なんでって・・・。だって村長って・・・やりたいか?」
「やりたくない。」
即答するルア。
「そんなに即答しなくても・・・。」
笑うレア。
「でも、やらなくちゃ。レア兄ちゃんが出来ないなら仕方ないよね。」
「ルアは・・・どうしたいの?」
静かに問うレア。
「え?村長にならなくちゃだめでしょ?私しか・・・」
「違う。ルア。ルアがどうしたいかだよ。他の誰でもなくてルアが。」
「私が・・・?」
「そう、この村のルールとか、リアさんにこう言われたからとか、そんなんじゃなくて、大きくなったらどこに行きたいとか・・・」
「えー!?村長やらなくていいの???そしたらねぇ・・・」
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昔を思い出し、目の前にレアと同じことを言う、おおよそ同じ見た目だが他人である人物を見ながら微笑んだ。
「私は・・・」
静かにルアは言い始めた。
「私は、外のいろんな世界を見て、知識を広げたい。」
そして決意したように顔を上げ、力強く言った。
「そしていつの日か、レア兄ちゃんに会いたい。」
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