Ep17:「レア」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」


ユーキは更に混乱に落ちていった。


これにはレンやショウも同様の反応らしく、横目で口を開けながら驚いているのが見える。口からは茶がだだ漏れていた。


「レアにいちゃん・・・だよね???」


そう聞かれたユーキは数秒固まった。聞かれた内容を理解するのに時間がかかったのだ。


「俺が・・・ルア・・・村長のお兄ちゃん???い、いやいや、俺にはユーキって名前があるし、君のことも知らないよ!!」


「い・・・いやでも!!!」


「ど、どういうことだ??ルア。」


ショウが聞いた。


「こいつは・・・この旅のきっかけでもある。後で説明しようとしていたが・・・名前はユーキ。レア・・・という名前は私も初めて聞いたが・・・」


「い、いやいや、俺だって初めて聞いたよ!俺はユーキ。違う世界から来た"星人"だ!この世界に来る前の記憶も在るし、この村もルア村長のことも知らないよ!!」


星人という単語にルアは反応した。


「星人!?レア兄ちゃ・・・じゃなくてユーキ・・・は星人なのか??!」


「あ、あぁ。俺の知っている世界とこの世界は明らかに違う。・・・から、ごめん。君の知っているレアって人と僕は別人と思うし、全く関係がないと思う。そんなに似てるの?」


「似てるなんてもんじゃない。顔も声もレア兄ちゃんにそのまま。・・・確かに雰囲気は違うかも・・・」


冷静になったルアはユーキにタオルを渡しながら答えた。


「なるほど・・・何か関係は・・・ありそうだ。。。な?」


首をかしげながら答えるショウ。


「分からない・・・けど・・・レンはどう思う?」


「・・・」


レンは下を向きながら何かを考えているようだった。


「レン。レン!・・・レン!!!」


「・・・え?」


3回目にやっと呼ばれている事に気づき顔を上げるレン。


「な、何?」


「・・・話を聞いていなかったのか?」


ため息を付きながらショウは言った。


「ユーキの外見、声がルアの兄様に似ている件についてだ。確かにユーキのこれまでの行動などについては未確認なことが多い。はっきりと否定はできない。今回の件については、ユーキ本人の記憶に頼るしか無いんだが・・・・」


「そ、そうだな・・・」


レンはユーキに会ってから二日目に起きた出来事を思い出していた。


不安を煽るような出来事。ユーキだけではなく自分や村の住人すべてがおかしくなってしまいそうな不安を覚えたことを覚えている。


それは紛れもなくユーキ本人の記憶による所だった。


「・・・・ま、まぁユーキが知らないっていうんなら今は何も進まないんじゃないか・・・?」


このままユーキの記憶について根掘り葉掘り聞くわけにも行かない。レンはそう考えていた。いつあの症状が再発するか分からないからだ。レンはやんわりと話を終わらせようとした。


「確かに。。。そうだな ルア。君の心中お察しするが、ここは一旦元の話に戻らせていただいても良いだろうか。」


レンはホッとしていた。心のなかでは確実にレアという人物とユーキには関係があると踏んでいた。


「・・・そうだ・・ね。」


「感謝する。行く行くは一緒に同行頂く際に分かっていくだろうと思うが。。。」


これはチャンスとショウは考えていた。実際ルアはユーキに興味津々だった。


「レアさんのことについても後ほど聞くとしよう。まずは君を説得させて頂きたい。」


「・・・分かった。」


「ゴホンッ。では改めて。」


ショウは改まった。


「まずはユーキについてだ。ユーキの記憶や、これまでどこに居たかは先程も言ったが置いておくとして・・・」


ショウは目の前の物を横にずらす動作をしながらそういった。


「ユーキが私達の村に来た経緯を話そう。」


そう言うとショウはユーキがリヴァイアサンにつれて来られたことや、この村を出るまでの経緯を話した。


「・・・なるほど。つまりユーキは"防域"の外から来たと。海神に連れられて。確かに、それならば恐らく、この島の外から来たのだろう。またユーキの記憶から星人であると判断した理由も頷ける。」


「まてまて。」


レンが切り出した。


「そもそも、"防域"って何だ?なんでその外にいると、この島の外から来ることになるんだ??」


「説明しよう。」


ショウが説明し始めた。


「まず、防域とは、私達村長や一部の人間しか知らない事項だ。レンが知らないのも無理はない。」


するとショウは地図を取り出した。


「この島の全方位、沿岸部から約100Mのところに防域は存在する。全方位といったように。この広大な島を取り囲むように展開されている。」


ショウは地図に記載されている島の周りに、魔法で線を書き足した。


「この防域は、既にその魔祖構成知識が失われている魔法。通称"ロスト"だ。この構成知識は一般的な魔祖にも含まれていないと考えられている。」


ユーキは以前説明された、この世の魔法やその他のいろんな"知識"が魔素には含まれている、という話を思い出した。


「魔法である防域はとても強力な結界だ。外からの如何なる侵入も許さない。」


「でもユーキは入ってきたぜ?」


「・・・それは。私達にもわからない。だからあの時・・・。私達だって知らないこともあるし、パニックになることもある。」


俯きながらショウは言った。


「そしてこの防域は、外からの侵入を防ぐとともに、中からの脱出も防いでいる。」


「脱出?んな監獄みたいな・・・」


ユーキが言った。


「いや、まさにこの島は監獄だよ。島自体は大きいが、村は私達の村とルアが村長であるこの村しか無い。人口は減るばかり。知識も偏り、いずれは消えていく。」


「そ、そうなのか・・・」


「また防域内で発生する魔物に、防域は全く機能しない。あくまで脱出、侵入のみを防ぐ。」


「んじゃあ、外からの侵入でも中からの脱出でも良いけど、実際にどうなるんだ?その防域に・・・触れる?と。」


レンがじれったそうに聞いた。


「脱出、侵入そのどちらをも防ぐ効果は同じで2つある。1つは"壁"。単純な壁だ。目に見えない壁が天高く聳え立つイメージ。」


「壁?その壁は壊せるの?」


ユーキが聞いた。


「基本的には壊れない。しかしおそらくは"常識を超える力"、もしくは"神器"、あるいは特殊な魔法"ロスト"でも同様に超えたり壊せたりするかもしれない。」


「意外と方法はあるんだな。」


レンが鼻で笑いながら言った。


「はぁ。お前はつくづく馬鹿だな。」


大きくため息を付きながらショウが言った。横でルアさえも鼻で笑うのが見えた。


「では仮に、その他の何の障害もなく、今言った方法を試せる状態にある場合、お前に壁を破壊することが出来ると思うか?」


「んー?」


「ちなみに常識を超える力を持つ者はこの中にはいない。というか知らない。つまりディズさんでも無理だ。」


絶望的な顔をしながらレンは口を開けた。


「確かに方法はいくつかあるが、そのどれもが現実的ではない。」


「でもよ。ソーン樹海を攻略した後、この島を出ていくつもりだったんだろ?どうやって出ていく予定だったんだ?」


そう発言した後レンは後悔した。


「なっ!お前たちは!ソーン樹海に行くだけでも許し難いというのに!この島から出る!?我らの祖先をバカにするのも大概に・・・!」


「まてまて!それもこれもすべて説明するから。落ち着いてくれ!」


やってくれたな・・・と言わんばかりの顔でショウはレンを見ながらそう言った。


「落ち着け・・・?ふんっ。そもそも、あのディズさえも出れないとショウは言ったが、どうやって出るつもりだ??」


冷静に保とうと、あげた腰を下ろしながらルアは言った。


「ルア。私はディズさんがこの島を出れない・・・と発言した覚えはない。常識を超える力は持っていないと言ったのだ。」


「・・・?どういうことだ。その言い方だとディズはこの島を出たように聞こえるが・・・?」


「ご認識のとおりだ。ディズさんはこの島を出たことがある。私たちが知る限り唯一の脱出者だ。」


「な、なに・・・??で、では・・・父さん、我が父はどうなったのだ!?」


またしてもルアは取り乱し、腰を上げながら聞いた。


「・・・すまない。ディズさんは何度かこの島を出入りしていたことは事実だ。しかし、ルアの父君の話は聞いたことがない。そしてある日島を出てから今日この日まで帰ってきていない。」


「つまり父上の所在はわからないと言うことか。ついでにディズの居場所も。」


ルアのこの発言にはショウもレンも黙ったままだった。


「こういう話はやめよう。生きているならいつか必ず会える。そう信じている。」


ショウは力なく答えた。


「・・・ディズはどうやってこの島を出入りしていた?力で強引に防域を壊すのではなくどのような方法で・・・」


「ディズさんはあるものを使用して防域を突破していた。」


「あるもの?」


「神器だ。」


ルアは目を丸くした。


「神器?防域を一時的に抉じ開けるような神器が在るというのか?」


「いや、不確定な情報ですまないが、ディズさんとの会話の中で兄が聞いたことがある・・・というだけの話なんだ。」


「確かに不確かだな。・・・いや、そもそも行ったことすら無いのにそう決めつける私達にも同じ事が言えるか・・・。」


「兄さんがディズさんから聞いた話では、ソーン樹海に防域を越すための神器がある事、そしてそれはいくつか存在する事の2つを聞いたらしい。」


「・・・なるほど。」


「率直に言おう。今回ルアについて来てもらう理由の一つは、その神器を手に入れる確率を上げるためだ。」


ルアは口元をヒクつかせた。


「ま、ままあることだ。気にするな。」


ショウの頬に冷汗が滴るのをユーキは見た。


「も、もう一つ理由がある。君の能力だ。」


「私の能力・・・?」


「そう。君の能力。君は"転送"魔法を得意としているね。」


「そうだ。よく知っているな。」


ルアは少し嫌味っぽく言った


するとユーキが口を開いた。


「転送?じゃあこの村に来たときのワープもルアの能力なの?」


ユーキが聞くとルアは可愛らしい声で答えた。


「・・・詳しく言うと違うけど、まぁそう考えてもらってもいいかな。私の魔祖を込めた転送陣を事前に配下のものに渡してあるんだけど・・・。」


「なるほどね。なぁショウ。前に教わった色の考え方で言うとルアの転送魔法はどの組み合わせになるんだ?転送をイメージできる色が無いんだが・・・」


「色?何のこと・・・?」


この村には恐らく魔法を使う際に色という概念がないのだろう。ルアが聞いてきた。


「色っていうのは魔法を使う際の私の考え方だ。話すと長くなるからここでは割愛するよ。・・・で、ルアの使う転送魔法が何色かっていう質問だけど・・・」


「・・・ん?つまりどの属性の組み合わせで私の転送魔法が使えるかを聞いているのか?おに・・・ユーキは。」


お兄ちゃんと言われかけた事でユーキは少し気まずかった。


「オメェいつまでユーキの事兄貴と勘違いしてんだよ。いい加減-」


無神経にもほどがある!とショウもユーキも思ったが・・・


「黙れ。」


ピシャッと、ルアはレンの方に見向きもせず言い放った。


「・・・・・・」


ポカーンと口を開けたままルアを見るレン。


「お、お前、俺とユーキに対する対応が・・・」


「黙れ。」


これにはレンも黙るしかなかった。いや黙ってしまった。


「ま、まぁ。とりあえず、どう組み合わせればルアの転送魔法は使えるの?俺も試してみたいんだけど。」


するとルアは少し高い声で答えた。


「あのね。私が使う魔法は特別なの。他の人は使えないんだ。」


明らかにユーキに対する態度が、他二人への対応と違うことは明白だった。声の高さ、喋り方。特にレンとは大きく違っていた。


「お前、ユーキの事兄貴に似てるからって贔屓にしてんじゃ」


すぐさまショウはレンを思い切り殴った。レンは後ろの壁に激突し静かになった。


「す、すまない。後でアイツにはきつく言い聞かせておこう。」


ルアは少しニヤッとこう書くを上げた後、ユーキの方に向き直りまた可愛らしい声で続けた。


「でね。私が使う魔法は、所謂"ロスト"。さっきショウが話してたでしょ。魔祖の構成知識が失われた魔法なんだ。」


「え?」


ユーキはあまり理解できず、聞き返してしまった。


「ロストはね、魔祖自体にもその構成知識が残って無いんだけど、正確にはある魔祖を除いてなんだ。」


「ある魔祖??」


「そう。一般的な魔祖ではなく、私の一族のみに宿る魔祖。だから私は使えるんだ。」


「ルアの一族にしか宿らない魔祖??そんなのがあるの?」


「例外中の例外だけどね。」


やっとユーキは理解した。


「なるほど。じゃぁその魔法を誰かに教えたりは出来ないってことか」


「そうなるね。イメージとしては6つの元魔祖とは別にもう一つ魔祖がある感じ。その魔祖を使って転送魔法を構築している。」


するとショウが続けた。


「そう。つまり転送魔法はルア一族しか使えない貴重な魔法なんだ。井の中の蛙大海を知らず・・・とはいうが、こと転送魔法に関してはこの世界中を探しても誰も使えない。それだけロストは凄い魔法なんだ。」


「それで?私の転送魔法をどう使用したいんだ?」


「それが防域の脱出、侵入そのどちらをも防ぐ2つ目の効果だ。」


ショウはユーキの方に向き話し始めた。


「防域に近づくとある魔物がそれを防ぐ。内と外それぞれに一体ずつ・・・。」


「魔物?」


「そうだ。内側を守るは、水人"エーギル"。巨靭(きょさい)と呼ばれる巨人族の一種だ。こいつはかなり厄介で、意思疎通が出来無い。一方的強力な攻撃を仕掛けてくるバカでかい魔物だ。」


「巨人なんているのか??やっぱり。ファンタジー!!」


「しかし真に厄介なのは外側にいる魔物だ。基本的には内側からの干渉しか出来ない私達にとって、関わることのない魔物だ。しかし、一度私達はその魔物を直に見たことがある。」


「え、それってつまり・・・」


「そう。その魔物の名前は水神"リヴァイアサン"。水を司る神だ。」

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