Ep15:「ソーン樹海への道中」

「噂をすれば・・・」


ショウは音がする方を見ながら言った。


「なんだぁ?!爆発でも起きたのか??」


「レンが魔物を倒しているのさ。」


「レンが!?」


-どんな戦い方だよ!?戦ってるのがかなり遠くなのはわかる。でもこの轟音。ダイナマイトでも投げ続けてんのか??-


ユーキはこの異常な現象に戸惑っていた。


「さっきの戦い。ユーキの作った水の壁に弾かれて、ユーキが斬りかかる瞬間。ものすごい量の救難魔祖をタンゴが発射したんだ。」


「救難魔祖??」


「救難信号のことだ。この魔素は、・・・もはや魔法みたいなもので半径5kmに渡り、一瞬で拡散される。つまり・・・」


ユーキはハッとした。


「さっき開けた場所にいたすごい量の低級モンスターたちが・・・」


「そう、ユーキの方に向かってきてた。それをレンが囮になって引きつけてくれていたんだ。流石に今のユーキに奴らを倒す力は無いだろうからね。レンの戦い方も相まって、私達からかなり遠ざけてくれたようだね。」


「なんか悔しい気持ちがする。。。」


「あの低級モンスターの中に居たムイラスという魔物はちかくのムイラスと融合して、ある中級レベルのモンスターになるんだ。そいつが厄介でね。恐らく今頃は他の低級モンスターはあらかた倒して、その中級モンスターと戦っているんだと思うよ。」


するとピタリと音がとまった。程なくして駆け足でレンが近寄ってくるのが見えた。


「ユーキ。念を押すけど、私が女であることは・・・・」


「分かってるよ!大丈夫!」


親指を立ててウィンクするするユーキ。


「すまん!遅くなった。いやー、ムイラス集合体・・・名前なんだっけ・・・まぁ良いや。手強くってさぁ。俺の戦い方からも不利だった。攻撃魔法使っちゃったよ。この俺が。」


「凄いな・・・あの量の魔物を倒したのか??」


「おう!言ったろ!ユーキもそのくらいは出来るようになってもらわないとってね。」


「いや、無理だろ・・・あ、あとなんで普通に戦うだけであんな爆発音が聞こえてくるんだよ。どんな戦い方してんだ?」


「ハハッ。まぁ気にすんなって!それよりタンゴはどうしたの?倒したの?」


「任せろ。余裕だ余裕。」


今までで一番のドヤ顔を繰り出した。


「へぇ。凄いじゃん!!初めての戦闘なのに。どうやって倒したんだ?」


「それがさ・・・」


ユーキはどうやってタンゴを倒したのか。星の力はイメージするだけで魔法が使えるかのしれない事など、小一時間の間に起きた出来事を詳しくレンに説明した。


「でさでさ、クラっときたんだよね。ショウが言うには、多分イメージするだけで魔法を使うと、力を使いすぎちゃうのかもって。だからショウに支えてもらって木で休んでたの。」


「へぇ。その力も無限に使えるわけじゃないんだな。それでそれで?」


「でな、ふと思ったんだよ。なんかショウの体柔らかいなぁって。」


「柔らかい?」


何かを察知したのか、すこし離れたところで周りを見張っていたショウがギュゥン、とレンたちの方を向いた。


「そうそう。でね前から気になっていたんだけど聞いてみたの。ショウってさ。おnー」


ものすごい轟音が森中に響いた。


オンナ、と言い終わる前に、ユーキの体は、タンゴが突進して開けた崖の穴よりも深くめり込んでいた。


「あ、あの、ショウさん・・・?何をしてるんでしょう・・・?」


顔が真白くなったレンが聞いた。


「・・・蚊が・・・!」


荒い息遣いのショウは息も絶え絶えに声を絞り出した。


「蚊・・・?」


「蚊がいた!!頭に!ユーキの頭に!だから叩いた!!」


「蚊・・・何故そんなに力強く・・・??叩いた?????」


そう言うとすぐさまユーキの方に向かうショウ。呆気にとられたレンは動けないでいた。


めり込んだユーキをショウは思い切り引きずり出し胸ぐらをつかんだ。ユーキの顔はえげつないほど腫れていた。


「てめぇどういうつもりだこら」


「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみぶっ!」


謝るユーキに思い切り頭突きを食らわせるショウ。


「誤って済むか?あぁ?言わないって約束したよなぁ?!なぁて!!口が硬いんじゃなかったのか?!」


ユーキは見た、ショウの顔を。


-目が、目がイってやがる!-


ユーキは怖さで限界だった。漏らしそうだった。


「ごめんなさいごめんなさい。忘れてたと言うか流れで言ってしまいそうになったと言うか。。。もうしないから約束するから!!」


腫れた顔で必死に謝るユーキ。


「次は・・・無いからな?」


そう言うと体全体を緑の光が包んだ。体から痛みが無くなっていくのが分かった。顔の腫れも徐々に引いていった。


少し経った後、ユーキはショウに手を引かれ、穴から出てきた。


ユーキは太陽の光が暖かいと心から思った。


「だ、・・・大丈夫?」


「大丈夫!大丈夫!!蚊は居なくなったよ。なぁユーキ。」


恐る恐る聞くレン。ショウは笑いながらユーキに聞いた。聞く瞬間のユーキを見る目はイッていた。


「はい。もう蚊はいません。血を吸われる前で良かったです。」


棒読みで遠くを見ながらそう答えるユーキ。


-あれ、おかしいな。なんでだろう。。。濡れてる。-


そう言うユーキの頬には雫が滴っていた。


その雫が滴り濡れたと言うには、間違っても言えない大きな染みが、股間に広がっていた。




一行は気を取り直し、ソーン樹海への道を行く。


先頭を行くのはショウ。その10M後をユーキとレンが歩いていた。


この距離なら聞こえないとは分かっていても、ショウの性別の話をする気は起きなかった。


「なぁ。レン。俺さっきさ、ショウに吹き飛ばされたじゃん。」


「あぁ。それがどうかした?改めてショウの怖さを知った?」


「えぇ。それはそれは。もう嫌というほど。」


「ハハッ。俺はもう慣れ・・・てはいないか。。。でもなんであんなに・・・」


「そんなことはどうでもいいじゃない。深く考えないようにしよ。な。」


はぐらかされたと感じたレンであったが、ことショウのことになると関わりたくないのか、気にするのをやめた。


「・・・じゃなくて、俺が居た世界だとさ、あんな壁にめり込むほどの力で殴られたら即死だと思うんだけど、打撲程度で済んでたんだよな。どういうことかわかるか?」


過ぎたことなので気にしないようにしていたが、気になったので聞いてみた。


「んーユーキが元いた世界の事を知らないけど、魔祖が多ければ比例するように身体能力は高くなるんだ。ユーキは魔祖・・・星の力が多いからある程度の打撃は効かないはずだよ。」


つまりショウの打撃はある程度ではないと・・・・


「なるほどねぇ。じゃぁ元いた世界より俺の身体能力は漏れなく上がってるってことになるのか?」


「だから元いた世界でのユーキの身体能力をを知らないからなぁ。なんとも言えない。でも元いた世界で即死レベルの攻撃を受けても打撲程度で済むくらい打たれ強くなってるなら相当上がってるんじゃない?」


「そうか。俺、強くなってるんだな。。。」


一行は地道に道を進む。少し休憩を取っている時、ユーキはふと気になったことを聞いてみた。


「俺さ。低級モンスターであんなに苦戦して・・・そもそも沢山いた低級モンスター達を一体ずつ実践を通して強くなろう!って言ってたのに。くそ。あの時もう少し気をつけてれば・・・。」


やはり一抹の不安がは消えない。このままで良いのか。。。


「いや。気をつけていても奴は救難信号を出していた。恐らく私やレンでさえも無理だと思うよ。それにユーキが十分実践で戦えることは分かったから大丈夫。これからは目的地に最短距離、最短時間で向かう。道中合うモンスターは基本的には戦っていこう。」


「でもここまでモンスターにあまり会ってないけど、どれくらい出現するもんなんだ?」


「ここまで約2日。私達は基本的には夜の行動を自重し、モンスターの気配を探り避けてきた。ユーキは気づかなかったと思うけど、一行の先、近くに気配が会った場合は私かレンが処理していたよ。」


「え。そうなのか?数秒居なくなることは在るなとは思ってたけど。ありがとう。」


「どういたしまして。でも次からは結構な頻度で出会うはずだ。気を引き締めて行こう。」


しかしその後約1日間モンスターは出てこなかった。


「・・・なぁ。おい。モンスター全然出てこねぇじゃねぇかっ!!」


真夜中。ユーキ達一行は進んでいた。


この1日は基本的には昼間に時々休憩し、夜はひたすらに進むという行動をとっていた。


「この1日の苦労は何だったんだよっ!!ろくに寝てないし夜行性の虫やら何やらに刺されて身体中痒いし!なんだか体の調子が悪いし。。。」


そういうユーキは、この世界に来たときに身に付けていた服のポケットに、入っていたマスクを着用していた。


「す。済まない。こんなはずでは無いんだが。もしかすると。。。。」


そう言うとショウは徐に地図を取り出し確認し始めた。ショウが手をかざすと地図上に小さな光の粒が現れた。


「・・・これ、もしかして俺たちがいる場所が光ってんのか??」


ユーキはショウに訪ねた。


「そうだ。魔法の可能性は無限大だ。こんな使い方も可能ってことさ。つまり私達がいる場所がここ。」


地図上の光の粒は、村からソーン樹海への直線を大きくハズレていた。


「な。おい!ソーン樹海へのルート大きくハズレてんじゃねぇか!」


レンがショウに問い詰めるように言った。


「うるさいな。予定通りだよ。最初に言ったろ。寄りたい所があるって。」


「寄りたいところぉ?」


するとショウとレンが急に回りを警戒し始めた。


「何だ・・・?」


話し合いが止まり、急に静になる森。ユーキにも次第に聞こえ始めた。明らかに何かがいる。


「モンスター??いやそんな気配は・・・」


その瞬間。森の中から約10人程度の仮面をつけた集団が現れた。ユーキ達は周りを囲まれた。


「お主たちは・・・何者だ?」


仮面をつけた一人が言った。


「何者ぉ?聞きたいのはこっち・・・」


レンが対抗するように言った。が途中でショウに制された。


すると奥の方から一回り小さい体をした仮面人が現れた。その他の仮面人たちは道を開け軽く頭を下げていた。


「・・・何の真似だ。」


小さな仮面人が小さな声で聞いてきた。レンとユーキは首をかしげた。


「すまない。事を荒げたくはない。」


ショウは静かに言った。またもやレンとユーキは首をかしげた。


「・・・」


小さな仮面人は黙ったまま仮面の奥にある瞳でこちらを睨んでいた。


しばらく静寂が包んだまま両一行は睨み合っていた。すると小さな仮面人は踵を返した。


「こいつらを"村"へと連れて行け。・・・敵ではない。・・・連れて行け・・・!」


一人の仮面人が反対の声を上げようとしたが、最後の一言で従った。


「む・・・ら・・・・???」


レンは聞き間違えたのか確認するように呟いた。


ユーキも疑問に感じていた。この島にはショウ達の村しか無いはず。


「噂をすればと言うやつだな。正確には"噂をしよう"とすればだけどね。」


「どういう・・・」


「この島には私達の村以外にもう一つの村が存在する。寄りたい所というのはその村のことだ。」


「な、なにぃ!!!!??」


静かな森にレンの叫び声が木霊した。

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