仇。池袋
@7jpn
第1話 フレンチ
「あなた、そろそろ出ないと遅れるわ..」
「ああ、わかってる。大丈夫だよ」
「12時過ぎにはお店に居ないと、、人気店なのよ?」
「少しくらい遅れても大丈夫だろ」
その日、ある高齢の夫婦がランチに出かけようとしていた
4月ももうすぐ終わる、良く晴れた暖かい日だった
幸蔵は今年で87歳になる
東京に生まれ、子供の頃空襲で自宅を失うという経験を持つ
学問好きで特に理科が得意科目だった
東京大学へ進学後、学問だけでなく、オーケストラに在籍するなど多才を発揮した
卒業後通産省に就職、政府在外研究員としてイギリスに滞在、
工学の分野で知見を深め、東京大学工学博士の学位を取得
その研究を持って国内外に多くの成果と貢献を残した
工学院院長をはじめ、国内大手企業の取締役、関係団体の顧問を務めるなどし、
遂にはその多くの功績が認められ、瑞宝重光章を受章している
万端な人生だった
自分の生きてきた道を振り返り、幸蔵は自画自賛する
欲しい物は全て手の中にある
こんな人間は私以外にそうはいない
私はこの国に多くの貢献をしてきた
周りとは違う
私は国に感謝されるような人間なのだ
「大丈夫なの?」
妻は心配そうに尋ねる
だがそれはもはやいつもの挨拶みたいな意味の無いやり取りだった
既に妻は、フレンチの美味を堪能する自分の姿を思い浮かべていた
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