向日葵の花言葉は「あなただけ見つめてる」1

「久々のマックです!」


泣き止んだ甘夏さんは元気いっぱいと言った感じでマックに来ていた。

マックという場においてワンピースという場違いな姿をしているのにも関わらず孤立することなくむしろマックという場所を孤立させているようにすら感じる。

これをカリスマ性と呼ぶのかなと思いながら注文をしていく。


「食べるのはビックマックで良いですか?」

「いいけど……なんでビックマック?」

「もちろんビックマック全マック共通の大ヒット商品ですよ。イスラム圏では食べられないですがアメリカ生まれのこのバーガーは世界のソウルフードと言っても過言ではないのです!」

「へえ」

「私の説明を聞き流しているような気がするのですが……まあいいです。店員さんビックマックセットを二つお願いします」


マックに熱く語るのはそれだけ海外の様々な場所を飛び回っていたからと考えられる。

父親であるバルタザールさんは欧米を中心に事業をしていると言っていたので様々な文化に触れるのは確かにいいことだが慣れる安心というのができない。

その点で世界チェーン店などの味は数少ない慣れた料理ということだろう。


「あ、その目は可哀想な子どもを見るような眼ですね。確かに世界チェーン店がソウルフードというのは地元を持つ人達からすれば悲しい人に思われるでしょうけど、それだけ世界各地を多く回っているんですからね」

「大丈夫だよ。甘夏さんの料理の腕前は夕食で解ったし甘夏さんがちゃんと好みの家庭料理を持っていることにもね」

「どのあたりがですか?」

「ポトフに昆布出汁使ってたでしょう。アレは春菊さんが教えてたんだよね。ちゃんと家庭の味を伝承しているなんてきちんと自分のソウルフードを持っている証だよ」


そう、ポトフには普通入れない昆布出汁が使われていた。

料亭などでは昆布臭さを控えるように工夫が施されているのだが甘夏さんのポトフには明らかに昆布の風味が感じられたためこれは意図して行われたと見るのが妥当だった。

風味を抑えるという行為は万人受けの味を作るという意味でもある。

わかりやすく例えるなら白みそと赤みその違いだろう。

白みそは風味が抑えられていてそれ単体では淡麗な味わいである。逆に赤みそは味噌自体の風味が強く塩味と相まって暴力的な味わいを生み出している。


他にも例えるならめたご飯と暖かいご飯である。

冷めたご飯の方が味が濃く感じると言う人が居るのは風味を感じるのに余計な刺激が存在せず米そのものの風味に集中できることからであり暖かければ余計な風味や熱さによる刺激によって風味が感じにくくなってしまう。


(日本と違い欧米諸国ではこの風味を大切にする傾向があるので海外旅行などで欧米に行き食事をする際はそれぞれに一番風味が感じられる温度で出されることもありますので決して飲み物が温いとかは言わないように……ちなみにアジア圏で冷たい飲みのではなく常温の飲み物を出す理由は内臓に負担を掛けないようとの気づかいから来ています。)


「初めて家族以外に食べてもらいましたけど、そんな違いがあったんですね」

「家庭料理ってその各家庭で作り方も違うし料理名なんて無いモノが大半だからそれを巧いこと言ったのがおふくろの味だと僕は思うよ」

「そうですね……そうだ蒼汰さんには今度私がお母さんに習った思い出の味を作って差し上げます!」


「お客様、ここはマックです。スマイルが絶えないことを目標としたお店です。しかしお客様方のせいで店員からスマイルが消えておりますのでとっとビックマックセットを持って上の階言ってくださいませ……せっかく雇ったバイトが辞めてく原因になるからやめて欲しい。なんで秋葉でカップル来てるのよ」


最後の方は聞こえなかったが店長と書いてある名札をしていたのでかなり迷惑になっていたと伺えるがここまで客を非難するとはある意味接客業というモノの在り方を垣間見た気がした。


「迷惑かけちゃったみたいですね」

「とりあえず行こうか」


1階にも飲食スペースがある店舗なのだが、あの店長の物言いから見て上に言った方が他の客の迷惑にならないだろう。

そこまで考えながら受け取り上の階に向かうのだが甘夏さんも後に続くように来るかと思ったら無理矢理狭い階段で隣を歩いてきた。


「甘夏さん、狭いから縦に並んで行こうよ」

「それは承諾しかねます」

「どうしてさ」

「だってそんなことをしたら蒼汰さんと触れられる時間も蒼汰さんの顔を見つめられる時間も減ってしまうじゃないですか。それじゃあビックマックのお値段を回収できませんよ」


んなことを言い放ったのためにこちらに注目されていないか心配だったのだが……


「て、んちょー、俺、辞めます」

「辞めるな!お前は半年働いた優秀な戦士だ。今離れられると困る!戦線復帰するんだ!!」

「お、おれも……」

「入って1月!お前は自分の押しキャラに給料を全て捧げるんじゃなかったのか!これでは供物を捧げる金すら手に入らないぞ!」


とまあ地獄絵図が広がっており客も殆どが壁を殴り始めていた。


「クソ!俺には彼女が何でできないんだ!」

「今ならデンプシーロールは無理でもガゼルパンチなら……」

「やめろ、貴様それでもオタクか!ボクシングは紳士の格闘技でなくてはならないとケンイチでも言ってただろうが!!やるなら異端審問会を呼べ!!!」


なんか後半変なの混じってた気もするけどとりあえず都ッと上に上がってこの場から逃げた方が吉だろうと判断して甘夏さんを振り切り上に向かった。


「あ~待ってくださいよ蒼汰さん!」

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