第18話 2:7:1の法則。

『おや、こんなお昼にこんな所でどうしたんだい?制服、着てるけど…学校はお休みなのかい?』ベンチにうずくまって座っている中学生くらいの子に向けて話だす。


その子の髪は誰かにザクザク切り裂かれたみたいにトゲトゲで、まるではるネズミのようで、丸まった背中から溢れ出す暗い影と鼻水をすする音がやけに響いていた。


『学校に、行きたくないのい?』

こくりと頷き頷くその子に老人はゆっくりと、けれども重く、そして優しい声で話しだした。


『じゃあ少しだけ、社会勉強をしようじゃないか。なぁに、とっても簡単な話さ。君は、2:7:1の法則って知ってるかい?』首を横に振るその少女を横目に、続けて話し続ける。


『2:7:1っていう法則はね、

そうだなぁ簡単に言うと、君の周りに10人居たとする。家族でも友人でも、他人でもなんでもいい。

その全員が、この世の中にいる全ての人だと考えてくれたまえ。

そうやって考えた時にその中の1人は君のことが嫌いだったり、考えが合わなくて、君には好意を向けていない。

逆にその中の2人は君のことを心の底から愛していて、大切で、かけがえのない存在だと思っている。

そして残りの7人は、君が大事にしようとすれば大事にしてくれるし、無関心であれば相手も気にしていない。

故に君のことを大事に思ってくれるはずの人ってことなんだ。君次第だけどね。


さぁ、ここからが問題だ。この世の中にいる人を10人で考えた時、君を嫌いに思っている人は何人で、君を好きになる人は何人になると思う?

もちろん君の行動次第ではあるけど、考えてみてくれ。

そう。9人だ。10人中9人。つまりは90%の人は君のことを好きになる可能性があるってことなんだよ。


今君は、残りの1%の人のせいで辛い思いをしているかもしれない。けれど決してそれに億劫になってはいけないよ。

だってこの世の中の90%の人間は、君のことが大好きになるんだから。


確率だからって侮っちゃいけないよ。あのトム・クルーズや、エマ・ワトソンだって同じひとりの人間さ。確率というものは計り知れない。だから強くいなくちゃいけないんだ。』

そう言った老人の目はどこか懐かしそうで、それでいて思い詰めた顔をしていたのをよく覚えている。


一方ハリネズミは今、傷つくことを言われても、冷静に対処する素敵な人へと変わっていった。

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