神秘は実はすぐそばに

@aromaserap

プロローグ

神秘というものは意外と近くにあるものなのである。


じゃあなぜ自分たちはその神秘を見ないのかって?


それは人は無意識でその神秘を「避けて」いるからだよ。


神秘は光だったり、音だったり、においだったり様々だ。


でも人間はそういった神秘を危険だと判断し、自衛本能が無意識に「気のせい」だと思い込んでいる。


しかし、そこにはあるのだ、神秘が。


自衛本能が働かなかったものが神秘に巻き込まれ、餌食となる。




「なあ健太、この間の模試どうだった?」


「ああ、やっとA判定出たぜ」


「まじか、良いな」


俺たちは塾の帰りに自転車を走らせながら今日塾から渡された模試の結果について話していた。


「何言ってんだ。お前の方が全然難しい所狙ってんだろ。てか偏差値だけ見たら俺より上だろうが」


「それはまあ、そうだけど」


そんな話をしているうちにいつもの交差点についた。


「じゃあな明日斗」


「おう、また明日」


俺は健太と別れて家に向かう。


ガサ、ガサガサ


まただ、今日も聞こえる。


道の隣の林の奥からだ。確かあの辺りは無人の神社の方か。


俺は気になって自転車から降りて、林の中に入っていった。


音のした方に近づくと、ゔ、ゔゔという犬の呻き声のようなものも聞こえてきた。


(野良犬でも集まっているのかな)


俺はどんどん音のする方へ近づいていく。そして林を抜けて、神社に出た。


そこにいたのは、犬だ。


確かに犬だ。だが普通の犬ではありえない。


それの大きさは人間の大人の2倍以上はあり、口からは唾液がだらだらと垂れていた。


「え、なんだ、この、犬?」


その巨大な犬はこちらを見付けるとゆっくりとこちらに向かってきた。


犬がこちらをにらむ。俺の身体はまるで金縛りにでもあったのかのように動かなかった。


巨大な犬が目の前までやってくる。犬の吐息が顔にかかる。


(臭い)


ひどい異臭がする。身体の震えが止まらない。


今すぐ逃げなきゃいけないのに身体が動かない。恐怖が身体を支配する。


「グアアア」


巨大な犬がその巨大な口を開ける。牙が、口が近づいてくる。


俺は死を覚悟して目をつぶった。


(ああ、こんなわけのわからない奴に、訳も分からず殺されるのか)


生暖かい液体が身体にかかった。


驚いて目を開けてみると、身体が真っ赤に染まっていた。


噛まれたのかと思ったが痛みは全くない。


恐る恐る顔を上げると、巨大な犬が首から血を噴き出して倒れていた。


「目標の討伐完了」


人の声がする。驚いてそちらに顔を向けるとそこには一人の少女が大きな鎌を持って立っていた。


その鎌からは赤い血が滴っているので、この少女が巨大な犬を倒したのだろう。


「ただ、一般人が一人巻き込まれたわ。ええ、ええ、分かった」


無線で誰かと連絡を取っているのだろうか、誰かとの話が終わった後こちらに歩いてきた。


「貴方、大丈夫?けがはない」


俺はその言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る