第17話 動揺する先輩
「キミ、本当センス無いのね」
「この前感動した気持ち返してください……」
「何言ってるの?」
「なんでもないです……」
信じるとか言っておきながらさっきからアレがダメだとかこれがダメだとかダメ出しし過ぎじゃない? もういっそのこと俺に聞かないで自分で選べばよくないですかね?
理不尽な志保先輩のダメ出しに俺は少しばかり不服を感じていた。でもここで口論した所で雰囲気が悪くなるだけだし、ここはいつものように俺が大人しくなっておくか。
「ってか、まずある程度なにをプレゼントするか決めません? いろんな店に手当たり次第入るより効率いいですから」
「じゃあ何がおすすめ?」
「いや、分からないですけど」
「本当に使えないのね、キミって」
「志保先輩マジ辛辣なんですけど……?」
親にプレゼントとかマジ送ったことないし、なんなら友達とか女の子とかにもないし。強いて言うなら志保先輩にパンあげたくらいだな。
「少しだけ寄り道してもいいかしら?」
「どこ行くんですか?」
「あそこよ」
「あそこ?」
志保先輩が指さした場所にはピンクや黄緑や白や青。色とりどりの下着が並んでいるお店だった。え? 下着? ちょっと志保先輩本気ですか?
「俺、あそこのベンチで待ってるので……」
「何言ってるのかしら? キミも来るのよ」
「俺が行く必要性が分かりません」
「キミの好みの下着を買って付けてあげようと思って」
「志保先輩の好きなのでいいですよ……」
「嫌よ。私はキミの好みの下着を付けたいの。私の好きな人が選んでくれた下着を履きたいの」
「志保先輩ストップストーップ! 分かりました行きますから、行きますからそんな堂々と語らないでください……」
周りにいる人からの視線が痛いんです……こんな公衆の面前で話す内容じゃないでしょこれ……志保先輩が真っすぐなのはもう知ってるけど、今の真っすぐさは完全に間違ってるからな。
俺はその場から逃げるように志保先輩の手を取って店内へと入っていく。できるだけ早く逃げたかったので小走りで志保先輩を引っ張る形で。
店内に入ってしばらくしてから歩みを止めた。あんな羞恥心二度と感じたくはないな。そう思いながら元凶である志保先輩の方を見るとこのわがままプリンセスさん、何故か頬を朱色に染めてるんですが何事でしょうかね?
「志保先輩?」
「キミのくせに……生意気よ。強引に……手を引くなんて」
「え? あ、ごめんなさい」
そう言われて手を放そうとしたが、今度は志保先輩が強く握ってきたので離せなくなる。
「ちょっと、誰が勝手に離していいって言ったの?」
「え? ちょ、え……?」
「し、仕方ないから繋いでてあげるわ。感謝なさい」
「志保先輩、なんかまんざらでもなさそうですけど?」
「ふ、不服だわ。強引になんて……趣味じゃないわ」
「じゃあ悪かったので離しますよ。すみませんでした」
「いいわよ。繋いじゃったならしょうがないし……いいわよ、このままで」
わがままプリンセスはどうやらツンデレプリンセスでもあったらしい。志保先輩が露骨にドキドキしてる雰囲気を醸し出してるせいか、俺自身が割と平気なことに驚いていた。自分が動揺していても自分以上に動揺してる人がいると落ち着くって話はどこかで聞いたことはあった。
こんな女性用下着売り場で会話する内容ではないのは明白だけど、繋がれた手を見ながら志保先輩が優しく微笑んだから、悪い気はしなかった。
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「ねぇ、私汗ばんだりしてないかしら……?」
「大丈夫ですよ。スベスベですから」
「へ、変態……! 実況するんじゃないわよ……」
「えぇ……」
聞いてきたの志保先輩だし、普段からパンツ捲ろうとしたり志保先輩の方がよほど変態だと思うんですけど、そこら辺どうなんでしょうかね?
俺がそう聞くと志保先輩は知らないとそっぽを向くが、俺の手は志保先輩と繋がれたままだった。
兎にも角にも、今はまだ下着売り場にいるし、こんな所で青春ラブコメをしてる場合でもないので本題を戻すことにする。
「ってか、早く決めてここから出ましょう」
「そ、そうだったわね。すっかり忘れてたわ」
「本来の趣旨を忘れないでくださいね? なんなら大本は俺の両親へのプレゼント選びですからね?」
「キミと一緒にいると、何もかも忘れて楽しんでる自分がいるの。良くも悪くも盲目に夢中になってる自分が」
「そうですか」
「だからありがとうね。またキミは私に初めてをくれるんだね」
別になにも志保先輩だけが初めてを経験してる訳じゃない。俺だって女の子と手を繋ぐことは初めてだし、それこそパンツを見せてもらうのだって初めてだ。
半同棲するのも初めてで女の子を家に招くのも両親に紹介するのだって初めての経験だ。どれも新鮮で刺激的で忘れられない経験だった。
だから志保先輩が感謝を述べるのなら俺だって感謝の言葉を述べるべきだ。きっと頑固な志保先輩はそれを認めないだろうけど、俺だって感謝をしてることがたくさんあるってことは知っておいて欲しかった。
「俺の方こそ志保先輩に――」
「この色合いとかどうかしら? パステルピンクで可愛らしいの」
「…………」
「どうかしたの?」
「いえ……なんでもないです」
俺も負けじと感謝の言葉を伝えようとしたけど、志保先輩の中ではもうその話題は終わっていたらしく、本来の目的である下着の品定めをし始めていた。
なんとも言えない感じ、やり切れない思いを抱きながらも、これが志保先輩だからと納得させて落ち着かせる。
「このパステルピンクとパステルグリーンとパステルイエローならどれがいいかしら?」
「どれも似合うと思いますよ」
「真面目に聞いてるのだけど?」
「真面目に答えてますけど……」
「なら、この中で1つ選ぶならどれかしら?」
「パステルイエローですかね」
「やっぱりキミってセンスないのね」
「志保先輩は俺を怒らせたいんですよね? そうなんですよね!?」
「うーん、でもやっぱりキミに選んで貰いたいわね。色だけじゃなくて全体的にね」
「はぁ……もうどうでもいいです」
そう思い俺はとっとと終わらせるべく近くにあった棚から黒い下着を手に取った。丸まっていたからどんな下着かは分からないけど、フリルとかかま付いて普通の下着だろうと思った。
「これがいいです」
「黒ね。キミって中々にえっちなのね」
「何がですか!?」
「まさか黒を選ぶとは思わなかったから」
「もういいからお会計してきちゃってくださいよ」
分かったわと言いながら志保先輩はレジに向かって歩き始めた。っと思ったらすぐに立ち止まってしまった。
「ねぇ……本当にコレでいいの?」
「え?」
もしかして、やっぱり自分が気に入らない色だから変えろってことなのだろうか? いや、だって志保先輩は俺に選んで欲しいって言ったんだし、今更変えるなんて面白くないし、何がなんでもその下着を買ってもらおう。
「それがいいんですよ。好みじゃないからって拒否するのはルール違反ですよ?」
「け、けど……」
「志保先輩は俺に選んで欲しいって言ったんですよね? ならそれにしてくださいよ」
「分かったわ……まさかキミがTバックを選ぶとは……思わなかったわ」
「え?」
「流石の私もこれは……恥ずかしいのだけれど……私に二言はないわ……」
「待って待って嘘です志保先輩冗談です……!」
「キミにはそんな一面もあるのね……把握しておくわ……」
「だから違いますから……違いますからぁ……!」
俺の説得は虚しく志保先輩は俺の選んだTバックを律儀に購入しました。
あぁ、死にたい……
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