第六話「討伐開始」

3日前、あの夜見た配信の映像が頭から離れない。

その男は無事ここに辿り着いたものの今だに部屋に引きこもっていると聞いている。

俺は前に倒したトラムガルムの装備に着替え、集会所へと歩いていく。


~集会所~


「おいあれって……」


「すげぇ……トラムガルムの全身装備持ってるプレイヤーなんて初めて見たぜ」


集会所がざわつき始める。なんだかこういう雰囲気は得意じゃない。

それに自慢する為にこの装備を着ているんじゃない。

現状最も強い装備で行かなきゃ死の可能性すらある任務をこれから受注する為だ。

この初期のステージである『草原』の主、露牙鹿ロウガロクの討伐……こいつを倒さない限り、俺達は一生この『草原』のステージから抜け出す事は出来ないだろう。

そのモンスター、ロウガロクは草原から密林に繋がるエリアに生息しており、草原から密林への門番の様な役割をしているらしい。討伐隊も他のモンスターの討伐の最中、一度乱入してきた為応戦したが、一時撤退を余儀なくされた。

何より一人としてプレイヤーが三ヶ月経っていながらまだ初期のステージすら突破出来ていないのがいい証拠だ。

こいつが門番として存在している以上、俺達は新しいステージで新たな素材を手に入れることさえできない。


そしてそれはこの実験を終わらせることから遠ざかる様な……そんな感じがする。

不確かなものだけど薄々俺……いや他のプレイヤーも感じていることなのかもしれないが、利用規約に書いてあった実験は俺達が能動的に動かなければ終わらない様なものなんじゃないか?

こんな無茶苦茶な事をする奴だ、ただこの世界で平和に暮らして、はい実験終了ですとなる気が全くしない。

そんな想いもあり、ロウガロクの討伐を決めた。

それにロウガロクの素材から現状最も性能の高い太刀が作れるのを鍛冶屋で見つけた。

確かに今までの武器とは一線を画す強さだ。

……まあ倒せればの話だけど

正直いって自信はない。この手のゲームはやり慣れている訳ではないし、今はアクションゲームの感覚でやっていけてはいるが、それが通用するのもいつまでか。

俺は一度座り、装備の身なりを整える。

そういえば過去の配信アーカイブのコメントで気になる情報を見つけた。

このゲームはシリーズの2作品目なのだが、次回作がどんなゲームなのかを確かめる為に前作をやっていたリスナーが俺の配信を見てくれていた様でチャットで教えてくれた事があった。それは襲撃システムと呼ばれるものが前作にあったらしく、一定期間モンスターが討伐されないと広場や集会所などの普通では入ってこない場所にモンスターが襲撃してくるというものだった。

そのリスナーは、前作はソロプレイが中心でソロプレイをしていたのだが、仕事が忙しくなり3日間ほど起動しない日が続いて、結局一週間ほど放置してしまったらしく久しぶりにログインしたら個人ルームでモンスターが肉を食いながら佇んでいて生きた心地がしなかったという。

そして今作にもそれは実装されていると……調べてみた所、嘘ではなかったことも既に確認している。このゲームの運営が逃げ場所など無いとでも言いたいかの様なシステムだ。

もし俺達全員が引き篭もっていたとしたら、個人ルームに侵入してきたモンスターになす術もなく蹂躙されていたかもしれなかったのだ。

ロウガロクの任務を受注しながら、その話を思い出して無性に腹が立ってくる。

あまりにも理不尽なゲームシステムに腹が立っているのか、それともここに監禁した奴に腹が立っているのかはたまた両方か……そんな腹立たしい感情を抑え、集会所を出て『草原』へと行く為、出口へと向かう。


その時、またもや集会所のプレイヤー達がざわつく。


「おい……あれ!」


「おいおい、マジかよ……」


後ろを振り向く。

入り口から入ってきた女プレイヤーは、颯爽と受付嬢の元へと歩いていく。ショートカットの髪に全体的に淡い青色に黒の体毛によって刺繍が施されたワンポイントに入ったあの装備は……トラムガルムの亜種の装備だ。

トラムガルムの中でもナワバリ争いに負け、ストレスから体毛の色が変化した個体がトラムガルム亜種であり、ナワバリ争いに勝ったトラムガルムを夜に食い殺す為、この色になるのだという。

俺が倒したトラムガルムと違い、亜種は体力や攻撃力では原種におとるものの、狡猾な性格をしているらしく不意打ちや死んだふりを頻繁に行う為、討伐は難しいとされてきたがまさか倒してたやつがいるとは……

彼女は身につけた装備の上に1メートルはあるだろう槍を背に抱え、受付嬢に話しかけている。


「すいません、現在その任務は他のプレイヤーが受注しています」


受付嬢が女プレイヤーに言い放つ。


「え?」


女プレイヤーから短く声が放たれ、キョロキョロと周りを見る。そして俺の方を向き、歩いてくる。


「貴方、ロウガロクの討伐に?」


彼女は俺に指を指して問う。


「え?ああ……あんたもか?」


俺は久しぶりの人との会話に少し声が強張る。今まで配信でのリスナーとのチャット応答ぐらいでしかコミュニケーションを取っていなかったせいか妙に緊張する。


「お願い!ロウガロクの討伐、私も連れてってもらってもいいかな?」


彼女は俺に頭を下げ、手の平を合わせ頼み込む。

急な頼みに少し驚いたが、特に断る理由のない為手を組むことにした。


「いいよ。断る理由もないし」


「ありがと!えっと……名前は」


あ、そうだ名前。言うのをすっかり忘れてた。


「ごめんごめん、K1ケーワンっていうプレイヤーネームでやってるんだ、よろしく」


「K1くんね、私のプレイヤーネームはユイ!普通にユイって呼んでね。それじゃよろしく!」


手を差し出され、そのまま握手する。


「いやー、二人で討伐するなんて初めてだから緊張しちゃうよ」


なんか物凄いフレンドリーだな……いやそそっかしいよりかはマシだけど。


「いや、俺も二人での討伐は初めてでさ」


駄弁りながら俺達は『草原』の9番エリアへとへと向かう。

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